ラノベ「双頭の鷲-ハプスブルク家物語-」
フランス王との対決⑥
アンヌとマクシミリアンの結婚話はあっと言う間に纏まり、結婚の運びとなった。
王家の子女の結婚の場合、長い道中、無事に相手の元に辿り着く保証は無い。
いつ山賊に襲われるか、または敵国の兵士やスパイに捕まか分からなかった。
途中で襲われ、殺されでもしたら、折角、結婚から得られる利益が水の泡となる。
その為、花婿の代理人を新婦の元に送り代理結婚を行ってから、改めて結婚式を挙げるのが習わしだった。
折しもその頃、ローマ王となり帝国領を継承したマクシミリアンは、ハンガリーをはじめとする東方問題も引き継ぐ形となり、ハンガリーとの交渉に奔走していた。
そこで親友である腹心の部下をノルマンディーに派遣し代理結婚を済ませた。
ところが、このノルマンディー公女との結婚が思わぬところで白紙になってしまったばかりか、マルガレーテの運命迄をも動かす事になる。
代理結婚は無事に済んだのだが、優秀なスパイを各地に放っていたフランス王家にノルマンディ公女とマクシミリアンの結婚情報が洩れてしまったのだ。
慌てたのがフランス宮廷だ。
ノルマンディーの領地がブルゴーニュに帰属されては、フランス王国はイギリス・スペイン・ハプスブルクに挟み撃ちにされてしまう。
ルイ11世没後、若き王となったシャルルは「絶対絶命じゃねーか!」と狼狽えてしまう。
「姉ーさん、姉ーさん、大変だ!大変だよぉ。フランスの一大事だ‼︎」
「ったく、なんなのよっ、煩いわね!」
「マクシミリアンが…ハプスブルクがノルマンディー公女と再婚したらしい‼︎ これじゃ四面楚歌だ」
そこへ割って入ったのが姉アンヌ・ボージュである。
「私に良い考えがあるわ。シャルル、貴方がノルマンディー公女と結婚をすれば良いのよ」
「えっ、姉さん。結婚って…。公女は既にマクシミリアンと結婚しているし、それに何といっても僕もマルガレーテと結婚しているじゃないか⁈
マルガレーテちゃん魅力的だし…離婚するのは惜しいんですけどぉ…いや、そんなバヤイじゃない!どう考えても無理だ!フランスは破滅だぁぁ~」
「落ち着きなさい、みっともない。いい?! 私にまかせなさいっ‼︎」
「任せますっ‼︎」
…と言うことで、遣り手のアンヌ・ボージュは時のローマ教皇インノケンティウス8世に巨額の袖の下を掴ませて、2つの結婚を無効とさせてしまった。
これじゃ神も仏もあったもんじゃない…と言っても時すでに遅しで、なんとか独身の身となったフランス王シャルルはノルマンディ公女を脅して結婚に持ち込もうとした。
シャルルは、アンヌに公国を出ていくか、フランス王妃になるかと2者選択を迫った。
これは勝ち目が無いと悟ったアンヌの腹心の従者達は、1人、2人とアンヌにフランス王との結婚を承諾するよう働き始めた。
「公女様、悪い事は言いませんから、ここは大人しくフランス王妃になられると良いかと…」
「そうですよ、意地を張って国を盗られでもしたら、行く宛もありませんよ。どうか国の為にも
…」
だが、アンヌはいつかきっとマクシミリアンが助けに来てくれる筈だ、と諦めなかった。
「イヤよ!私は皇妃になったのだから…。それに、亡くなった前の奥様だって、あわやと言うところをマクシミリアン様が助けに来たって言うじゃない!」
アンヌは、早く助けに来てくれるよう夫マクシミリアンに何通もの手紙を送った。
しかし…
奇跡は二度起こらなかった。
マクシミリアンの元に手紙は届いていたが、帝国の東方問題に掛かり切りになり、マクシミリアンはどうにも身動きが取れなかったのだ。
そればかりか、マクシミリアンが軍を結成し、フランスと一戦を交えようとしたが、帝国の領主達は、またもや「これはブルゴーニュのお家騒動」と見なし、自分たちには関係ないという姿勢を貫いた。
もうお分かりかと思うが、マクシミリアンの統治は生涯を通して、領地の内乱の鎮静とフランスとの戦いに追われる事になる。
「公女様、残念ですが、これまででございます。どうか、マクシミリアン様の事は諦め下さいませ。これは国事でございます。」
とうとうマクシミリアンからの助けは来ないと悟ったアンヌは、フランス王妃の道を選ばざるを得なくなった。
フランス王シャルルとノルマンディー公女アンヌとの結婚を知らされたマクシミリアンは、妻を奪われた男として、ヨーロッパ全土に赤っ恥をさらす事となる。
つづく