ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
プロローグ、ハプスブルク現る④
風采が上がらない見た目と違い、辣腕を振るってハプスブルク家の基礎を固めたルードルフは、めきめきと頭角を現していった。
しかし…
それによってハプスブルク家は近隣の国から嫉妬されるようになった。
近隣の自治体は何かと反抗し、ハプスブルクの支配から独立しようと蜂起する領主も少なくはなかったのだ。
「ついこの間迄、皆横並びで協力しながらやっていたのに、いきなり皇帝にさせられたんだからなぁ。しかも金も土地も無いのに…そりゃ周りが牽制するのも充分過ぎる程分かるよ」
ルードルフは賢明な王だった。
それ故、ルードルフは近隣の領民達の気持を察しながら、困った者には手を差し伸べ、刃向かう者には忍耐強く打開策を練ったから「あの人が領主なら安心だ」と多くの領民から慕われていたのだった。
しかし、ルードルフが亡くなり、後を継いだ息子のアルプレヒトには、父と違い他人の気持を慮ると言うところが無かった。
「ハプスブルクに立て付くとは生意気だぞ‼︎」と言わんばかりに、帝国という名の元に緩く繋がった近隣諸国の領土を、まるでハプスブルク家の領地の様に扱った。
ルードルフの死後、自分達の思惑が外れて痛い目を見た選帝侯達はハプスブルクを嫌った。
そして、今後こそは!と、弱小貴族のナッサウ公家のアードルフを皇帝に使命したが、ひ弱なナッサウ公は皇帝に任命されてから数年後で没してしまう。
「ひ弱過ぎるのも使えないもんですな…」
「本当に…。で、次は誰にします?」
「う〜ん、これと言って…こうなると皆帯長しタスキに短しですな」
…と言う訳で、選帝侯達は見ず知らずの人間を皇帝に据えるよりは、まだハプスブルクの方がましという理由でアルプレヒトを皇帝に使命した。
だが、傲慢なアルプレヒトは身内からも人気がない。
ある時・・・・
「あいつ、マジうざっ!
偉そうに家では威張っているけど、抵抗派を黙らせる事も出来ないじゃないか。
俺に任せれば言う事を聞かないスイス人なんて、何なく黙らせちゃうのにね~。
大体さ、後見人の癖して、俺より目立つってどーゆーこと?」と甥のヨーハンはいきり立っていた。
「まぁ、まぁ、そう怒るなよ、ヨーハン。いずれはお前が領主になるんだからさ。アルプレヒトが死ぬまでの辛抱、辛抱」と取巻き達がヨーハンをなだめる。
「あぁ…でも、あの叔父き、まだまだ長生きしそうじゃん?・・・・いっそのこと殺すか?!」
「ああ、それいいねぇ」
「殺っちゃえ、殺っちゃえ〜」
・・・・と言う訳で、アルプレヒトはヨーハンの放った徒党によって惨殺されてしまった。
しかし、いざヨーハンが後を継いだはいいが、結局アルプレヒト以上の成果を上げる事が出来ず、叔父殺の汚名を残したまま死んでしまう。
当時のハプスブルク家は長子相続制ではなく、子供達の間で領地は均等に分け与えられていた。
平等と言えば平等だが、それでは当主の持ち分が少なくなる。
その為、代替わりするにつれ、どんどん領地は分割され、ハプスブルク家の勢力は徐々に弱体化していった。
弱り目に祟り目とは当時のハプスブルクを指すのだろう。
ハプスブルク家の勢力が衰えるのに伴い、宗家のやり方に怒った近隣の領民達は「打倒!ハプスブルク」を旗印に蜂起し、ハプスブルクは追われる様な形でスイスから現在のオーストリア、ウィーンに拠点を移す事になる。
そして…
遂にハプスブルク家の勢力は失墜し、帝冠は他家に渡ってしまった。
「おい、どうするよ?マジやばいぜ」
「あぁ、自分達が言うのもなんだけど、我がハプスブルクは戦いにはメッチャ弱いけんね。威張っていられたのも王冠頼みだったしね」
スパイダーマンがタイツがなければタダの人。
同様に、ハプスブルク家に「帝冠」がなければただの一貴族に過ぎない。
いや、ただの貴族よりもっと悪い。単なる田舎貴族だ。
「どーしよーっ!!」
「やだ、やだ、絶対にやだ!その辺の田舎貴族に落ちぶれるなんて絶対やだ!」
「あれだけ威張ったんだ、袋叩きにされるぞ〜」
ひいぃぃぃ…かっ、神様〜‼︎
ハプスブルク家の人々は帝冠奪還に向けて、一致団結した。
身内で喧嘩なんかしている場合じゃない!
どうしたらハプスブルクの権威を高められるか・・・・そりゃ、社会に貢献するっきゃないでしょう!!
そうだ!大学を建てよう!
教会も建てちゃおう!
我らはカトリックの守護者なんだから立派な大聖堂を建てよう!
・・・そうして建てられたのがシュテファン大聖堂だ。
どーだ!
「これだけ頑張ったんだもん。きっと次は皇帝に指名してくれるよ」
しかし、皮肉にもハプスブルクが躍起になって頑張れば、頑張る程、選帝侯達はハプスブルクを嫌い、王冠は遠いていった。
「だって、ハプスブルクって見かけによらず強かなんだもん」
「ハプスブルクに牙がある内は皇帝になんかしてやらないからねー」
ルードルフ推挙の際に、苦い思いをした選帝侯達は、二度と同じ轍は踏むまいと心に誓っていたのだった。
その為、次にハプスブルク家が再び歴史の表舞台に上がるのは、130年後。
フリードリヒ3世の代まで待たなければならなかったのだ。
それも、この男なら毒にも薬にもならないと言う、ルードルフの時と同じ理由で・・・・
プロローグ・完