ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
王位継承戦争②
ハプスブルク家の持つ遺産と権力の全てを継承したテレーゼ。
弱冠23歳の若き女王は、翌日から政務に邁進した。
今日も机の上には、請願書や報告書、予算案など様々な書類が山積みされている。
その1つ、1つに丁寧に目を通し、不明な所、改善を要する部分にテレーゼは書き込みをして返す。
「カール様は適当にやり過ごせたのに、テレーゼ様は逐一問いかけてくる…うぜーな!」
「あぁ、全くだ。女の癖に…まぁ、お嬢ちゃんはその内尻尾を巻いて逃げていくさ」
「政治は男の砦。相手にしないのが一番さ」
年老いた大臣達は誰もテレーゼに協力しようとは思わない。
テレーゼが1日中書類と格闘しても、また午後には新しい山が出来上がる。
そこに閣議が入り、大臣や外国の大使との謁見etc……これでは、24時間では到底たりない。
テレーゼは早速タウロカを読んで早急に時間割を作らせた。
朝8時起床、12時から2時間休憩…
「8時起床ですって⁈こんなにノンビリしていられないわっ!」テレーゼは赤インクで×を付け書き直す。
朝6時起床(夏季5時起床) 昼1時より1時間休憩…
「テレーゼ様!これでは働き過ぎです。」
タウロカが女王の身体を心配して抗議の声を上げる。
「大丈夫よ、体力が余って仕方がないくらいだわ!1日が30時間あったら良かったのに…。」
テレーゼにはいくら時間があっても足りなかった。
まず、この宮廷では何をするにもスローなのだ。
誰か人を呼ぶにも、何人もの侍従を介してではないと本人に伝わらない。
そればかりか、大事な事柄はフランツに伝えられる。
テレーゼの怒りは爆発する。
何故なら、実を取るテレーゼと違い、この宮廷の大臣達は体裁を機にするからだった。
(何故、大切な事は私の耳に入らないのだろう?何故、先にフランツにだけ知らされるの?私達は共同統治者なのに…。確かにフランツは皇帝だけど、ハプスブルクの後継者はこの私だわ‼︎)
女と言うだけで全てが自分を無視して通り過ぎて行く。
そう、テレーゼは形式的に報告をされるだけなのだ。
とうとうテレーゼの怒りは爆発する。
「ハプスブルクの後継者はこのわたくしですっ!国王は2人いりませんっ!!」
そして、
何よりテレーゼは政治を学ばなければならなかった。
父カール6世は「政治はあくまでも男のやる事」、例え継承者でもテレーゼに政治をやらせる気は毛頭なかった。
その為、テレーゼに帝王学を学ばせる機会を与えられなかったのだ。
幸い、テレーゼの母は知性のある女性だった為、父カールの存命中に、テレーゼは母や家庭教師達といった女性達が集まる場では政治や外国の情勢について学び、意見を交わし合う事が出来た。
しかし…それだけでは到底足りない。
テレーゼには実践がないからだ。
フランツはロートリンゲン公時代、ヨーロッパを回り実際に外国を見、王に謁見し、その国民がどのような気持ちでいるのか目にしているが、自分にはそれが無い。
新婚時代、フランツと一緒に新聞を読み、分からない箇所はフランツに教えて貰う事で補っていただけ。
テレーゼは大臣達に教えを乞う
「誰か私に政治を教えてくれませんか?」
しかし、大臣達は重い腰を上げようとはしない。
「前の殿様は「良きに計らえ」で済んだのに、女の癖に煩いなぁ」
「いや何、その内お嬢ちゃんはしっぽを巻いて逃げていくさ」
の~んびりとした習慣に慣れ親しんできた大臣達は、高級を貪るだけで宮廷の事など何も考えてはいなかったのだった。
つづく