退却③ | Salon.de.Yからの贈りもの〜大事な事は全てお姫様達が教えてくれた。毎日を豊かに生きるコツ

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元ワイン講師であり歴史家。テーブルデコレーションを習いに行った筈が、フランス貴族に伝わる伝統の作法を習う事になったのを機に、お姫様目線で歴史を考察し、現代女性の生きるヒントを綴ったブログ。また宝石や精神性を高め人生の波に乗る生き方を提唱しています。

ラノベ「双頭の鷲ーハプスブルク家物語ー」

退却③



このお家騒動に便乗してフランス王は巧みな罠を仕掛けた。

 

その罠とは公国の主だった領主達を担いで、マクシミリアンに公国の相続を放棄させ、手始めに公国の一部をフランスの領土にする事。

ゆくゆくは公国全てがフランスモノになるのだから、そう焦る必要はあるまい。

 

フランス王の罠とも知らずにいるフランドルの領主達はフランス王と、まだ2歳のマルガレーテと11歳のフランス王太子シャルル(後のシャルル8世)を結婚させる契約を勝手に結んでしまった。

 

その契約書には

 

1.マルガレーテは婚資として、フランシュ・コンテ、アルトワ、シャロレ―他をフランスにもたらす事。

2.この領地はシャルルとマルガレーテの間に嗣子がなければ、フィリップに帰属する。

3.もしフィリップにも嗣子が無ければ、フィリップの死後はフランス領になる。

 

と言う内容だった。

 

フランスとの極秘契約が纏まった今、次はマクシミリアンに国内から出ていって貰うだけだ。

 

公国の領主達はマクシミリアンからフィリップの後見人と言う立場を剥奪し、愛児フィリップとマルガレーテを置いてさっさと公国から出て行く様、公国での権利の全てを放棄させる書類をマクシミリアンに突き付けた。

 

自分がまんまとフランス王の罠にハマってしまった事に気付かされていたマクシミリアンは、仕方なく権利放棄の書類にサインをさせられ、一時退却をする事となった。

 

その結果、フィリップとマルガレーテは人質としてネーデルラントに留めおかれ、国民の所有物として扱われる事となり、諸都市の代表による議会で、2人の子供の処遇が決まるまで、彼らの身柄はマリアの継母、つまり2人の義祖母にあたるマルガレーテ・フォン・ヨークの下で生活をさせる事になってしまったのだった。

 

「パパーっ!行っちゃヤダー‼︎」

 

「絶対に迎えに来るからね、約束だ。それまでお祖母ちゃまの言う事をよく聞くんだよ」

 

泣き叫ぶ我が子を抱きしめたマクシミリアンは時が熟したら、必ずこの屈辱は晴らしてみせる。そして、子供達を絶対に奪い返してやる!そう心に誓った。

 

「かっ、可哀そうに、坊ちゃんと嬢ちゃん…オイラも泣けてきちゃう、ぐすん」

「あぁ、母親の喪も明けない内に父親からも引き離されるんだからな」従者達も思わず涙ぐむ。

 

「さぁ、行こう。これ以上ここに入れば謀反者とされて命も危ないぞ」

僅かな従者をつれて、マクシミリアンは城を後にした。

 

退却・完