ラノベ「双頭の鷲-ハプスブルク家物語-」
フランス王との対決①
一時は退却を止む無かったマクシミリアンだが、その胸中は屈辱感と絶対に子供たちを取り返すという気持ちでいっぱいだった。
ブルゴーニュの宮廷を追われたマクシミリアンには、ウィーンから随従した従者の他には莫大な借金しか残っていなかった。
ヨーロッパ一裕福と言われたブルゴーニュ公国だったが、その資産の殆どが不動産や美術品と言った直ぐに現金化出来るものではなかった。
マクシミリアンも金銭に関しては鷹揚だが、産まれた時から裕福なマリアは、お金に関しては根っからの無頓着で、国庫には殆ど現金が無かったのである。
「うっ…、あのテーブルに並んだ山海の珍味の数々や、目覚めると毎日の様に枕元にあったマリアからの豪華な贈り物のツケがこれかーいっ」
無邪気に喜んだ自分がアホに感じてしまう。
しかし、マクシミリアンはどんな苦境に陥っても忍耐強く機が熟すのを待ち、どん底にいても笑みを絶やすことはなかった。
この忍耐強さこそ、皇帝フリードリヒが唯一マクシミリアンに与えた長所であった。
そしてマクシミリアンは父親譲りの忍耐強さに加えて、不撓不屈の精神で自ら掲げた理想に向かって前進する勇気、武人として必要な判断力や統率力、そして誰からも愛される親しみやすさを兼ね備えていた。
その為マクシミリアンの配下に就いた者達は、心からマクシミリアンへの忠誠を誓った。
先ず、この戦いに立ち向かう為の軍資金を集める為、マクシミリアンは神聖ローマ帝国領内の諸都市に軍や資金の援助を求めた。
しかし…
諸侯達はマクシミリアンの窮状を「公国のお家騒動」と見なし、主だった領主は誰も皇帝の息子に援助する事を渋った。
そこで、マクシミリアンはイギリスとスペインに働きかけ、同盟を結ぶことに成功した。
程なくしてマクシミリアンは軍を集め、公国諸都市の反乱軍を鎮圧する事に成功する。
この時ばかりはいつも温和なマクシミリアンの気性とは違い、反乱の首謀者には厳しい罰を与え、これまで与えられていた特権を公国に帰属させたと言う。
つづく