ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
王位継承戦争③
テレーゼが実践を通して政治を学ばなくてはならなくなる機会は直ぐに訪れた。
「マリアテレジアは大公女に過ぎない。オーストリアの王位にはしかるべき男性が即位するべきである」
カール6世が逝去すると直ぐにフランス王がオーストリアの継承権を巡って叫び声を上げた。
それに習って、ヨーロッパ中の国々からフランスに賛同の声を上げる。
カールがあれだけ多大な犠牲を払って認めさせた相続順位法は、カールの死後直ぐに白紙に戻されたのだった。
中でも、フランスを置いてヨーロッパのどの国より先に、軍隊を進めたのはプロイセン王フリードリヒだった。
「フランツ様!テレーゼ様!プロイセン王フリードリヒ様より親書が届きました」
テレーゼは手紙を受け取る。
思えば、父カール6世が崩御した際、諸外国から誰一人としてお悔やみの手紙を送ってきた王はいなかったが、ただ一人お悔やみの手紙をくれたのだ。
テレーゼは無防備に開封する……が、その顔面はみるみる間に青ざめていく。
「親愛なるオーストリア家の皆さま」という書き出しから始まった手紙には、カール6世が亡くなった今、フランスをはじめとする諸外国ではハプスブルク家が所有する領土を狙っている。昔馴染みの由でそれらの侵略者から守ってやるから、代わりにハプスブルク家の領土の一部を差し出せ。手始めにシュレージエン(現在のポーランド)を頂く、と。
フリードリヒはオーストリアへお悔やみの手紙を書く裏で、早くもハプスブルクの領土を狙って軍隊を進めていたのだった。
手紙には猶予期間が書かれていた。
シュレージエンを手放さなければ戦争だ。
「何ですって!!」テレーゼは怒りに震える。
先祖代々受け継がれたハプスブルクの土地を一片たりとも失わず、そっくりそのまま子の代・孫の代に受け継ぐのが自分の役目だと思っているテレーゼは、当然、プロイセンなどに領地を渡す気など全くない。
つづく