大公女テレーゼの結婚⑥ | Salon.de.Yからの贈りもの〜大事な事は全てお姫様達が教えてくれた。毎日を豊かに生きるコツ

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元ワイン講師であり歴史家。テーブルデコレーションを習いに行った筈が、フランス貴族に伝わる伝統の作法を習う事になったのを機に、お姫様目線で歴史を考察し、現代女性の生きるヒントを綴ったブログ。また宝石や精神性を高め人生の波に乗る生き方を提唱しています。

ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」

大公女テレーゼの結婚⑥

 

 

夕方6時。式は始まった。

 

パールや宝石が散りばめられた眩いばかりの婚礼衣装に身を包んだテレーゼは、花嫁のローブの裾を持つ栄誉ある役を幼い頃からずっと彼女を養育してきたシャルロッテ・フクス伯爵夫人 通称フクスィンに頼んだ。

 

フクスィンはいつだってテレーゼとフランツの味方だったから。

 

結婚前、テレーゼは大公女と言う立場上、フランツと2人きりで会う事は出来なかった。


いつも控えの者が2人の側で待機していたのだが、フクスィンが当番に当たる時は、いつも片目をつぶって、2人きりになるのを許してくれていた。

 

荘厳な空気の中、「とこ永遠に・・・・」テレーゼとフランツは変わらぬ愛を誓う。

 

1年も経たず、テレーゼは第一子を出産する。

 

テレーゼは20年(長子と末っ子の年齢差より換算)に亘って、フランツとの間に16人の子供を設ける事になる。

そのうち成人まで生き残るのは女の子6人、男の子4人の10人。

 

テレーゼの子供達の1人で、女の子としては末の娘、兄弟全体としては下から2番目の大公女が、フランス革命で革命の露と消えるマリー・アントーニア(マリー・アントワネット)である。

 

新婚のテレーゼは至極幸福だった。

 

ただ1つ、テレーゼの心を曇らせる事があるとすれば、それは男児継承者を産む事である。

 

テレーゼには男の子を生む事が期待されていた。

「男児誕生」こそ帝妃の至上命令ではある。

 

カール6世に男児が生まれなかっただけにテレーゼに重圧がかかる。

 

このままではハプスブルクは取り潰されてしまう。

 

しかし、テレーゼに女の子は生まれなかった。


最初の出産から立続けに女ばかり3人を生み落したのだった。

 

最初の出産の時はカールも周りから「御祖父ちゃん」と言われ、多少目じりが下がったものの、3人目も女となるとカールは娘の病室に行く気も起こらなかった。

 

「また、女か!あぁ---っ、我がハプスブルク家は呪われているのかーっ!!なんで女しか生まれて来ないんだよぉ~」カールは落胆して頭を抱える。

 

テレーゼは病室で泣いていた。

 

それは決して生まれて来た子が女の子ばかりだったからではない。

テレーゼにとって生まれて来る子は男でも女でも変わりなく、愛おしい存在だ。

 

テレーゼが泣いていたのは、ウィーンの市民の怒りの矛先が全てフランツに向いている事だった。

 

ウィーンの街では「フランツ様には男の子を授かる能力が無いんじゃないのか?」とか「婿さんはフランスのスパイでわざと女しか生ませない様にしているだ」等と、とんでもない噂が飛び交う。

 

どうやらフランス王の陰謀らしい。

ルイの放ったスパイがウィーンっ子にお金を掴ませ、ある事ない事を言い降らせているらしい。

 

「フランツは出ていけ!!

「よそ者は出てけ!」と、日増しに、フランツに対する風当たりが強くなる。

 

心無いウィーンっ子の叫びはテレーゼの耳にも入る。

 

「なんて酷い事を・・・・」テレーゼは自分と結婚したばかりに、新婚早々、愛するフランツルに辛い思いをさせてしまっている事に泣いていたのだ。

 

「僕は大丈夫さ。ほら、レースル泣かないで!」物事を悪い方に捉えないフランツは左程気にも留めていない様だった。

 

フランツのこの鷹揚な性格と言うか、人の良さはヨーロッパ中の諸侯からも好かれていた。

 

「あぁ、フランツか。アイツはいい奴だよね」それがフランツの評判だった。

ハプスブルク家を嫌う者はいてもフランツを嫌う者は誰もいなかった。

 

テレーゼも近い未来に待っている過酷な生涯の中、フランツがこの様な暢気な性格だからこそ、支えられ生き抜いていく事になる。

 

大公女テレーゼの結婚・完