つい先日までの暑さは何処へやら、雨が続いた先週は初秋の涼やかさ。
オーストリアの食卓も秋らしさが漂っていました。
さて、今回のトピックスとなるお料理は、すっぽんのコンソメスープ。
オーストリアでは国賓待遇のお客様が見えると、晩餐会でウミガメのスープが供されるのだそうです。
もう10年以上お付き合いが続いているレストランさんですが、ウミガメが食べられていたとは知りませんでした。
近くに海があっても亀を食べる国があるかどうかは分かりませんが、海が遠い内陸のオーストアでは海の食材は貴重だったでしょうね。
海亀をすっぽんに替えてのお料理ですが、お店で頂くのも初めて。
まさか、オーストリア料理ですっぽんを頂くとは…私にとっても初のすっぽん料理です。
さて、お味はと言いますと、たっぷりの香味野菜を入れて作るコンソメスープらしく香り高いのですが、力強いビーフコンソメの香りと違い、優しい繊細な香りが印象的。
味わいビーフコンソメに比べると軽やかですが、旨味が詰まっていてとても美味しかったです。
ただ、味はとても美味しかったのですが、すっぽんって鯛などお魚のアラ出汁と鶏肉の胸肉が凝縮した様な両方の特徴がある味わいがある様に感じます。
個人的な好みとしては、このお魚の部分が気になるので、どちらかを選べと言われたら普通のコンソメスープの方がいいかなぁ。
でも、頂いていると身体の中から暖かくなってきて…今日(9/25)の様に肌寒い秋の夜には嬉しいスープ。
今年の様に、長引く残暑で体力を消耗した夏には、秋・冬に向けて体力を付けるのに良いですね。
ワインはハンガリーのフルミントを使ったワインで頂きました
フルミントはデザートワインで有名なトカイ・ワインを作る品種ですが、今回頂いた辛口ワインは酸味は穏やかで、苦味の方が印象に残ってしまう為、ワイン単体で飲むにはイマイチと言う印象。
それに、独特の鼻にツンとくる様な香りもあるし。
ところが、このすっぽんのスープに合わせると、ドンピシャにハマるのが面白い。
ワインの癖が帳消しになる感じ。
さて、もう1品。これも長年通っておハツにお目にかかったのが前菜に出てきたポレンタです。
こちらの前菜は、幻の魚と言われるイトウをスライスして、13種類のスパイスを使ってソテーしたモノに、クリームチーズを使ったソースと、南瓜の種のオイルを使った2種類のソースで頂くお料理ですが、イトウと真ん中のサラダの下に台の様になっているスティック状に揚げたモノがポレンタです。
↑ナイフを入れるとポレンタがギッシリ
ポレンタと言えば隣国イタリアでよく食べられている料理ですが、オーストリアでもポレンタは食されているのだとか。
ポレンタはトウモロコシの粉ですから、昔イタリア北部を支配していた事やメキシコも支配していた事を思うと、不思議ではありません。
ただ、ポレンタってイタリア人でも子供時代に良く食べさせれたけれど、ポレンタは大っ嫌いだった!と言う人が多いんです。
幸運にも、私は初めて食べたポレンタが、これまた繊細な料理を作る腕の良いシェフのポレンタだったので、ポレンタは美味しいと言う記憶しかないんです。
そして、神田シェフのポレンタは私の人生で2番目にポレンタを食べさせたシェフとなりますが、勿論、こちらも美味。
それにしても、よくこんな風に綺麗に成型したもんだ。流石、料理長と副料理長の合作です。
あっ、因みに13種類のスパイスと言うのは、聖書の中に出てくるスパイスを全部使うと13種類になります。
パスブルク家は代々神聖ローマ帝国の皇帝は輩出した王家。
カトリックの総本山ローマ教皇を守護するのが、この神聖ローマ帝国の皇帝の役割なんです。
特に、ハプスブルク家は神の加護を受けていると先祖代々信じ続けられてきた事もあり、ウィーンの街中には大小様々な教会がいたるところにあるんです。
ですので、聖書にちなんで13種類のスパイスを料理に使うところもオーストリアならではですね。
では、ここから後は、この日供されたお料理をご紹介していきます。
ホント私の好きなお料理ばかりで・・・・最近、私が食べたいと頭に浮かんだ食材がホント行列するのよ。まさかのテレパシー状態です。
キッチンからのご挨拶は、左手奥からチロル産の生ハムと、高知産トマトやキュウリやセロリを使ったスープ。オリーブオイルの香りがアクセントになった小さなスープです。
