マイク デイヴィス, Mike Davis, 柴田 裕之, 斉藤 隆央
感染爆発―鳥インフルエンザの脅威

鳥インフルエンザの脅威については、マスコミの報道が下火になると、つい忘れてしまいます。
本書では、その切迫した危機を描いています。
インフルエンザが進化して毒性を強め、世界的に伝播しやすくなった3つの原因を要約すると、
1.「家畜革命」による工場式の大規模家禽・家畜飼養の導入
2.膨大な数の人や物のグローバルな高速移動や接触の実現
3.巨大な都市やスラムの出現
であり、いったん、強い毒性を持ったウィルスがヒト感染するようになれば「パンデミック」となることが説得力を持って描かれています。
鳥インフルエンザの致死率から推定すると、最大で10億人の死者が出る可能性があるこの脅威に対する先進国(特に米国)の対応はお寒い限りです。
(もちろん、発展途上国は先進国の支援がなければ、更に悲惨な状況となります)
炭素菌などの生物テロには対策費を計上しつつ、インフルエンザへの対策費は削っている米国政府に対して著者は強く抗議をしています。
関係者の「サダム・フセインがインフルエンザの黒幕だったらよかったのに」というジョークは米国の状況を良く表しています。

西 加奈子
きいろいゾウ
田舎に移り住んだ若い夫婦、無辜歩(ムコさん)と妻利愛子(ツマさん)を軸にした、夫婦の愛情と「大人なること」を描いた作品です。
登場人物は、いつもチャックが開いていて農協タオルを愛用しているアレチさんとボケて雨が降ると耳がかゆくなるセイコさん夫婦、都会からリタイアしてきた駒井さん夫婦とその孫で登校拒否の男の子大地、大地のことを好きになる洋子とその祖母の平木直子など、人物設定がいいなぁと思います。
ムコさんは小説家で、介護センターでも働いています。そこで漫才をやることになった往年の名コンビ「つよしよわし」の話も本筋と微妙にからむ面白いエピソードです。
ツマさんは、虚弱でか弱く繊細です。動物や植物の声を聞くこともできます。
前半はのんびりふんわりした感じで過ぎていきますが、後半は、ムコさんが背負ってきたものをどう乗り越え、ツマさんとの関係がどうなるのか、夫婦としての成長が描かれています。
前作「さくら」でもそうでしたが、関西弁のセリフはやわらかくてユーモアがあって、いい感じです。
童話「きいろいゾウ」が章ごとに出てきます。童話の中のお月様や鳥、ゾウがなにを象徴しているのかはわかりやすいのですが、べつにそう読む必要はないのかもしれません。
早川 いくを, 寺西 晃
またまたへんないきもの

ベストセラー「へんないきもの」の続編です。
早川いくを氏のエッセイも寺西晃氏のイラストも楽しく、読み終えるのがもったいない感じです。
登場するいきものは64種。
インパクトのあるいきものばかりです。
鼻先の疑似餌がまったく役に立たず鼻くそにしか見えない「バットフィッシュ」メタン鉱床に生息する「メタンアイスワーム」出来の悪いクマのぬいぐるみのような「インドリ・インドリ」などひとつひとつが楽しめます。
その一方で、著者は、様々な動植物の絶滅を危惧し、声高にではなく、環境への配慮を訴えています。
「ゴリラ、ゾウ、チンパンジー、トラ、サイ、カバ、キリン、ダチョウ、ワニ、トド、メダカ」が絶滅危惧種だとは知りませんでした。
本の中ほどにある「回虫博士」藤田紘一郎博士との対談も秀逸です。
サナダムシがダイエットにもよくアトピーや花粉症に効くとは…(藤田博士がその物質を発見しました)。

ハリー・G・フランクファート, 山形 浩生
ウンコな議論

タイトルに惹かれて読んでしまいましたが、中身は、道徳哲学教授の書いた「その場しのぎの言いのがれ、ふかし、ごまかし、はぐらかし」がなぜ蔓延しているのか、という本です。
フランクファート教授はたぶん米国では有名なのかもしれませんが、私にとっては、クルーグマン教授の本などを訳した訳者の山形浩生氏のほうが馴染みがあり、それも本書を読んだ理由です。
訳者解説も、本文と同じぐらいあり、その意味では期待を裏切りません(訳者解説のほうが面白い)。
情報量が増えたなかで、何かコメントをしなければいけない局面が増え、「その場しのぎ」をせざるを得ないことは身に覚えがあります。
特に、政治家やテレビのコメンテーターなどは、そういう立場に立つことは多いことはわかります。
訳者が例に挙げた「人生いろいろ」はたしかに「ウンコな議論(にもなっていない)」の極致だと思います。
が、それを聞くのはやはりしんどいですよね。

