富士フイルムホールディングス傘下の富士フイルム富山化学は2020年9月23日、同社が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を対象に実施した「アビガン」(ファビピラビル)の第3相臨床試験(国内における臨床試験の登録番号:JapicCTI-205238)で主要評価項目を達成したと発表した。同社は同試験の詳細な解析を進めており、2020年10月中に厚生労働省に対して一部変更承認の申請を行う予定だ。

 同試験は、COVID-19の患者を対象にした単盲検ランダム化多施設共同比較試験だ。富士フイルム富山化学は、同試験を2020年3月末に開始した。対象患者は、PCR検査で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が陽性となり、胸部画像での肺病変や37.5℃以上の発熱、治験薬投与開始前の妊娠検査での陰性を認める20歳から74歳までの入院患者だ。

 同試験では被験者を、標準治療にアビガンを上乗せする群(介入群)と、標準療法にプラセボを上乗せする群(対照群)に割り付け(割り付け比は非開示)、観察期間である28日間、アビガンの有効性や安全性を評価した。主要評価項目は、体温、酸素飽和度、胸部画像所見の軽快およびSARS-CoV-2が陰性化するまでの期間。副次評価項目は、有害事象と7ポイントスケールによる患者状態推移とした。

 また、当初の目標症例数は96例に設定したが、中間評価の結果を受け、必要に応じて症例数を増やすアダプティブデザインで進めてきた。同社の広報担当者は、「同試験では45症例の結果が集まった段階で、独立委員会による中間評価が実施された。その後、委員会からの勧告を受けて目標症例数を引き上げ(引き上げ後の目標症例数は非開示)、最終的に156人の被験者が参加した」と説明した。

 試験の結果、主要評価項目であるSARS-CoV-2が陰性化するまでの期間の中央値は、介入群では11.9日、対照群では14.7日であり、アビガンの投与によって有意に短縮された(p=0.0136、調整後ハザード比:1.593、95%信頼区間:1.042-2.479)。重篤な副作用は確認されず、安全性に関する新たな懸念は認められなかった。

 同社は副次評価項目を含め、データの詳細な解析を進めており、2020年10月中に厚労省に承認申請する予定だ。なお、アビガンは既に国内で、「新型または再興型インフルエンザウイルス感染症(ただし、他の抗インフルエンザウイルス薬が無効または効果不十分なものに限る)」に対して承認されている。そのため、COVID-19の効能・効果や、用法・用量などを追加する一部変更承認を申請することになる。

 現在同社は、国内外の企業と連携してアビガンの増産を進めており、「2020年9月の段階で、1か月当たり30万人分を生産できる体制を整えている」(広報担当者)という。

 また、同社は2020年4月から、米国でもCOVID-19を対象にアビガンの第2相臨床試験を進めている。進捗について同社の広報担当者は「被験者(最終的な症例数は非開示)の組み入れや、治験薬などの投与は2020年9月3日に完了し、観察期間に入った」と話していた。

 ファビピラビルは、宿主(ヒト)の細胞内の酵素によりファビピラビルリボシル三リン酸(ファビピラビルRTP)に代謝され、一本鎖マイナス鎖RNAウイルスであるインフルエンザウイルスの複製に関与するRNA依存性RNAポリメラーゼを選択的に阻害すると考えられている。これまでの研究から、インフルエンザウイルス以外にも、エボラ出血熱やマールブルグ病など複数の感染症に対する有効性が示唆されてきた。

 2020年7月には、藤田医科大学がCOVID-19を対象にした同薬の臨床研究で、有効性に関して統計的有意差は見いだせなかったとの暫定的な結果を発表。ただし、同研究では被験者数や試験デザインなどに限界もあり、研究責任医師の同大学医学部感染症科の土井洋平教授は「ファビピラビルは有効である可能性がある」と評価していた。SARS-CoV-2は、インフルエンザと異なる一本鎖プラス鎖RNAウイルスだが、今回の富士フイルム富山化学の企業治験でアビガンがある程度、有効であることが確認された。

   アイスランドdeCODE Genetics社のDaniel F. Gudbjartsson氏らは、約3万人の住民にSARS-CoV-2抗体検査を行い、定量的PCR検査の結果と合わせて、同国の感染歴のある人の割合を0.9%と推定した。また抗体陽性になった患者では、診断から4カ月後までは抗体価が下がっていなかったと報告した。結果は、NEJM誌電子版に2020年9月1日に掲載された。

 人口が35万人強のアイスランドは、PCR検査を精力的に行っており、6月15日までに5万4436人が検査を受けていた。そこで著者らは、アイスランドでのSARS-CoV-2感染状況を把握するため、幅広く抗体検査を実施することにした。感染したことがない人と感染したが症状がない人を区別し、感染したが抗体陽性に転換した人と抗体ができなかった人の割合を調べ、抗体陽性率と関連する要因を検討し、さらに抗体価の経時的な変化を突き止めようと試みた。

