大公女テレーゼの結婚⑤ | Salon.de.Yからの贈りもの〜大事な事は全てお姫様達が教えてくれた。毎日を豊かに生きるコツ

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元ワイン講師であり歴史家。テーブルデコレーションを習いに行った筈が、フランス貴族に伝わる伝統の作法を習う事になったのを機に、お姫様目線で歴史を考察し、現代女性の生きるヒントを綴ったブログ。また宝石や精神性を高め人生の波に乗る生き方を提唱しています。

ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」

大公女テレーゼの結婚⑤

 

 

宮廷の職員たちは大わらわだ。


何しろ、皇帝は出来る限り節約をしつつ、過去の慣例に従って威厳ある結婚式となる様執り行えとのご命令だ。

 

「これじゃ、結婚式まで間に合わないぞ」

「ぴえーん、今日も残業?」

「しょうがないだろう、格式重視で豪華にやらなきゃいけないのに、予算が大幅にけずられているんだ!」

「ねえ、ねぇ、残業代…出ないよね?きっと」

「トーゼンだろ‼︎」

一同「ぴえーん」

 

宮廷式部官は宮廷儀式の記録を参考に、皇帝の意向に沿った式を遂行する様大騒ぎだった。

 

一方、結婚式が待ち遠しいテレーゼとフランツ。

 

フランツはオーストリアに向けて旅立つ旅の途中でも、テレーゼに手紙を送るのを欠かさない。

 

フランツとテレーゼは昼夜を空けず、手紙を介してお互いの近況と想いを伝えあう。

ウィーンとロートリンゲンの間を、何度熱烈なラブレターが往復した事だろう。

 

かくして1736年2月12日、日曜日。

 

多くの賓客や宮廷人、家族に見守られ、王宮の棟続きにあるアウグスティーナ教会でテレーゼとフランツ・シュテファン・フォン・ロートリンゲンは結婚する。

 

マリアテレジア19歳、フランツ・シュテファン23歳。

出会いから14年。大公女の初恋が実を結んだのだった。

 

余談だが、テレーゼとの結婚に際して、美食家のフランツは故郷から料理人を連れて来た。それによって、ハプスブルク家にフランス風のお菓子や料理が入って来たばかりか、それまではあまりパッとしなかったハプスブルク家の酒庫にブルゴーニュのワインが潤う様になる。

 

控えの間では、沢山の真珠やダイヤを縫い付けた眩いばかりのウェディングドレスを身に付けたテレーゼが家族と共に寛いでいる。

 

「わぁ、レースル綺麗だっ!!

美しいモノを愛するフランツは、美貌の大公女を獲得して誇らしげだ。

 

「ふふ・・・有難う、フランツル。フランツル、貴方も・・・って言いたいところだけど、何だか厳めしい格好ねぇ」

 

テレーゼが「この人、いつの時代?」と思ったのも無理もない。

フランツは、ブロンドのかつらの上に純白のダチョウの羽がはためいている帽子を冠り、銀の綱目がついた踵の赤い白いハイヒールと言う、宮廷儀典に則り、古式厳めしい服装をさせられていた。

 

フランツはお洒落だった。

そのフランツがこんなヘンテコリンな格好をさせられているのが可笑しくて、テレーゼは笑いを堪えるのが精一杯である。

 

「レースルもそう思うだろ?僕もそう思ってさ、支度の間で思わず言っちゃったんだ「何だかバレエのダンサーみたいだね」って。そしたら、ストラソルド伯爵に睨まれちゃった」

 

フランツの例えが妙に的を得ているのが可笑しいのと同時に、普段からしょげた様な顔つきの侍従ストラソルドが失望の色を漂わせている図が浮かび、テレーゼは堪えきれずに噴き出してしまう。

 

「あの人は鈍感だから、フランツルが照れ隠しに言っている事が分かってないのよ。気にしなくていいわ」とテレーゼは慰める。

そう、自分は、どんな時でもユーモアを忘れないフランツのこう言う所が好きなのだ。

 

(大丈夫、この人となら何が起こっても越えて行ける!)

 

つづく