藤原 正彦
国家の品格

大ベストセラーです。
胡散臭さや反発を感じる人も大勢いると思いますが、ぼくは素直に賛同しました。
特に「論理だけではいけない」という主張は非常に「論理的」です。
数学は公理から出発するからそこから論理的に展開していけばよいが、間違った出発点から論理的に展開しても間違った結論に至るというのは意外に自分の中でも抜け落ちていた視点で、市場原理主義を始めとする昨今の風潮を考えるときには、出発点が自分の感性と合うのかどうかを確認する必要があることを再認識しました。
「武士道」の精神については、ぼくももともと共感を持っていたのでまさにその通りだと感じました。
「卑怯を憎む心」「惻隠の情」は常に行動の原点として持つべき心情だと思います。
品格ある国家の指標として「独立不羈」「高い道徳」「美しい田園」「天才の輩出」を挙げているのも、それだけを取ると違和感があるかもしれませんが、納得のいく結論です。

奥村 宏
「まっとうな会社」とは何か

「株式会社」について考えるブックガイド。
投資ファンドの隆盛やM&Aの流行、新会社法施行と「株式会社」を取り巻く環境が大きく動いているなかで、考えるヒントになります。
日頃はどうしてもノウハウ本とか解説本のようなものを読んだり、経営論のようなものを読んでしまうので、「そもそも会社とはどうあるべきか」というようなことはおろそかにしがちです。
著者の考え方に必ずしも賛同する必要はないと思いますが、大企業や株式持合いを批判的に見てきた著者の論調は、逆に自分の考えを整理するにもいいと思います。

平山 瑞穂
忘れないと誓ったぼくがいた

「ラス・マンチャス通信」で日本ファンタジーノベル大賞を受賞した作者の受賞後第1作です。
「ラス・マンチャス通信」のように異形の生物が出てきたり、筋がどうつながるか想像できないような不思議な展開ではありませんが、それでも都市伝説のような奇妙な感覚のある恋愛小説です。
タイトルは「セカチュー」っぽいですが、「セカチュー」は単に高校時代のノスタルジーに浸る小説なのに対し、こちらのほうは人との関係を考えさせる小説です。
最後の「エピローグ」が効いてます。

ビル・エモット, 吉田 利子
日はまた昇る――日本のこれからの15年

ヘミングウェイの小説と同じタイトルですが、1990年に「日はまた沈む」を書いて日本経済の低迷を予言した英エコノミスト編集長ビル・エモット氏の最新刊です。
「生産能力、企業債務、労働力の三つの過剰がなくなり、正常な状態に戻った」と分析し、人口減少や高齢化にもかかわらず、日本経済が今後も着実な成長を続けるとの楽観的な見通しを示した本です。
それほど目新しい指摘ではありませんが、中国との関係、靖国問題などについては、示唆に富む部分もあるかなぁと思います。

エドワード・ドルニック, 河野 純治
ムンクを追え! 『叫び』奪還に賭けたロンドン警視庁美術特捜班の100日

ロンドン警視庁美術特捜班のチャーリー・ヒルを中心として、美術品窃盗犯を追う囮捜査を描いたノンフィクションです。
1994年、ノルウェーで開かれたリレハンメルオリンピック開会式の日に盗まれたムンクの「叫び」を奪回する話を主軸として、チャーリー・ヒルの過去の活躍を描いています。
学者的な側面を持ちながら危険を好むチャーリー・ヒルのキャラクターが美術品囮捜査にぴったりで、映画「フレンチコネクション」のジーン・ハックマンを思い浮かべました。
ゲッティ美術館の欧州買い付け担当に扮しての犯罪者とのやりとりはぜひ映画で見てみたいと思います。
今だとこういうタフで下品で正義感が強いという役が当てはまるのは誰でしょうか。

D・B・バラシュ, 桃井 緑美子
ゲーム理論の愉しみ方 得するための生き残り戦術

最大の利益を求めて最善の方法を選ぶ考え方がゲーム理論です。
映画「ビューティフル・マインド」の主人公の数学者ナッシュの「ナッシュ均衡」など、難解なイメージもあるゲーム理論ですが、本書では、数式は使わず、文学や動物・植物の生存戦略まで例にとってわかりやすく解説しています。
「囚人のジレンマ」「チキンゲーム」がいろいろと応用され、考え方の整理にも有効です。
なんとなく感覚的にも合うところは、まず協調からスタートし、相手も協調すればその戦略を続ける、相手が裏切れば自分も裏切るという「仕返し」戦略が一番有効だということです。
ゲームの理論は、国際政治の分析にも使われていますが、ニュースを見るときにも、ゲームの理論的な見方をすると理解しやすいこともありますね。