プロローグ、ハプスブルク現る② | Salon.de.Yからの贈りもの〜大事な事は全てお姫様達が教えてくれた。毎日を豊かに生きるコツ

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元ワイン講師であり歴史家。テーブルデコレーションを習いに行った筈が、フランス貴族に伝わる伝統の作法を習う事になったのを機に、お姫様目線で歴史を考察し、現代女性の生きるヒントを綴ったブログ。また宝石や精神性を高め人生の波に乗る生き方を提唱しています。

ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」

プロローグ、ハプスブルク現る②

 

そもそも、この名前だけは仰々しい「神聖ローマ帝国」という存在。

 

ローマと言っても、イタリアのローマとは何の関係もない。

遥か昔、ゲルマン民族の大移動の頃までドイツ周辺を支配していたのがローマ帝国だった事に過ぎない。

 

ただ・・・ローマ帝国の支配が終わっても、この地域にカトリックの教えが根付き、他のヨーロッパの国々同様、帝国に住まう国民の心の支えとなり、キリスト教文化が栄えていった。

 

帝国の範囲は広く、現在のドイツだけではなく、オランダ、ベルギー、フランス東部、スイス、イタリア北部、オーストリア、チェコ等のかなり広範囲に亘った。

因みに、ルードルフが皇帝に即位した時点では、オーストリアはハプスブルク家の家領ではなかった(チョット複雑だけど。この後、オーストリアが家領になって行く様子が出てきます)

 

これだけ広い帝国領だ。

皇帝になればさぞかし豪奢な暮らしが出来るかと思いきや、皇帝は戴冠式で、帝国より集まった主だった領主や聖職者、騎士、都市代表から、金銀財宝や刀剣、絹織物や牛・馬等のお祝いの品が献上される代わりに、皇帝はお礼返しではないが、彼らの持つ領土を封土として貸与し、先祖代々受け継がれている特権を承認する。

 

つまり帝国内の領土やそれぞれの特権は、これまで通り実質的には領主達のモノであって、皇帝の利益になるモノなど何もなかった。

 

おまけに、帝国内にフランスやオスマン・トルコ等の外敵が襲ってきた場合、敵から領土を守る責任が皇帝には課せられ、かと言って皇帝に給料や別手当てが出る訳でもなく、皇帝とは単なる名誉職に過ぎなかったのだ。

 

それでも、野心ある王たちは皆皇帝になりたがった。

 

天上の平和を祈願するのが教皇庁なら、現世のキリスト教圏の安全を守るのが神聖ローマ帝国皇帝。

この「キリスト教の守護者」という響きは、キリスト教圏の王たちにとって喉から手が出る程魅力的な役職だったのだ。

 

だが・・・皇帝になりたいと言っても、誰でも立候補が出来る訳ではなかった。

 

皇帝選挙で投票する権利を持っていたのが7人の選帝侯だった。

 

この7人の選帝侯とは3人の聖職者と4人の世俗王で構成されていた。

このうち3人の聖職者とはマインツ、ケルン、トーリアの大司教で、世俗王はボヘミア王、ブランデンブルク公、ザクセン公、プファルツ宮中伯だった。

その筆頭格がマインツ大司教で皇帝職務の補佐役にあたっていた。

 

この7名の選帝侯によって予め選ばれた候補者の中から、最終的に皇帝が決定される為、選挙が近づくと聖職者達には沢山の賄賂が集まった。

 

選挙1つを取ってもこの様なザマだから、聖職者の勢力は強く、当然、日頃から聖職者と言う立場を隠れ蓑に、やれ免罪符の発効だの課税だのと彼らはやりたい放題を尽くしていた。

 

しかも、長年に亘って皇帝が不在(大空位時代)が続いた為、誰もこれらの選帝侯に異を唱える者などいなかった事から、今更「今日からお前たちのボス」と言わんばかりに、あれこれ口出しをされては困る。

間違っても、ボヘミア王オットカルの様な野心剥き出しの王を皇帝にする訳にはいかない。

 

となると・・・自分達に与えられた特権を奪われず、我が世の春を満喫する為にも、もの静かで弱々しいひ弱な王を皇帝に据えようと合致したわけだ。

 

(アイツなら文句一つ言わない…いや、言えないだろう)と、そのお飾りの皇帝に打って付けと白羽の矢が立ったのがルードルフ。

 

では、ルードルフはそれ程不甲斐ない、情けない君主だったのか?

 

答えは「否」だ。

 

それでは、ルードルフの何処にそんな過小評価をされるところがあったのか。

 

それはルードルフの風貌に理由があった。

 

鉤鼻で背丈ばかり高くて痩せたルードルフの風貌は、ハッキリ言って風采が上がらなかった。

しかも財力面から言っても、スイス近郊の片田舎に僅かな家領しか持たない貧しい田舎貴族と言ったルードルフは、選帝侯達が描く理想の君主に思えたのだ。

 

真相を知らないルードルフとその家臣達。

 

「よく分からないけど、これも神の思し召し。皇帝になったからには帝国の全ての民が暮らしやすい帝国を作るぞ!!」とルードルフは邁進するのである。

 

つづく

 

※この章は江村洋氏の「ハプスブルク家」を大分参照とさせて頂いております。