ヘレンドはウィーンとの国境近くで生まれたハンガリーの磁器メーカー。
ウィーンの宮廷でも愛され、1842年にハプスブルク家の皇室御用達となってフランツ・ヨーゼフの庇護を受ける事になるのですが、オーストリアの磁器メーカーアウガルテンのややアイボリーがかった暖か味のある白磁に対して、ヘレンドは透き通る様なクリアーな白。
現在も人気があるヴィクトリアン・シリーズは、ロンドン万博の時にヴィクトリア女王から、インドの華はパリ万博の際にウジェニー皇后が購入したもので、ヘレンドは王族と言うパトロンを得て、貴族の間で一気に人気となったんです。
今でも、オーストリアに旅行に行くと、アウガルテンに並んで旅行者に人気があるメーカーです。
さて、ヘレンドのシリーズと言えば、「ウィーンの薔薇」が有名ですが、私がずっと欲しいと思っているのは「ロスチャイルド・バード」のティーセット。
木の枝に細いネックレスが掛けられ、その側に小鳥がいる、愛らしい絵柄です。(私が欲しいのは、ブルーに金がかかった、このタイプです)
実は、この絵柄にはこんなエピソードがあります。
ある時、ロスチャイルド家のお茶会に招待されたヴィクトリア女王。
午後の日差しを受けて、ティーパーティーを楽しんでいる時、フッと女王はネックレスを失くした事に気付きました。
女王様が我が屋敷で失し物をした等とは一大事です。
一方、女王は自分の失し物のせいで、折角のお茶会が台無しになってしまったら申し訳ないと「あら、大した物ではないから、気にしないで」と、周りに不愉快な思いをさせない様、取り繕いましたが、ロスチャイルド家の人達は、「女王様に嫌な思いをさせたまま帰して、ロスチャイルドと聞く度、悪い思い出に結び付けられでもしたら大変」と、必死で探したのです。
暫くして、ふと上を見上げると、木々の枝に太陽の光を浴びてキラリと光る物が見えるではありませんか。
何だろうと思い、近づいてみると、その木の枝には女王のネックレスが掛っていたのです。
鳥は光る物が大好きです。
女王は「きっと、鳥が見つけて木に掛けてくれたのね」と大喜びをしたと言う話があります。
もしかしたら、誰か人の手によって木に掛けられたのかも知れません。
そう考える方が、むしろ自然かも知れません。
しかし、それによって色々な憶測を呼んでしまいますし、今度は、犯人探しになり、折角の楽しいお茶会が台無しになるばかりか、疑われた人も、一生心に傷を負ってしまいます。
それを避ける為にも、ネックレスが見つかったと言う結果を素直に喜んだ、女王の優しさを伺わせるお話です。
小枝の先にネックレスが掛っている風景なんて、素敵ですね。
その仕業が小鳥だったとしたら、なんて愛らしいでしょう!!
ヴィクトリア女王は好きなモチーフの1つに小鳥を加え、生涯愛されたと言われています。
ヴィクトリア女王の時代は産業革命によって、飛躍的に豊かになった時代です。
4オクロックティーと言って、労働階級の人達も、4時になると仕事の手を休めて、お茶を飲む習慣がありました。
我らが女王様も、今頃、自分達と同じように宮殿でお茶を召し上がられている…そんな事を思いながら、男性も主婦も、もうひと頑張りする為のティーブレイクを取っていたのでしょう。
国民と女王陛下の一体感を感じさせる時代だったのですね。
また、ヴィクトリアン・ティーパーティーと言って、女王様を招いたお茶会が生まれたのもこの時代です。
ヴィクトリアン・ティーパーティーは、1つ空席の椅子を用意し、女王様の席を作ります。
女王様の椅子には、ヴィクトリアン・ポジーと言って、お花を置くのですが、代わりに椅子にカバーやリボンで飾る事もあるそうです。
この席は女王様の為の特等席なので座ってはいけないのですが、この様に実際に女王様をお招きしなくても、一緒にパーティーを楽しむと言うユーモアのあるティーパーティーです。
都会では自然は贅沢ですから、週末別荘で過ごす貴族や富裕層は、自然に囲まれた庭にテーブルを出してカントリースタイルの、労働者階級の人達も小さなスペースながら、特別席を作ってヴィクトリアン・ティーパーティーを開いたのかもしれません。
勿論、普通のお茶も…。
スタイリッシュではありますが、カフェでテイクアウトのコーヒーや紅茶を、パパっと飲んで済ませてしまう現代人には、時には、とっておきのカップ&ソーサーでゆったりとお茶を楽しむ時間こそが最高の贅沢です。
同時にティーコージー等の小物やトーキンググッズ等を集めるのも、楽しいですね。
↑こちらは、ウィーンのバラのティーセット