ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
中世最後の騎士マクシミリアン⑧
使者は走った。
マリアの手紙を懐に忍ばせて、どこに反逆者やフランス王の手下が潜んでいるか分からない公国を抜け、山賊のいる峠を越え、帝国領に向けて走った。
一方、ウィーンにいるマクシミリアンは・・・・
トーリアでの見合いから時が経ち、マクシミリアンはマリアとの結婚に対する興味は日に日に薄らいでしまった。
実際のところ、幼友達のジークムントと野山を駆け巡ったり、妹クニグンデの友達ロジーナと過ごしている方が気楽で楽しかったのだ。
「ねぇ、マックス。マックスはブルゴーニュのお姫様と結婚するんでしょ?その話は進んでるの?」
皇帝の御曹司との結婚なんて考えてもみなかったロジーナだが、ロジーナもまた憎からず自分の事を思ってくれているマクシミリアンが遠くに行ってしまう事を寂しく思っていた。
どうやら結婚話の進捗状況が気になるらしい。
しかし当のマクシミリアンは
「うーん…わからない。あれから何の音信もないし。ほら、公が亡くなっちゃったじゃない⁈宮廷も喪に服しているんじゃないかなぁ。絵でみる限りマリアって子は美人だけど、でも彼女がどんな性格で、どんな考えを持っているか分からないだろ?そんな子と結婚と言われてもピンとこないんだよね。それよりさ、今は、ロジーナとこうして話している方がずっと楽しいんだ。」と呑気な事を抜かしている。
やがて、
やっとウィーンの宮廷にブルゴーニュからの使者が到着し、皇帝にマリアからの手紙が手渡された。
父親に呼ばれ公国の一大事を知ったマクシミリアンの胸に、にわかに正義感が沸き上がった。
(彼女を助けなくちゃ!!)
「父さん…」とマクシミリアンは皇帝に出立の許可を求める。
しかし…無い。
無いのである。
何が無いって、アレですよ、アレ。先立つモノがである。
一国の王子が着の身着のままで相手の国に向かう訳にはいかない。
読者達からは「この一大事にそんな事言っている場合じゃないだろっ!人命が先だろう、人命が」と言いたいところだろうけれど、当時の慣例では帝国領内を素通りする訳には行かなかった。
広い帝国領の宿場街では、皇帝の息子を迎える為に馬上試合や槍試合、祝宴の数々が行われる事が慣例となっており、領民の歓迎に応える為にも相応の金笥を必要としたのだ。
だが、まさかこんなに急に旅立つ事になるとは思わず、皇帝の手元には息子の結婚資金が殆ど無かった。
それならば、自分のコレクションであるお宝石の一部でも売れば良いものの、ケチなフリードリヒは売るのを嫌がった。
皇帝は慌てて借金をして何とか旅費を用立てると、マクシミリアンをマリアの元に送り出した。
「父さん有難う。何だか無理をさせちゃったね」
「いや、父親として当然の事だ。マックス気を付けて行くんだよ。そして、この用立てた金を直ぐに倍にして返しておくれ…仕送り、頼んだよ。」
そう、腰の重い皇帝が、マリアを助けブルゴーニュ公国の治安を回復させる為に早急にお金を集めたのは、息子がブルゴーニュ公国の君主となれば、この借金が何倍にでもなって返ってくるだろうと予測したからに他ならなかった。
そうとは知らず、マクシミリアンは幼友達との別れの挨拶もそこそこに、まだ見ぬ許嫁を危険から守る為に颯爽と馬に飛び乗り、ウィーンを後にした。
ところが・・・・
つづく