アイスランドdeCODE Genetics社のDaniel F. Gudbjartsson氏らは、約3万人の住民にSARS-CoV-2抗体検査を行い、定量的PCR検査の結果と合わせて、同国の感染歴のある人の割合を0.9%と推定した。また抗体陽性になった患者では、診断から4カ月後までは抗体価が下がっていなかったと報告した。結果は、NEJM誌電子版に2020年9月1日に掲載された。

 人口が35万人強のアイスランドは、PCR検査を精力的に行っており、6月15日までに5万4436人が検査を受けていた。そこで著者らは、アイスランドでのSARS-CoV-2感染状況を把握するため、幅広く抗体検査を実施することにした。感染したことがない人と感染したが症状がない人を区別し、感染したが抗体陽性に転換した人と抗体ができなかった人の割合を調べ、抗体陽性率と関連する要因を検討し、さらに抗体価の経時的な変化を突き止めようと試みた。

 著者らは同国の8つのグループに対して抗体検査を行うことにした。具体的には、定量的PCRによりSARS-CoV-2感染が診断されていた2グループ(入院中の患者と既に回復した患者)と、PCR検査を受けていなかった、または受けたが陰性だった人の6グループ(検疫の対象者、医療機関の受診者、レイキャビクの住民、ヴェストマン諸島の住民、2017年に血液標本を提供した人、2020年初頭に血液標本を提供した人)だ。合計3万576人の血清標本に対して、6種類の検査を適用し、抗体レベルを測定した。

 具体的には以下の抗体検査だ。1)Roche社のヌクレオカプシド(N)に対するpan-免疫グロブリン(pan-Ig)抗体(IgM、IgG、およびIgA抗体を検出)、2)Wantai社のスパイクタンパク質のS1サブユニットの受容体結合ドメイン(RBD)に対するpan-Ig抗体(IgM、IgG、IgA抗体を検出)、3)EDI社のNに対するIgM抗体検査、4)EDI社のNに対するIgG抗体検査、5)Euroimmun社のスパイクタンパク質のS1サブユニットに対するIgG抗体検査、6)Euroimmun社のスパイクタンパク質のS1サブユニットに対するIgA抗体検査。このうち1)と2)の両方の検査が陽性になった場合を抗体陽性と判定した。

 最初に、COVID-19で入院していたが回復した患者から、回復した直後と回復から3カ月後の血液標本の提供を受けた。次に、アイスランドでの感染開始時期を推定するために2020年初頭の血液標本と、検査の特異度を評価するために、流行が起こる前の2017年の血液標本を検査することにした。検疫で隔離されていた人は、ウイルス暴露タイプ別の感染率を調べるために検査に加えた。医療機関の受診者と地域住民は、アイスランドでのウイルスの広がりを推定するために検査に加えた。

 2017年の血液標本472サンプルを用いて2つのpan-Ig検査を行ったところ、偽陽性になったのは0と1標本のみだった。これらの検査の特異度は良好と考えられた。アイスランドで最初のCOVID-19症例が確定したのは2020年2月28日だったが、2月18日~3月9日までに血液標本を提供した2020年初頭グループは、全て抗体陰性と判定され、2月中にはアイスランド国内で感染が広がっていなかったことが示唆された。ただし、Nに対するpan-Ig検査のみ陽性になった人が4人(0.9%)いた。

 1215人の回復者では、定量的PCR検査による診断から25日後には、1107人(91.1%:95%信頼区間89.4-92.6%)が両方のpan-Ig抗体検査で抗体陽性となっていた。陽性者のpan-Ig抗体レベルは、診断から2カ月後に向けて上昇し、そこからさらに2カ月間はプラトーの状態を維持していた。Nに対するIgM抗体は、診断後すぐに増加したが、その後は急速に減少し、2カ月後には検出されなくなった。S1に対するIgA抗体は、診断から1カ月後には減少していたが、その後も検出は可能だった。

 1215人の回復者のうち22人は、初回の評価において両pan-Ig検査の結果が陰性になり、うち19人は、2回目の評価でも両検査の結果が陰性だった。

 同国で2月28日から4月末までにqPCR陽性となった1797人の患者のうち1088人(61%)は検疫により陽性が判明していた。SARS-CoV-2に曝露したために検疫の対象となったが、PCR検査を受けなかった、または受けたが陰性と判定された4222人を対象に調べたところ、97人(2.3%:1.9-2.8%)が抗体陽性だった。家庭内感染のリスクは高く、家庭内で曝露した人々の26.6%が感染していた。家庭外で曝露していた患者ではその割合は5.0%だった。

 COVID-19以外の理由で医療機関を受診し、SARS-CoV-2抗体検査を受けていた患者1万8609人のうち、39人が両方のpan-Ig抗体検査で陽性だった。居住地、性別、10歳刻みの年齢で重み付けした推定抗体保有率は0.3%(0.2-0.4%)になった。居住地による違いは、検疫で隔離された人のうち、PCR陽性になった人の割合から推定した。ランダムに選ばれたレイキャビク住民4843人の抗体保有率は0.4%(0.3-0.6%)で、受診者と近い値を示した。

 一方、クラスターが発生したヴェストマン諸島の住民では、居住者の2.3%がPCR陽性と判定され、居住者の13%が隔離の対象になった。PCR検査が陽性ではなかった隔離対象者447人のうち、4人(0.9%:0.3-2.1%)が抗体陽性になった。隔離対象にならなかった663人のうち3人(0.5%:0.1-0.2%)が抗体陽性になった。

 様々なグループによる検査結果を、アイスランド住民の母集団に外挿すると、アイスランド人のSARS-CoV-2感染者の割合は0.9%と推定された。感染者の56%はPCR検査で診断され、14%はPCRで診断されていないが隔離されており、残り30%は隔離されずPCR検査も受けていない無症候性感染者と考えられた。

 アイスランドではCOVID-19による死者は10人発生しており、これは人口10万人当たり3人の死亡率に相当する。PCR陽性になった患者の死亡率は0.6%(0.3-1.0%)だった。同国民の推定感染率0.9%を当てはめると、感染者の致死率は0.3%(0.2-0.6%)となった。年齢で層別化すると、致命率は70歳以下では有意に低く0.1%(0.0-0.3)で、70%超では4.4%(1.9-8.4)になった。

 SARS-CoV-2抗体価は、高齢者と入院患者で高かった。また、SARS-CoV-2抗体レベルと関連が見られた要因は、BMI、喫煙習慣、抗炎症薬の使用だった。BMIは高いほど抗体レベルも高く、喫煙習慣と抗炎症薬の使用は、抗体レベルが低いことと関係していた。また、臨床的重症度が高かった患者や、咳や体温などの症状の重症度が高かった患者ほど、抗体レベルが高かった。

 これらの結果から著者らは、SARS-CoV-2抗体が陽性になった患者では、診断から4カ月後も抗体価が減少していなかった。感染者の致死率は0.3%と推定され、PCRを積極的に行っているアイスランドでも、感染者の44%はPCR検査を受けていなかったと考えられると結論している。