ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
中世最後の騎士マクシミリアン⑨
ヒーローの登場に興奮に包まれて結婚式が終わると、そこには現実が待っていた。
ブルゴーニュとドイツでは言葉も風習も違う。
マリアはドイツ語が分からなかったし、マクシミリアンはフラマン語が話せなかったのだ。
晴れて夫婦となったものの、これでは会話が成立しない。
その為、最初、2人は当時の貴族階級の教養語だったラテン語で会話をした。
しかし…
2人にとっては言葉の違いは、むしろ2人の愛を深める為に役立ったようだ。
マクシミリアンとマリアは、毎晩お互いの国の民話等を教え合う事で、言葉を学んでいった。
2人は互いに相手の言葉を聞き漏らすまいと、相手の話しにしっかりと耳を傾けた。
そして、互いの言葉の中から、2人は相手の中に自分と似たモノがある事を発見していったのだった。
相手を思いやる事で、プライベートは障害を超えていった2人だか、国事はそう簡単にはいかなかった。
公国ではマクシミリアンが現れたとは言え、反乱が完全に収まった訳はなかった。
公国内の主だった者の中には、マクシミリアンをよそ者としか見ていない者が多かったし、フランス王ルイも何とか公国領を分断させてやろうと手をこまねいていたのだ。
そう、フランスVSオーストリア。ヴァロア・ブルボン王家VSハプスブルク
この図式は、ブルゴーニュ公国がフランスのヴァロア家と因縁の争いをしていた事を発端に、マクシミリアンとマリアとの結婚によってハプスブルク家が引き継ぐ形となっていったのだ。
結局、この両家の争いに終止符を打つのは、マリーアントワネットとルイ16世の結婚迄待たなくてはならないのは歴史の知るところである。
マクシミリアンは公国の地固めに奔走した。
先ずは、公国のあちこちで起きている反乱を鎮圧しなくてはならなかった。
公国内の火種が納まると、マクシミリアンはフランスとの戦いに向かった。
フランス王は執拗に公国に内乱を起こさせ分断させようと、フランス戦との最中も公国諸都市をそそのかせ、マクシミリアンの戦闘先を公国内の内乱に向けさせ様と手をこまねいた。
ついにマクシミリアンはウィーンから連れて来た家臣やブルゴーニュ公国の有能な家臣や武将からなる志願兵を指揮して、ギカネガの地でフランス軍と戦火をまみえた。
そして、マクシミリアンの勇猛果敢な攻撃と巧みな戦術によってフランスに圧勝し、マクシリミリアンは初陣を勝利で飾ったのだ。
戦いに勝ったマクシリミリアンだったが、その戦いは決して容易ではなかった。
ブルゴーニュ公国は裕福と聞いていたが、財産の殆どは手形や不動産、宝石や美術品等で公国の国庫には現金はそれ程入っていなかった。
その為、反乱を押さえる為にマクシミリアンは軍隊を整えなくてはならず、頻繁に祖国の父に借金を申し込まなくてはならなかった。
「アイツ…裕福なブルゴーニュ家と縁組させたのに、一体何をやっているんだ⁈ これでは裕福になるどころか借金が増えるばかりではないか‼︎」
息子が結婚さえすれば、ブルゴーニュ公国の財産がウィーンの国庫に雪崩れ込んでくると確信していた皇帝は、息子から借金の申し出が届く度に地団駄を踏んで悔しがった。
因みに、マクシミリアンはこれ以降、皇帝になっても資金繰りには悩まされる事となる。
公国内に平和が戻ると、マリアは公国の彼方此方をマクシミリアンと共に出かけた。
乗馬が得意なマリアは、マクシミリアンの傍らで誇らしげに夫を紹介した。
幾ら有能とは言え、マクシミリアンは所詮他所者。
聡明なマリアは領民の胸の内を見抜いていたのだろう。
マリアはマクシミリアンを立てて、自分は強力な後ろ盾に回った。
そして、あくまでも、この国の領主はマクシミリアンであり、マクシミリアンに刃向かう事は公国の唯一の相続人である自分が許さない事を暗黙の内に諭したのだった。
やがて、結婚後1年も経たない内に、マリアは美しい男の子を出産した。
美しさを残したまま成長した為、のちに美公と呼ばれるこの男の子はフィリップと名付けられた。
そしてその翌年には女の子が産まれ、その子はマリアの継母マルガレーテから名前を貰いマルガレーテと名付けられた。
つづく