ラノベ「双頭の鷲-ハプスブルク家物語-」
フランス王との対決⑧
いざ結婚をしてみるとヴィアンカとマクシミリアンの間には共通する意思が何も無かった。
マリアの結婚の時と同様、最初の頃、マクシミリアンはイタリア語を話せなかったが、瞬く間にマクシミリアンはイタリア語を習得していった。
しかし、
「ヴィアンカ、イタリア語だけではこの宮廷では不自由じゃないかい?折角なんだからドイツ語を覚えたら?話し相手が増えるよ」
「結構です‼︎ ラテン語とイタリア語で大体の事は済むんですから。ドイツ語もフラマン語も大っキライ!」
「あっそ…」
…と剣もほろろに、マクシミリアンがどんなにフラマン語やドイツ語を教えようとしてもヴィアンカは母国語以外を話そうとはしなかった。
また、マクシミリアンとマリアは文学や伝記・歴史など文学について語り合ったり、乗馬や狩猟などのスポーツと言った共通の趣味を通してお互いを受け入れて行ったものだった。
しかし…
「ヴィアンカ、君の国の歴史を聞かせてくれないかい?少しは君の事が理解出来ると思うんだ。」
「歴史?興味ないわ。私は、ミラノにいた時の様に、毎夜、舞踏会やお芝居が観たいの。話を聞きたいならファッションの事ならイイわよ。あっ、それから、アナタの好きな狩には絶対に行きませんからねっ!」
…と、この様に、ヴィアンカにはマリアの様に共に歩もうとする姿勢は一度としてなかった。
政略結婚とは言え、それでも時が何かしら繋がりをもたらすとマクシミリアンは期待していたが、気位ばかり高く歩み寄りのない新妻にマクシミリアンの心はすこしずつ遠のいていった。
そして、決定打となったのは、ヴィアンカに出産能力が無いと分かった事だった。
マクシミリアンには嗣子がいるとは言え、フィリップ1人だけでは心許ない。
あと2、3人男の子が入れば国家繁栄の駒は増えるであろうに、子供が望めないとあれば、あれ程反対を押しきって皇妃に迎えたのに、何の役にも立たないではないか⁈
宮廷に馴染もうとせず、孤立したヴィアンカはこの見知らぬ土地で寂しい生涯を送る事となる。
「陛下…あの公女はマリア姫様とは似ても似つきませんな。マリア姫様は本当に良いお人でしたなぁ」
「あぁ。マリアといるのは時間を忘れる位楽しかった。私はもう誰も愛する事はないだろうな。」
マクシミリアンはこの後もマリアだけを愛しヴィアンカに見向きもしなくなった。
しかし、この間、マクシミリアンは自分の再婚問題にばかりかまけていた訳ではない。
過去の経験から、帝国内の諸侯達はアテにならないと見限ったまは、スペインのアラゴン王フェルディナントに援助を要請し、フランスと和議を結びマルガレーテをフランドルの宮廷に戻す事に成功した。
やがて、マルガレーテは数百人の扈従を従えて、10数年ぶりに故郷の地を踏んだ。
「マルガレーテっ‼︎」
「兄さん!」
「マルガレーテ見違えたよ。フランスに連れて行かれた時は、まだ3歳だったもんな」
残念ながら、父マクシミリアンは帝国内の雑務に追われマルガレーテを迎える事は出来なかったが、離れていても仲の良かった兄と妹は、必至と抱き合い、再会を喜んだ。
フランス王との対決・完