 著者らは同国の8つのグループに対して抗体検査を行うことにした。具体的には、定量的PCRによりSARS-CoV-2感染が診断されていた2グループ(入院中の患者と既に回復した患者)と、PCR検査を受けていなかった、または受けたが陰性だった人の6グループ(検疫の対象者、医療機関の受診者、レイキャビクの住民、ヴェストマン諸島の住民、2017年に血液標本を提供した人、2020年初頭に血液標本を提供した人)だ。合計3万576人の血清標本に対して、6種類の検査を適用し、抗体レベルを測定した。

 具体的には以下の抗体検査だ。1)Roche社のヌクレオカプシド(N)に対するpan-免疫グロブリン(pan-Ig)抗体(IgM、IgG、およびIgA抗体を検出)、2)Wantai社のスパイクタンパク質のS1サブユニットの受容体結合ドメイン(RBD)に対するpan-Ig抗体(IgM、IgG、IgA抗体を検出)、3)EDI社のNに対するIgM抗体検査、4)EDI社のNに対するIgG抗体検査、5)Euroimmun社のスパイクタンパク質のS1サブユニットに対するIgG抗体検査、6)Euroimmun社のスパイクタンパク質のS1サブユニットに対するIgA抗体検査。このうち1)と2)の両方の検査が陽性になった場合を抗体陽性と判定した。

 最初に、COVID-19で入院していたが回復した患者から、回復した直後と回復から3カ月後の血液標本の提供を受けた。次に、アイスランドでの感染開始時期を推定するために2020年初頭の血液標本と、検査の特異度を評価するために、流行が起こる前の2017年の血液標本を検査することにした。検疫で隔離されていた人は、ウイルス暴露タイプ別の感染率を調べるために検査に加えた。医療機関の受診者と地域住民は、アイスランドでのウイルスの広がりを推定するために検査に加えた。

 2017年の血液標本472サンプルを用いて2つのpan-Ig検査を行ったところ、偽陽性になったのは0と1標本のみだった。これらの検査の特異度は良好と考えられた。アイスランドで最初のCOVID-19症例が確定したのは2020年2月28日だったが、2月18日~3月9日までに血液標本を提供した2020年初頭グループは、全て抗体陰性と判定され、2月中にはアイスランド国内で感染が広がっていなかったことが示唆された。ただし、Nに対するpan-Ig検査のみ陽性になった人が4人(0.9%)いた。

 1215人の回復者では、定量的PCR検査による診断から25日後には、1107人(91.1%:95%信頼区間89.4-92.6%)が両方のpan-Ig抗体検査で抗体陽性となっていた。陽性者のpan-Ig抗体レベルは、診断から2カ月後に向けて上昇し、そこからさらに2カ月間はプラトーの状態を維持していた。Nに対するIgM抗体は、診断後すぐに増加したが、その後は急速に減少し、2カ月後には検出されなくなった。S1に対するIgA抗体は、診断から1カ月後には減少していたが、その後も検出は可能だった。

 1215人の回復者のうち22人は、初回の評価において両pan-Ig検査の結果が陰性になり、うち19人は、2回目の評価でも両検査の結果が陰性だった。

 同国で2月28日から4月末までにqPCR陽性となった1797人の患者のうち1088人(61%)は検疫により陽性が判明していた。SARS-CoV-2に曝露したために検疫の対象となったが、PCR検査を受けなかった、または受けたが陰性と判定された4222人を対象に調べたところ、97人(2.3%:1.9-2.8%)が抗体陽性だった。家庭内感染のリスクは高く、家庭内で曝露した人々の26.6%が感染していた。家庭外で曝露していた患者ではその割合は5.0%だった。

 COVID-19以外の理由で医療機関を受診し、SARS-CoV-2抗体検査を受けていた患者1万8609人のうち、39人が両方のpan-Ig抗体検査で陽性だった。居住地、性別、10歳刻みの年齢で重み付けした推定抗体保有率は0.3%(0.2-0.4%)になった。居住地による違いは、検疫で隔離された人のうち、PCR陽性になった人の割合から推定した。ランダムに選ばれたレイキャビク住民4843人の抗体保有率は0.4%(0.3-0.6%)で、受診者と近い値を示した。

 一方、クラスターが発生したヴェストマン諸島の住民では、居住者の2.3%がPCR陽性と判定され、居住者の13%が隔離の対象になった。PCR検査が陽性ではなかった隔離対象者447人のうち、4人(0.9%:0.3-2.1%)が抗体陽性になった。隔離対象にならなかった663人のうち3人(0.5%:0.1-0.2%)が抗体陽性になった。

 様々なグループによる検査結果を、アイスランド住民の母集団に外挿すると、アイスランド人のSARS-CoV-2感染者の割合は0.9%と推定された。感染者の56%はPCR検査で診断され、14%はPCRで診断されていないが隔離されており、残り30%は隔離されずPCR検査も受けていない無症候性感染者と考えられた。

