ラノベ「双頭の鷲-ハプスブルク家物語-」
フランス王との対決③
フィリップとの再会を果たしたマクシミリアンだが、愛娘のマルガレーテがその場には居なかった。
マクシミリアンがいない間にマルガレーテは拉致同様にフランスに連れ去られ、11歳になる王太子シャルルと結婚させられていた。
公国の主だった領主達はマルガレーテを高貴な人質として、高値で売付け先としてフランス王ルイ11世とフランスに嫁がせる契約を履行していたのだ。
幼いマルガレーテは何が起こっているのか理解出来ていなかったのが不幸中の幸いと言ったところだろう。
「汝は生涯、夫婦として変わらぬ愛を誓うか」
「はいっ」
「はいっ」
こうして、11歳の新郎と3歳の新婦と言う、小さなカップルが誕生した。
とは言え、当然の事ながら年齢的にも実質的な結婚はまだまだ無理。
マルガレーテは結婚に相応しい年齢になるまで、ルイ11世の娘であり、王太子の年の離れた姉にあたるアンヌ・ボージュの元でフランス王妃に相応しい教育をされる事になった。
アンヌ・ボージュは政治的にも中々の遣り手で女丈夫といった存在だった。
フランスはロワールにあるアンブロワーズ城で王家の子女達の為の教育を行っていた。
そこでは、将来王座に就くであろう子供たちに必要な教養の他、音楽や美術、文学と言った芸術に関する教育や社交術に至るまで、最高の教育が施されていた為、名のある王家の親たちはこぞって子供達をアンヌ・ボージュの元に預けたのだった。
しかし
子供達にとってアンヌ・ボージュは決して親の愛情の替りになるような女性ではなかった。
聡明で賢く、政治手腕卓越な女性ではあるが、反面冷徹で子供達には非常に厳しかった。
その日に習った事が理解出来なかったり、課題が出来ない子供には容赦なく罰した為、隠れて泣く子も多かった。
しかし…
その様な環境の中でも、マルガレーテは本来の明るさを失わなかった。
はじめの内はフランス語が分からず、話しかけられてもマルガレーテは何を言っているのか理解が出来なかった。
しかし、フランス語を覚え始め、マルガレーテが心に浮かんだ事を話しかけ様になると、マルガレーテに仕える多くの女官達は、この愛くるしい少女の虜になってしまったのだった。
そればかりが、アンヌ・ボージュにも気さくに冗談を言うと、普段は笑みを浮かべることのないアンヌの心さえ掴んでしまった。
こうして利発なマルガレーテはアンヌ・ボージュの一番のお気に入りになり、アンヌは外出をする時にはマルガレーテを連れて行く様になる。
やがて、マルガレーテは小さなお姫様として、この小さな世界の人気者となっていた。
つづく