広大な領土と王冠を手に入れたヘンリーですが、その栄光に翳りが見えてきました。
ヘンリーにとって、エレアノールを失った代償は計り知れないものとなったのです。
荒廃したイギリスが安定し、エレアノールの力を必要としなくなったヘンリーは、政治に余計な口を挟まれるよりも、母マティルダの様に、子を産み育て、王国の土台を築き上げたら尼僧院に引っ込んでくれた方が都合が良いと考え始めていました。
好事魔多しで、その頃、ヘンリーはウッドストックの森に隠れ家を作り、秘かに愛人ロザモンドを住まわせていたのです。
出産を控えてイギリスに渡ったエレアノールは、寵姫の存在を知ると、ウッドストックには住まず、オックスフォードにある城で末子であるジョンを出産しました。
エレアノールは自分がアンジュー家の所領アンジェの反乱を鎮圧するのに苦労している時期に、ヘンリーが若い女を囲っていた事に嫉妬を覚えた事でしょう。
しかし、エレアノールは結婚前に、既にヘンリーには庶子が2人いた事も承知していましたし、結婚後、時々浮気をしていても、素知らぬ振りをしていました。
そんな小さな事で騒ぐのは、エレアノールの美学に反したのでしょう。
エレアノールは、ロザモンドも他の女達と同様、何れはヘンリーに捨てられるだろうと考えていました。
しかし・・・・
ヘンリーが共同統治者として自分を遠ざけ、今度は、女としても遠ざけようとしている。
エレアノールは夫の愛人に復讐をする様なケチな女ではありませんでした。
他の女なら大人しく修道院にでも引っ込むところですが、エレアノールには自分を裏切っり、屈辱を味あわせた男と対峙するだけの、気力と地位と財産がありました。
自分にはアキテーヌの領地がある。ここから出直せばいい。
これからは自分の力だけで己が野望に向かって突き進むしかない。
それがヘンリーに対する復讐でした。
決意を秘めたエレアノールは、自分からヘンリーの元を去る事にしたのです。
エレアノールの心からヘンリーを追い出した今、自分を慕う息子達と共に生きる為に、最初に行ったのは、嫁資として持参したアキテーヌの領地をアンジュー家から切り離す事でした。
アキテーヌではカペー家に続いてアンジュー家と言った外部からの支配に長い事苦しめられていた為、エレアノールとヘンリーの不仲を聞くと、一斉に反ヘンリーの気運を強めていたのです。
エレアノールがアキテーヌに戻ると、領土は荒廃していました。
ヘンリーは自分に歯向う有力貴族達を圧力で制し、領地の巡回も突然現れては、口煩く締付けていた為、住民達は領主が村に来ると戸口を固く締めて身を潜めていたのです。
男が力で以って制するなら、自分は寛容で平和に統治しよう。
エレアノールは予定に沿って行動し、武器の代わりに華やかな衣装を着せた従者や吟遊詩人達を従え、人々を脅かさない様、静かに村に入りました。
そして領民の心を開くと、夫ヘンリーの前政を深く詫び、市民の要求を聞き、様々な権利を与え、一日も早く平和を築きたいと約束したのです。
エレアノールの柔和策によって、やがてアキテーヌは平和と槍試合や道化達が賑わう昔の優雅な風習を取り戻しましたが、同時に、アキテーヌの住民の反ヘンリー感情は更に強まっていったのです。
<ポイント>
「人生を後悔しない為に、大事な事は何か、何を優先するのか見極めよう!」
嫉妬に狂って夫の愛人を殺す事も蹴落とす事もエレアノールは出来た筈。
しかし、無益な争いをするより、自分の人生で何が大事なのか見極め、それにエネルギーを注込む方が利が多いものです。
・・・・・to be continued