ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
王位継承戦争①
その日は突然やって来た。
この日も政務もそこそこに従者を従えて、カール6世は鹿狩りを楽しんでいた。
が……
数頭の鹿を仕留め気分上々のカールに、突然、悪寒が襲った。
見るみる内に、血の気が失せ顔面蒼白になり、意識が朦朧となる。
当然、狩りは中止されカールは宮殿に運ばれた。
「パパは?フランツ、パパはどうなの?」
「良くない。昏睡状態が続いてる。医師団も原因が分からないらしい」
カールの病室に入れたのは、フランツの他、帝妃クリスティーネと妹のマリアンネ。
懐妊していたテレーゼは精神的にも身体的にも障る事を考慮し、病室に入る事が出来なかった。
心臓発作を起こして4日後、カールはあっけなく世を去ってしまった。
「パパーっ!!」テレーゼは泣き崩れる。
別室では、早くも慣例に習って侍医達によって遺体から脳・心臓・舌等が取り出され、それぞれカプチーナ教会、シュテファン大聖堂等に運ばれる。
その後、カールの遺体には防腐処理が施され、錦糸が縫い込まれた豪奢な赤いローブが着せらる。
皇帝の亡骸の横には、ハンガリー王冠やベーメン王冠を始めとする、統治国の王冠や杖が置かれ、悲しい死の床には不似合いな生前の威光が漂っていた。
皇帝の死から数時間後。
テレーゼは広大なる国土の継承者として宣誓し、国民の平和と国家の安寧の為に全生涯を国家に捧げる事を演説をする。
テレーゼの人生の中の尤も美しい時間は終わりを告げた。
カール6世の死を境に、神聖ローマ帝国ハプスブルクというガラスの塔は、1片、また1片と崩れ落ち始めていた。
やがて美しい塔は音を立てて崩れ落ちるだろう。
つづく