これに、焼きなすとスコットランド産サーモンのノッケルン(ノッケルンはアルプスの山々をイメージした料理名)をブリオッシュ生地のパンと一緒にカナッペ風に。
この焼きなすは見た瞬間「私の好きなやつ~」って目元が下がっちゃう。
こんがりとした焦げ香に優しいヴィネガーの酸味を包んだ甘酸っぱいお料理。
スモークサーモンのタルタルとディルの相性は・・・・もう言う事無い位バツグンです。
そしてメインは、仔鴨のロースト。
もぉ~、鴨を愛して、愛して、愛して止まない私には、ギュッと胃袋を掴まれてしまう一品・・・・あれ、普通胃袋を掴むのって女性の方だよね?まっ、いいっかぁ。
この日一番のお気に入り料理です。
見た目シンプルなお料理ですが、鴨の下には押し麦、玉ねぎ、枝豆等を使ったリゾットが隠れています。
この何とも美しいロゼ色の仔鴨。見た目からも分かる位、絶妙な火の入り具合
・・・なんですけど、もぉ、何よりお気に入りなのは、表面の皮部分の塩加減なのよぉ~。
もう、表面の部分でワイン飲めちゃう位・・・と言うか、永遠に食べていたい。
で、この美味しい部分を飲み込むと、今度は鴨の赤身の部分の肉汁がジュワーって。
噛めば噛むほど、鴨の少し鉄っぽい風味がお口いっぱいに広がっていくんです。
これだけでもご馳走なのに、鴨のジュを使ったソースが優しくてねぇ、美味しくてねぇ…。
これが、ただでさえ美味しく炊けているリゾットに染み込んで行くんですわ…私のお気に入り鴨部門、更新中です。
これに合わせたのがハンガリーのメルロ100%のワイン。
最初は、先のワインがハンガリーワインだった為、オーストリアのピノ・ノワール、メルロ、ツヴァイゲルトのブレンドをご用意して下さったのですが、目先を変えてハンガリーの赤に替えて頂きました。
昔、日本でハンガリーのワインを飲もうとすると、ロクなモノがなかった。
ハンガリーワインの取り扱い事情がどの位進化したのか興味深々です。
香りは思った程、プラム等の煮詰まった感じはなく、オリエンタルスパイスの香りが出初めて、タンニンはシルキー。バランスも良く鴨に良いワインでした。
それに、早飲み文化のオーストリアだと、2012年なんてヴィンテージは無いしね。
今回は、デザートに行く前に久し振りにチーズを・・・・。
以前、ブルーチーズにハンガリー産の蜂蜜とブリオッシュ生地のトースト、レーズンを添えて、デザートワインと一緒に出されていたのですが、一時期、チーズが無くなり私も特に注文しなくなっていました。
が、今回、手法を変えて登場!
ブルーチーズをムース状にして、イチジクを煮詰めたジャムと一緒に頂くスタイルで供されました。
好みで白胡椒と塩をつけて食べる様になっているのですが、この白胡椒があるとないでは全然違うんです。
なに、そのアイデア?! その発想凄過ぎます。
デザートワインと一緒でも良し、食事の時に残った赤ワインと一緒でも良し…そう、この白胡椒があるから、単なるデザートチーズの域を越しているのよねぇ。
さて、デザートも私の好きなもので締めくくりです。
今回は、ケシの実のケーキにキャラメリゼしたイチジク、バニラアイスとリンゴのソースを添えて。
ケシの実を使った・・・多分四角い型で焼いているのでモーン・シュニッテン(丸型ならモーン・クーヘン)はポルト酒に漬けこんだドライイチジクと一緒に焼き込んでいます。
このケシの実を使ったケーキは素朴なスポンジケーキと言ったところですが、やっぱり美味しい。
生のイチジクも今の季節は外せないフルーツ。
子供の頃は余りイチジクって好きじゃなかったのですが、鶏やブルーチーズ、生ハム等と一緒にサラダにしても美味しいし、今では大のいちじく好きの私には堪らないデザートでした。
今年の始めから続いているコロナの影響で、外に向かう横軸のベクトルより、自分の内側を掘る様な縦方向のベクトルに向かった人も多いんじゃないかな?(インドア派の私は常に縦方向だけど)
レストランも未だに自由に使いたい食材を手に入れる事が出来ない様子が窺えます。
それだけに、1つの食材でも視点を変えて、どう味付けるか、どう見せるか、下に下にと掘って行っていると言う感じ。
でも、そう言うところにキッチンスタッフの引き出しの多さや、新しい展開が見られるんですね。
長年のお付き合いで、知っているつもりでいたオーストリア料理でしたが、まだまだ知らない未知のオーストリア料理があり、その奥深さを実感した一夜でした。
↑ザクロにソルベも
シメはメランジェ。