ラノベ「双頭の鷲ーハプスブルク家物語―」
プロローグ、ハプスブルク現る③
人間、欲をかくとロクな事はない。
パッとしない風貌とは裏腹に、ルードルフはかなりの遣り手だった。
人望厚く、温厚で思慮深く、敬虔なルードルフは近隣の国々と良好な関係を保ちながら、着々とハプスブルク繁栄の基礎を築いていった。
「ったく、誰かですかっ?ハプスブルク伯ならチョロいって言ったのは!これでは話が違うじゃないですかっ‼︎」
当然、選帝侯達は自分達の計算違いに臍を噛む思いだった事は言うまでもない。
この様に、ルードルフが神聖ローマ帝国皇帝に選ばれた事によってハプルブルク家は歴史の檜舞台に登場した。
ところで、気になるのは皇帝になる気満々だったボヘミア王オットカル。
オットカルは、自分にお鉢が回って来なくてどうしたか。
満場一致で皇帝はハプスブルクに決まったと知ったオットカル。
「うぬぬ~、あの貧乏人のハプスブルクがぁ。玉座に相応しいのはこのオットカル様を置いて他にいる筈がないではないか。
うがぁ~どうしてくれようかぁ!!!!」と悶々と怒り悶えていた。
今日のチェコ、スロヴェニアから旧東ドイツ、オーストリアと言った東欧一帯に亘る広大な領地から莫大な収益を上げていたオットカルは、さらに領地を広げて強大な国家を作ろうと虎視眈々と狙っていたのだった。
誰の目にも皇帝選挙当確はオットカルと思われていたし、本人も既にそのつもりでいただけに怒りは収まりようもない。
とは言え、決まってしまったものは、今更泣いても喚いてもしかたがない。
本来なら選帝侯達に向けられる筈のその怒りは、ルードルフに向けられた。
アーヘンで行われた戴冠式には、帝国領土内の王であるボヘミア王も参上しなくてはならないのに、オットカルはそれに応じようとしなかったのである。
「フン、なぜこの俺様があんな奴の前で膝間付かなきゃなんねーんだよっ!!」
怒り心頭にあったオットカルは、普段から「貧乏人」と蔑んでいたハプスブルクに今更頭を下げるなどプライドが許さなかったのだ。
しかし、それは帝国内の儀礼からしても礼儀を欠いた違反行為である。
そこで、ルードルフは二度めの召喚を命じた。
オットカルは二度めの勧告にも無視した。
流石に普段は仏のルードルフも二度に渡って伝統に反する行為をされれば気分が悪い。
もしや、オットカルは帝国の平和を乱しかねないのではないか?
そこでルードルフは最後のチャンスとして、三度目の召喚を命じた。
「お館さまぁ〜、流石に今回はルードルフ公の元に参上した方が良いんじゃないですか?」
「噂では、あの温厚なハプスブルク公も相当怒っているみたいですぜ」
ボヘミア王の城内でも、一部の家臣からは不安を隠せずにいる。
流石に、少しばかり「大人げないよなぁ、僕ちゃん」と思いつつも、格下の相手に負けたと思うとオットカルも意固地になっていた。
「ええいっ、煩い奴らだなぁ。そんなに心配ならお前たちがハプスグルクの前に行きゃーいいだろうっ。どうせ大した軍勢は集められやしないさ」とオットカルは三度目の勧告も見事にスルー。
ここまで完全無視をされれば、いくら温厚なルードルフと言えども堪忍袋の緒が切れた。
これでは帝国諸侯に示しがつかない。
「ううむ。仕方がない。こうなったからにはオットカルの領地は没収。帝国追放だ」
そんな訳で、ボヘミア王オットカルの帝国追放が決まった。
「帝国追放だとぉ?!
あんなちっぽけな男の癖して、いい根性してるじゃねーかっ!」
こうなったら、帝国軍と一戦を交えて、力づくでもルードルフをねじ伏せるしかない。
泣いても恥を掻いてもしらないからねーっ!!
さぁ、合戦だぁ!!
オットカルの宣戦布告に、ルードルフと皇帝軍の兵士達は士気が上がる。
「ボヘミア王は帝国に牙を剥いたと見た。さぁ、帝国軍の諸君、神聖ローマ帝国皇帝の名誉にかけて、ボヘミア王追討だ!」
「おおーっ!!」
ルードルフを先頭に帝国軍の兵士達は一丸となってオットカル率いる軍と合いまみえる事となる。
そして、数時間の苦闘の末、真夏の炎天下の下、ドナウ川の支流にあるマルヒ川のほとりでオットカル軍は総崩れとなり、猛王オットカルはその生涯を閉じる事となる。
このマルヒ川の畔で行われた合戦に勝利した結果、ボヘミア王国自体は残ったが、ウィーンを含むオーストリアの幾つかの州がハプスブルクの領地となったのである。
では、このままハプスブルク家は皇帝の座を独占し続けたのか?
答えは否だ。
つづく。