 アイスランドではCOVID-19による死者は10人発生しており、これは人口10万人当たり3人の死亡率に相当する。PCR陽性になった患者の死亡率は0.6%(0.3-1.0%)だった。同国民の推定感染率0.9%を当てはめると、感染者の致死率は0.3%(0.2-0.6%)となった。年齢で層別化すると、致命率は70歳以下では有意に低く0.1%(0.0-0.3)で、70%超では4.4%(1.9-8.4)になった。

 SARS-CoV-2抗体価は、高齢者と入院患者で高かった。また、SARS-CoV-2抗体レベルと関連が見られた要因は、BMI、喫煙習慣、抗炎症薬の使用だった。BMIは高いほど抗体レベルも高く、喫煙習慣と抗炎症薬の使用は、抗体レベルが低いことと関係していた。また、臨床的重症度が高かった患者や、咳や体温などの症状の重症度が高かった患者ほど、抗体レベルが高かった。

 これらの結果から著者らは、SARS-CoV-2抗体が陽性になった患者では、診断から4カ月後も抗体価が減少していなかった。感染者の致死率は0.3%と推定され、PCRを積極的に行っているアイスランドでも、感染者の44%はPCR検査を受けていなかったと考えられると結論している。

 救急部門を受診したCOVID-19患者に簡単な血液検査を行い、CRP、Dダイマー、IL-6、フェリチン、LD(乳酸脱水素酵素)を測定すると、ICU入院、挿管、死亡のリスク予測に役立つことが示唆された。米国George Washington大学病院に入院した患者を対象とする分析の結果は、同大学のShant Ayanian氏らによって、Future Medicine誌電子版に2020年7月17日に報告された。

 COVID-19の悪化や死亡のリスクを予測するバイオマーカーについて、中国の症例研究からいくつかの候補が報告されている。しかし、それらが米国のCOVID-19患者のリスク判定にも有用かどうかは明らかではなかった。そこで著者らは、米国のCOVID-19患者に有用なバイオマーカーを同定しようと考えた。

 対象は、ワシントンD.C.にあるGeorge Washington大学病院に、2020年3月12日から5月9日までの期間に入院し治療を受けた18歳以上のCOVID-19確定例299人。病院の電子医療記録から、患者の年齢、性別、BMI、併存疾患、使用薬剤、入院時のルーチン検査に加え、CRP、Dダイマー、IL-6、フェリチン、LDのデータを調べ、これらのデータと臨床アウトカム(ICU入院、挿管、院内死亡)の関係を検討する後ろ向き研究を実施した。ICU入院前の最大酸素必要量、ICU入院、機械的換気の適用、退院時サマリーなどの情報も収集した。

 IL-6、フェリチン、CRP、LDは、原則として中央値を閾値とした。IL-6の閾値は60pg/mL(基準範囲は0.0~15.5pg/mL)、フェリチンの閾値は450ng/mL(基準範囲は20~450ng/mL)、CRPの閾値は90mg/L(基準範囲は0.0~9.0mg/L)、LDの閾値は1200ユニット/L(基準範囲は400~800ユニット/L)とした。Dダイマーについては、他の研究が、COVID-19患者の血栓症リスクの予測において特異度が高いとしていた3μg/mLを閾値とした(基準範囲は0.20~0.28μg/mL)。

 299人のうち、全てのバイオマーカー検査値がそろっていたのは200人だった。追跡期間の中央値は8日だった。69人(23%)はICUに入院しており、39人(13%)が挿管を必要とし、71人(23.7%)が死亡していた。

 単変量ロジスティック回帰モデルでは、5種類のバイオマーカーはどれも閾値を超えた場合、ICU入院、挿管、死亡の増加と有意な関連を示した。ICU入院のリスクが特に高かったのは、CRP高値(オッズ比8.6:95%信頼区間4.1-18.1)、Dダイマー高値(7.3:3.8-14.0)、フェリチン高値(6.8:3.4-13.7)だった。挿管リスクが高かったのはDダイマー高値(8.2:3.4-19.8)、CRP高値(6.5:2.6-16.3)などだった。死亡リスクが高かったのはLD高値(8.0:4.1-15.3)、Dダイマー高値(7.5:3.8-14.6)、CRP高値(6.0:3.0-12.0)などだった。

 ICU入院、挿管、死亡の3種類のアウトカムと関連が見られた併存疾患は、高血圧、心臓病、神経疾患だった。慢性腎臓病は死亡と関連が見られた。その他の疾患は有意な関連が見られなかった。また、女性に比べ男性の方が、ICU入院と挿管のリスクが高かった。

 これらの結果から著者らは、炎症と凝固のマーカーは、米国のCOVID-19患者でもハイリスク患者を同定するために役立つことが示唆された。今後の課題はこれらのマーカーの変動や、抗凝固療法の影響などを明らかにすることだと結論している。