ラノベ「双頭の鷲-ハプスブルク家物語-」
フランス王との対決⑤
マクシミリアンは11年ぶりに故郷に戻り、ローマ王として戴冠式に臨んだ。
若き皇帝の誕生だ。
「ローマ王」と「皇帝」
実にややこしい呼び方だが、ローマ王と皇帝では、職務も権限も一致する。
ただ、皇帝とはローマ王がイタリアに馳せ参じ、ローマ教皇自らの手で王冠を被せられて初めて皇帝と名乗る事が出来る。
ただそれだけの違いで、ローマ王と皇帝では名実共に何の替りもないのだ。
さて…
皇帝がいつまでも独身でいるのは身持ちが悪い。ましてやマクシミリアンはまだ26歳の若さ…となると俄かに持ち上がるのは再婚問題である。
マクシミリアンは再婚の意を固めた。
しかし、それは偏にブルゴーニュ公国とハプスブルクと言う両国家の為であり、そこに個人の感情が入る事は無かった。
それを冷徹と言えば冷徹かもしれないが、代々、王家の人間の結婚とは国同士の結びつきであって、「愛」と言う個人的感情など考慮される余地などは無かった。
王族ネットワークは皆兄弟。
現代の感覚で言えば、お見合いに近かったのだろう。
当の本人達も「そんなもの」として、政略結婚を当たり前のものとしていたのだ。
マクシミリアンとマリアの結婚も同様だったが、運よくと言うのか、2人の場合は愛情が生まれ育まれたに過ぎなかった。
それでもマクシミリアンは、生涯を通して愛した女性は母エレオノーレとマリアだけだった。
さて、マクシミリアンの再婚相手としてノルマンディー公国の公女アンヌが最有力候補とされた。
ノルマンディーは海を隔てて目と鼻の先という地の利を生かして、イギリスと同盟を結び貿易で栄えていた。
また、ノルマンディーの広大な領地はフランス王国と隣接している。
ブルゴーニュ公国の同盟先のスペインもフランスと隣接している為、公国領であるフランドル、ノルマンディー、スペインと三方からフランスを攻め込むのには最高の条件だったのである。
折しもノルマンディー公国の君主が没し、家臣の後押しを受けながら、12歳になるアンヌが公国を統治しており、その婚資は莫大な金額が見込まれた。
マクシミリアンは公女がもたらす莫大な婚資に目を付けた。
そこで極秘裏に家臣を送り、縁談を進める事にしたのだった。
一方ノルマンディのアンヌもこの結婚に乗り気だった。
アンヌは聡明で、若いながら政治能力のある姫君だった。
足が少し不自由だったが、豊かな婚資に惹かれて彼女を射止めようとする若者は公国内外を問わず後を絶たなかった。
しかし、アンヌは気位が高く、どれだけ眉目秀麗な貴公子でも首を縦に振らなかったのだ。
そこへ来て、ヨーロッパ全土にその名を轟かせる皇帝からのプロポーズ。
マクシミリアンの評判は聞いていたし、ブロンドで碧眼、鼻梁が高い、すらっとした長身のプリンスを夫に出来ると思うとアンヌは夢心地となった。
つづく