ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
王位継承戦争④
直ちに閣僚が集められ会議が開かれる。
テレーゼは集められた1人1人に意見が求めるのだが…。
「ここはプロイセンとは友好関係を維持するべきであり、多少の犠牲はやむを得ません」
「フリードリヒ様のおっしゃる通りにされるのが良いのでは…」
「右に同じ…」
銀髪のカツラに降粉をかけた大臣達の言葉は金太郎飴の様に、どこを取っても変わらない。
(この人達、頭が悪いんじゃないかしら?)
思わずテレーゼは首をかしげてしまう。
「フランツ、貴方はどう思う?」
「僕も大臣達と同じ意見だ。確かにシュレージエンを取られるのは大きな損失だ。豊穣な土地だからね。でも、今オーストリアにはフランスやバイエルン等と戦うだけの体力はあるだろうか」
(ひえ~、フランツ、あんたもかいっ!!)
テレーゼは大声をあげる。
「いけません!プロイセンには家領の一片たりとも渡してはなりません!」
何故、皆分からないのだろう。シュレージエンはキッカケに過ぎないって事を。
今ここでシュレージエンを渡したら、ネズミに齧り取られる様にカリカリと領土は失われていく事が分からないのかしら?とテレーゼはもどかしく思う。
だが、大臣達の考えは、こうだ。
「どうせシュレージエンなんて辺境な土地、取られたって何て事ないさ」
大臣達は、直接自分たちの領地に関係ないからとハナから問題にしていない。
議会は堂々巡りをするばかり
うと、うと、コックリ、コックリ……老人たちの集まりに、眠気を催している大臣もいる。
テレーゼは立ち上がり、ツカツカと窓辺に向かったと思うと、大きく窓を開ける。
ピューッ。寒気が部屋に流れ込む。
「ひーっ。寒っ!!」
「テッ、テレーゼ様、何をなさるんですかっ!!」
「はっ、早く窓を閉めて下さい。老体にはこの寒さが身に堪える…」
大臣達が震え上がる。
「ふふっ、少しは眠気も冷めたかしら?空気がよどんでいる時に良い考えは浮かんでこないわ。さぁ、空気も入れ替えたし、もう一度、皆で考えましょう」
テレーゼは断固とした口調で続ける。
毎日、こんな調子で会議が開かれては閉会する。
ノロノロと会議が進まれる中、シュレージエンはたちまちフリードリヒによって占拠されてしまった。
それだけではない。
皇帝選挙では夫フランツに票を入れて欲しいとヨーロッパ諸侯にテレーゼは根回しをして来たのだが、フランツに票を入れた王は誰か1人としていなかった。
つづく