ロートリンゲン家からハプスブルク家に婿入りしたフランツ・シュテファン。
フランツのお祖父様はオスマン・トルコの軍勢を駆逐し、陥落寸前のウィーンを救った名将でした。
当然「ウィーンを救ってくれた恩人の孫」ですから、フランツにも勇猛果敢な指揮官のDNAが受け継がれているだろうと期待された事然り。
テレーゼも最初は英雄の妻になれる事を夢みて、フランツが戦勝を上げる事を期待しますが、残念ながら、フランツと弟のカールには、武将としての才能は受け継がれていなかった様です。
当時は国力=軍事力です。
しかし、テレーゼの方が頭の回転が素速く、軍隊の才能も有る。おまけに、並みの男より政治力も持ち合わせていたのですから、フランツはたじたじです。
それなら、苦手な事は才能のある者に任せれば丸く治まるじゃないか、フランツは敢えて裏方に徹しました。
人間、好きな事や得意な分野では力を発揮するものです。
フランツは財政家として非凡な才能を発揮。
元々あった磁器工房を王室専用の工房として再建し、牧場や工場を模範的な形で経営したり、銀行に口座を分散して投資する等で巨額な富を得ました。
フランツの遺産は、長期に渡る戦費の負債を返しても尚余る程。遺産が公開された時、居合わせた人々が驚愕した事は言うまでもありません。
しかし、生前のフランツは、どうみても「マスオさん状態」。
口さがない人々は、陰で言いたい放題です。
フランツだって「女帝あってのフランツ」と言う立場に甘んじなくてはならなかったのですから、随分肩身の狭い思いをした筈です。
しかし、夫婦の意見が対立しても、正しいのは、大抵、テレーゼの意見。
ここは宮廷の意志を汲んで、敢えて自分が身を引き、テレーゼと宮廷のやりたい様にさせたフランツ。
「負けるが勝ち」と言う様に、我を張らず、自分が屈して我が道を進んだからこそ、オーストリアは生き延びたのです。
そこで注目したいのは、自分の長所に着目して、それを活かすフランツの生き方です。
産業の発展や投資など、ビジネスセンスを活かしたのもその1つです。
が、フランツらしいのは、錬金術に熱中したり、貴重で美しい宝石を収集したり、外国の珍しい動物や植物を収集して最古の動物園を作った事です。
珍しい物や不思議な物に対する好奇心が人一倍強いフランツ。
物質を溶かして金を作ろうとワクワクしたり、誰かが実験をしていれば仲間に加わり、成功した物は実用化させる等、趣味を楽しみ、周りを巻き込みながら実益を得るのは、現代人の私達からみても理想的な生き方です。
実験や顕微鏡で自然科学の世界を覗く事が好きなフランツの息子レオポルトも、フィレンツェの殖産に成功し、荒廃しかけたフィレンツェの産業と文化を繁栄させたのですから、フランツは後に続く者にも何らかの影響を残したのでしょう。
趣味人のフランツは「好き」追求し、確かな審美眼と好奇心で創造した独自の世界を皆でシェアする事によって、成果を上げ、達成感や楽しみを与え、後世に文化を残したのだと思います。
私達は如何でしょう。
子供の頃、学校で得意な所を伸ばすより、苦手を失くし、個人の能力を平均化させると言う教育方針の下で育った方も少なくないと思います。
私が進んだ中学校は市立の学校でしたが、進学校だった為、生徒の個性を伸ばそうとする先生は殆どいませんでした。
興味の無い事にはトコトン興味がない私。
苦手な科目や厳しい先生の授業は拷問に等しかったです。
しかし、大人になって興味を持った事を学び始めたら・・・学ぶって楽しい!
学びの中には、時々、学生時代苦手だった科目が関わってくる事もあり、あの時もっと勉強しておけば良かったと後悔する事もあります。
しかし、大人になってから関わる苦手科目は、学生時代より取っ付き易い様です。
学生時代は、ある程度はまんべんなく学ぶ事は大切です。
これは、例えるなら基礎体力を付ける様なもの。
でも社会人になって、将来の不安や転職等、様々な理由で「何か始めたい」と思った時、自分が得意な事や好きな事を伸ばすと言う選択肢も有り!だと思います。
むしろ得意な事を脇に置いて、就職に有利だからとか、直ぐに稼げそうだからと言う理由で、ゼロから何かを探そうとすると、却ってやりたい事が見つからないものです。
子供の頃、飽きずに何時間もやれた事、最初は下手でも上手くなりたい
と続けた事。これが意外と天職だったりします。
大人になると、既に出来上ってしまった性格を変えたり、短所克服するのは大変です。
それなら、得意な事(好きも得意な内です)を伸ばしてあげた方が合理的だし、楽しい。
その多くは、直ぐには仕事に直結しないかもしれません。
しかし、続けていくと思わぬところから仕事に繋がる事もあります。
例え仕事にならなくても、玄人並の趣味があると、どこかで役に立つし、何かに打ち込めるって、自分が楽しい。
好きな事や長所は貴女だけに与えられたギフトです。
折角のプレゼントです、大事にして下さいね。