ラノベ「双頭の鷲-ハプスブルク家物語-」
フランス王との対決⑦
フランスに渡って10年。
12歳となり床入れ間近だったマルガレーテは、女官から自分はフランス王妃になれないと告げられた。
虚弱でブヨブヨ太った醜いシャルルの事を愛していたかと言えば決してそうではない。
だか、王家の子に生まれたからには、何より国家の都合が優先され、個人的な理由は何であれ考慮されないとアンヌ・ボージュから教育されていたマルガレーテは、自分は裏切られたという感情が溢れだした。
「愛するパパ
早く家に帰りたい‼︎ この間もアンヌはシャルルを連れて私の顔を見に来たの。勝ち誇った様に笑いながら、私の事を馬鹿にして帰ったわ。シャルルは後で謝りに来たけど…こんな屈辱的な所に居たくない」
マルガレーテは涙ながらに「一刻も早く故郷に帰りたい」と父に手紙を送った。
だが…
この予想外の結婚でフランス宮廷に居場所を失ったマルガレーテを、シャルルはブルゴーニュの宮廷に帰そうとは思っていなかった。
このまま人質としてフランスのどこかの貴族の息子と結婚させてしまうと考えていたのだった。
さすがに蜘蛛の異名ととったルイ11世の子供達だ。
アンヌ・ボージュにしてもシャルルにしても奸智に長けている。
一方、マクシミリアンは…
「あのデブヤロー、うちのマルガレーテをコケにしやがって。」と憤怒やる方ない。
「マックス様、この場合デブかどうかは関係ないないかと…。それに昨今ではセクハラに当たります」
「うっせーわ! こうなったら1日も早くマルガレーテを取り返せねば!」
これまで散々フランスの策略に振り回されてきたマクシミリアンは、フランス宮廷はこのままタダでは終わらせないだろうとマルガレーテの身を案じた。
さて、
ノルマンディー公女との結婚が頓挫した今、マクシミリアンの結婚問題は振り出しに戻った。
熱りも冷めたある日の事、マクシミリアンは家臣を前に、ある計画を告げる。
「先の結婚では皆には心配をかけたが、私マクシミリアンは再び再婚しようと思う」
「ほう、それはおめでとうございます。して、相手はどこの公女でございますか?」
「聞きたい?教えてあげよっか?」
「勿体ぶらずに教えて下さいませ。(この人、こう言う所がお茶目なんだよなぁ、ったく)
さあ、花嫁は何処ぞの姫でございましょう」
「うむ、よぉ〜く聞けよ、ミラノのスフォルツァ家の公女、ヴィアンカだ」
「え“えーっ!ミラノォ⁈ あのイル・モーロの一族ですか⁈」
「反対-っ!! 絶対に、ずぇったい反対―っ!! なぁ、皆」
「うん」「うん」「うん」…
「なっ、何をそこまで反対する。イタリアだぞ!イタリア!」
「陛下何を血迷った事を!身分違いにも程があり過ぎますっ!! ハプスブルクは貴賤結婚を許す程落ちぶれてはおりませんぞ‼︎」
そう、ミラノのスフォルツァ家と言えば今でこそミラノ公国の領主であるが、つい2、3 代前に傭兵隊長から侯爵になった成り上がり者だった。
特に現当主のロドリゴ・スフォルツァはイル・モーロの渾名で知られる程、得体の知れない怪物と思われていたのだった。
そのイル・モーロの姪と結婚するとは…。
いくら、巨額の婚資が見込まれると言え、そこまで落ちぶれちゃないぞ!と言うのがハプスブル宮廷の意見だった。
「この結婚に反対の人―っ!」
「はーいっ」「はーいっ」「はーいっ」
(うっ…こぞって反対しやがって)
「じゃ、この結婚に賛成の人―っ、はーい」と手を挙げるのはマクシミリアンただ一人。
(なんだいっ、なんだいっ、みんな揃って。いじけてやる~)
「あぁ、いじけちゃったよ…。で、陛下、何故にイタリア女なんかを?」
「ふん、何も私だって金欲しさにミラノ公女と結婚しょうとは思ってないわっ!良ぉく聞けよ、この壮大な秘策を…」
マクシミリアンは、イタリア覇権の足掛かりとして先ずはミラノを手にしようという壮大な計画を話す。
「ほう、陛下がそれ程迄に壮大な計画を立てていたとは…。失礼致しました。私共はてっきり持参金額目当てかと…」
「分かればいいさ、分かれば。それに…」
「それに?」
「ほら、僕ちゃんローマ王じゃん?イタリアに行って教皇自ら冠を授かり「皇帝」になりたい訳よ。皇帝冠なんて被ってみたいじゃない?それに皆も皇帝の家臣って呼ばれたくない?」
「別に…」
(えっ?!)
「皇帝だぞ、コ・ウ・テ・イ‼︎ ローマ王とは箔が違うだろ、箔がっ!」
「ふーん、そ…。」
「そ。…ってか、つべこべ言うな。ミラノとの結婚は決定事項。以上‼︎」
…とまぁ、擦ったもんだの挙句、何とかイタリアへ勢力を伸ばしたいと言う意思が、スフォルツァ家との結婚を動かした。
だがしかし、どうやらこの結婚は見込み違いだったようだ。
つづく
次回はフランス王との対決最終回…えっ?「やっと」だって⁈
果たして、マルガレーテちゃんは帰って来るのか?