初恋も知らず、国策の為に結婚させられたアントワネットは、恋に恋する様な普通の女性だったとの事。
18歳で知った初めての恋。
幾度も離れ離れになりながらも、お互いを想い合ったのは、二人が青春の真っ只中にいたからだったのかも知れません。
会う人を虜にせずにはいられなかったと言う不思議な魅力を持ったアントワネットに、フェルゼンもまた恋をしたのは不思議ではありません。
しかし、時を経てもなお、「この人を何としてでも守りたい」とフェルゼンが思ったのは、アントワネットの一人の女性としての弱々しさだったのではないかと思うのです。
アントワネットの栄光の時に影がさしたのは、あの悪名高い「首飾り事件」からでした。
自分の名誉を傷付けられたと感じたアントワネットは、敢て裁判所に申し立てる事によって、自分が詐欺行為に利用された事を国民に証明させ様としたのです。
しかし、潔白は証明されても、この裁判は結果的に、国民のみならず宮廷に馳せ参じていた貴族達でさえ、アントワネットにそっぽを向いている事を証明したに過ぎませんでした。
トリアノンから締め出しをくった貴族達が、王妃を憎み、復讐の機会を伺っている。
その為、アントワネットが会釈をしても、スイっと横を向いて通り過ぎてしまう。
劇場に顔を出しても、歓声が上がる事はなく、聞こえてくるのは舌打ち位なもの。
この時になって初めて、自分は取り巻き達に利用されていただけで、これまで遠ざけていたメルシーやヴェルモン神父、古くから宮廷に仕えてくれた貴族達こそが、いかに自分に忠実だったかを思い知ったのです。
大勢の人に囲まれながら一人ぼっちのアントワネットを支えたのがフェルゼンでした。
アントワネットが王妃としての責任に目を覚まし、利益だけをせ占め様としていた取り巻き達とは手を切り、浮ついた行動を止めた時には、革命の息吹が生まれようとしていたのです。
そして1つ、また1つと大切な友や品々、名誉等が奪われて行く中、公には王妃として毅然としつつも、私的な場ではアントワネットは良く泣いていたそうです。
王太子のルイ・シャルルは言っています。
「お母様は最近幸せじゃない。だって、いつも泣いているから」
きっと、アントワネットが人知れず、一人、泣いている姿を度々小さな男の子は目撃していたのでしょう。
それとも、ふとした瞬間に、思わず涙がこぼれたのかも知れません。
しかし、心の内を全て見せる事が出来る唯一の男性の前でだけは、アントワネットは小さな女の子の様に、思い切り泣くことが出来たようです。
フェルゼンは妹に宛てて、この様に書いています。
「わたしといるとき、彼女はいつも泣いてばかりいる。そんな彼女をどうして愛さずにいられよう」と。
ここなんです!
以前、ある女性から言われた事があります。
「恋愛ってハートとハートの繋がりなんだよね」って。
フェルゼンはアントワネットの良い時期も悪い時期も見て来ました。
天真爛漫でいる様に見えて、宮廷では王妃である事を演じなければなりません。
宮廷を離れ、こっこり2人だけで過ごす秘密の時間は、王妃でもない一人の女性として、ありのまま自分で接していた事でしょう。
そこにはどのような女性がいたでしょうか?
恋する人と過ごせる喜びに溢れた女性。繊細で、優しくて、弱々しい、どこにでもいる普通の女性がいた筈です。
あれだけ笑い輝いていたこの女性が、今や打ちひしがれて不幸の中にいる。
そして、アントワネットは、勇気を失わずに不幸と戦おうとしている。
その勇気に惹かれるフェルゼンではあったけれど、今は、その女性が、運から見捨てられて、ただ、ただ泣いている。
そんな姿を見て恰好悪いなんて思いませんよね?
頑張りすぎる傾向にある現代女性には、好きな人の前で泣いている恰好悪い私は見られなくないとか、心配をかけたくないと思うかも知れません。
しかし、信頼関係で結ばれているからこそ、恰好悪い私も、弱々しい私も見せられるのではないかと思うんです。
それでも、好きな人に悲しい思いや心配をさせたくないのは王妃とて同じです。
アントワネットは、フェルゼンとの手紙のやり取りの中で、危険な状態の中で取り残されている不安を綴っては、その直後に、恋人を不安にさせたくないとの思いから、前の手紙を取り消す様な内容の手紙を送る位、不安と弱さ、恋人を思いやる優しさに揺れていたんです。
状況が状況とは言え、幸運の時も不幸になっても、一貫してフェルゼンの前で見せたアントワネットは、王妃ではなく、完璧でもない、喜んだり、泣いたりする、柔らかい繊細な心を持った、ありのままの普通の女性だったと言う事です。
だからこそ、一人の人間として、ハートとハートが繋がった、本当の恋愛が成立したのではないかと思うのです。
では、恋愛結婚で結ばれた、母マリア・テレジアの場合はどうだったでしょうか?
↑フェルゼン…ちょっとイメージが…。
・・・・to be continued