詳しい事は忘れましたが、フランスの有名オートクチュールのオーナーの方が「王妃の役目とは最高級の物を身に着けて頂く事です」とおっしゃったのを読んだ事があります。
私は、この言葉を目にした時、思わず納得してしまいました
18世紀のフランスに王妃として君臨したマリー・アントワネットは現代では浪費家で沢山のドレスを購入したと言われていますよね?
でも、実際にはアントワネットは王太子妃時代は自分に割当てられた経費内で遣り繰りし、借金を申し出た事は一度もなかったんです。
しかも!
その金額は前王ルイ15世妃、マリー・レクザンチカの時代から値上がりする事もなく、その間、大分、物価が高騰した事を考えると、大分、吝嗇家…つまり節約家だったんですよ
後のナポレオンの最初の奥さんジョゼフィーヌが使ったお金の方が、遥かに上回っていたと言いますから、とんだ濡れ衣です。
とは言え、それでも年間の衣装代をオーバーしてまでもドレスを作ってしまったのは事実
毎日、午前中の決まった時間に新しい服の見本を持って仕立て屋が押しかけてくる訳ですから、余程強い意志がなくては断れませんよね。
マリー・アントワネットと言うと「赤字夫人」と言う良からぬ称号がついて回りますが、実は、ルイ16世の治世、初期の頃は、かつてのルイ14世、15世の時代と違い、一番経済が安定していたのだそうですよ。
ところが、
ルイ15世時代、既にフランス経済は破綻しかかっていたのですが、ルイ16世の代になって、フランスはアメリカ合衆国の独立戦争に参戦した事によってフランス経済は完全に破綻し、国庫は莫大な赤字を抱えてしまったんです
当然、王室は多大な節約を強いられた訳ですが、アントワネットは喜んで節約に協力したとか。
もしかしたら変化のない毎日に、新しい玩具を与えられた様な軽い感覚だったのかも知れませんが…。
節約をする事になったアントワネットは、ファッションにも節約を取り入れました。
元々アントワネットはすっきりとしたシンプルなモノが好みだったの。
その為、前王の時代迄は、柄模様を織り込んだ重厚感のあるゴブラン織りの生地が主流でしたが、アントワネットは模様を織り込んだりせず、モスリンやサテンなど軽やかな布地を好んだり、手の込んだ刺繍ではなくプリントが出てきたのもこの時代だったんですよ。
そして、ドレスにつけるレースもリヨンで織られる手織りシルクの最高級レースではなく、当時ベルギーで取り入れ始めた、工業製品の軽やかで安価なレースを好んで使ったんだそうです。
軽くて安いのでしたら、沢山重ねて使ってもお財布は傷みませんものね。
こんな裏話を聞いて、ポンパドール夫人の肖像画とアントワネットの肖像画をみると、装いが大分違うなぁ、と感じられると思います。
これなら分かり易いかな?
でも、実はこれがイケなかったんです!!
と言うのも、これまで主要産業としてフランスの経済を支えていた織物業界の景気が悪くなって、倒産していく業者が増えてしまったの
私達現代庶民は、お手頃ファッションを着て節約もしたのに、どうしていけないの?って思うでしょう?
でもね、王妃のファッションってアントワネットだけのモノではないんです
王妃の・・・それも流行の最先端であるヴェルサイユのファッションは流行の発信源。
宮廷に出入りする貴族の奥方は、王妃が着ているモノは我も我もと真似をしますから、フランス国内での消費も減ってしまうんです。
さらに悪い事に、
宮廷に出入りする諸外国の外交官や貴族達も王妃に続けとベルギー産のレースに乗り換える。
ヴェルサイユの流行は諸外国の流行。
それによって、外国の富裕層もフランスの高級リネンを買わなくなってしまったから、フランスの織物業は大打撃だったんです
しかも、ベルギーはオーストリア領でしたから、王妃は実家のオーストリア皇帝と内通してフランスの産業を潰そうとしていると言うデマまで流れてしまったという訳
かつて、アントワネットの母マリア・テレジアは「あの子の軽率なところが心配です」とメルシー伯にこぼしていた事は有名ですが、アントワネットの軽率さとは、多くの人は単なる遊び好きと勘違いするかも知れませんが、そうではなく、物事の全体を見ずに鵜呑みにしてしまう事だったんです。
安価な素材で、布地の量も抑えてドレスを作る事は節約になるでしょう。
でも、それによって職を失う人が大勢出てしまう事にまで考えが及ばなかったんです。
そりゃ、庶民の私達からみれば「節約するならドレスを作らなければいいじゃない」となりますが、当時は着回しなんてとんでもない時代。
国の権威をかけても最高級の物を着てもらわなくてはならなかったんですね。
そして、その最高級の品を見せて、他所の国の王族や貴族階級、富裕層にも買って貰う。
つまり、王妃のファッションとは動くマネキンさん、みたいなところがあったんです。
現代は、どこの国もファッションが経済を占める割合は微々たるものです。
それどころか、プリンセスがファストファッションを着れば「わぁ、私達と同じ」と好感を持たれ、同じ洋服を買おうとする人さえ現れます。
それだけプリンセスも自由にお洒落が出来る時代になったでしょう。
それでも、正式な席の装いはプロトコールに従って最高級の装いをされます。
やはり「王妃の役目とは最高級品をお召しになって頂く事」と言う定義は、今も健在なのかも知れません。
どうか、市民の尺度で王妃達のファッションを査定しませんように。
2020年モスキーノの秋のコレクション。今年は貴族ファッションに注目なのだとか