ジェフリー・S・ヤング, ウィリアム・L・サイモン, 井口 耕二
スティーブ・ジョブズ-偶像復活

アップルコンピュータ社の創立とマッキントッシュPCで熱狂的な支持を得、若くして大成功した後にアップルを追われ、その後ネクスト・コンピュータ、ピクサーと経営を続け、ピクサーでは、CGアニメで映画界に革命をもたらし、アップルCEOに復帰後はiTunes/iPodで音楽ビジネス界に大変革を起こそうとしたスティーブ・ジョブズの半生を描いた本です。
iConという原題はまさにぴったりです。
スティーブ・ジョブズの情熱と激しさとデザインへのこだわり、天才的なプレゼンテーションと交渉など、一緒に仕事をしたらついていけないなぁと思いましたが、そのエネルギーには圧倒されます。
訳者あとがきで紹介された2005年6月のスタンフォード大学での祝辞「ハングリーであれ。分別くさくなるな」をそのまま生きたひとです。
毎朝「今日が人生最後の日だとしても、今日、する予定のことをしたいと思うか」自問するという話も身に沁みます。
読んで勇気とやる気の湧いてくる本です。

ジャック リッチー, Jack Ritchie, 好野 理恵
クライム・マシン

「このミステリーがすごい!2005年」の海外部門1位の本です。
1958年から82年の間に書かれた17の短編からなる日本で編集されたオリジナル作品集ですが、全く古さは感じません。
ユーモアミステリーというタッチですが、オチもよくできています。
「クライム・マシン」や「ルーレット必勝法」などのコンゲーム、「日当22セント」「こんな日もあるさ」のような勘違い系の話など、ちょっとしたドラマにしたら今でも面白いだろうと思います。
「殺人哲学者」はもっとも短い小説ですが、オチは最高です。
「歳はいくつだ」、気持ちはすごくわかります。現代日本に舞台を移してもぴったりな気がします。

恩田 陸
エンド・ゲーム―常野物語

「常野物語」最新長編です。
「裏返さ」なければ「裏返される」。父の失踪後、母拝島暎子と二人で生きてきた時子。
「洗う」ことができる「洗濯屋」火浦。
最後まで引っ張っていく筆力はすごいと思うのですが、抽象的なイメージが苦手なぼくには、わかったようなわからないようなもやもや感を持ったままで終わってしまいました。

横山 秀夫
震度0

阪神大震災の日に失踪したN県警本部の警務課長。
その捜査を巡って、県警幹部の思惑が錯綜し、縄張り争いと暗闘が始まる…。
著者らしい、警察内部の組織と葛藤を描いた小説です。
キャリアとノンキャリア、キャリア間の亀裂と会議の場面も迫力があります。
中盤からは謎解きの面白さも加わって、引き込まれていきます。
組織の中で生きるのはしんどいことでもありますが、特に警察という組織ではここまで息苦しくなってしまうのだろうと思います。
最後は、家族ときちんと向き合ったものが人間的な判断ができる、ということなのでしょう。

武村 政春
ろくろ首の首はなぜ伸びるのか 遊ぶ生物学への招待

副題にあるように「遊ぶ生物学への招待」の本です。
「飛頭蛮」「ケンタウロス」「豆狸」「ぬえ」「カオナシ」「人魚」「吸血鬼」「カマイタチ」「皿かぞへ」「ろくろ首」「オオツキヒカリ」「赤えいの魚」「目目連」「カワリオオアゴウツボ」「モスラ」「蜃」の16の架空生物について、真面目にその構造や機能を考察します。
専門知識を駆使したその説明のしかたはさすがという感じですが、虚実の分かれ目がわかりやすい書き方なのはいまひとつという感じです。

もっとうまくだましてもらったほうが面白いのでは?
ケンタウロスの消化管の図や豆狸の陰嚢など図がもっともらしいところは笑えます。
「へんないきもの」とこの本が合体したら、どっちが実在する生物なのか、だまされそうです。

ブロック.W, 橘 玲
不道徳教育

本書は1976年に出版され、1991年に再刊された「Defending The Undefendable」を橘玲が訳したものです。
ウォルター・ブロックは、バリバリのリバタリアン(自由原理主義者)で、あのハイエクが序文を書いています。
「市場原理主義」や「小さな政府」を突き詰めた主張がリバタリアニズムです。
その主張は当然過激ですが、文章はユーモアに溢れています。
「売春婦」「ポン引き」「シャブ中」「恐喝者」「満員の映画館で「火事だ!」と叫ぶ奴」などが擁護されるべき人たちとして描かれています。
「個人には自己を所有する権利がある」「個人には自己が正当に所有しているものを保有する権利がある」「正当に交換されたものは新たな所有者が保有する権利を持つ」という原則からすべて論理的に擁護され、読んでいるとその主張に納得してしまうからたいしたものです。
内容は、訳者もあとがきで書いているように「超訳」的で、現代の日本に合わせて言葉や事例を変えていますが、内容が「原理主義」なので、すんなりと読めます。
擁護されるべき人たちとして「2ちゃんねらー」や「ホリエモン」も出てきます。
手のひらを返したようにホリエモン批判をする世の中の風潮に違和感を感じるひとにはぜひおすすめです。

志水 辰夫
うしろ姿

あとがきで著者自身が書いている通り「過去のスタイル」の短編集です。
過去を背負って時代の流れに取り残されたような人たちを主人公にその内面が描かれています。
以前著者の小説を読んだときはあまり感じなかった違和感をなんとなく感じてしまうのも事実です。
あとがきの最後に「この手の作品はこれが最後になります」と書かれている通り、著者自身それを一番感じているのでしょう。

熊谷 達也
新参教師

「損保会社支店長の安藤はリストラに備えて会社を辞め、民間採用枠で中学教員となる。
未経験者にも関わらず、いきなり3年生クラス担任となり、しかも、誰かが自分を陥れようと、あの手この手の嫌がらせを仕掛けてくる…。」
主人公の安藤の性格が、損保会社のエリートとしてはちょっと単純で軽率な気はしましたが、部外者にはわからない教師の忙しさとそうはいっても(予想通りの)民間と違うお気楽さとがよく描かれています。
ホントにセンセイって忙しいんですね。
推理小説としては弱い気もしますが、結末は悪くはないと思いました。

齋藤 孝
バカボンのパパはなぜ天才なのか?

齋藤孝氏の本は初めて読みました。
「週刊ポスト」に連載された「マンガ流! 大人の作法」の単行本化だそうです。
週刊誌の連載だと息抜きにちょうどいいかもしれないけど、単行本で読むとちょっとどうかなぁという感じです。
同世代の著者でマンガについての本ということであれば面白くないはずはないのですが…。
バカボンのパパの「断言力」、ゴルゴ13の「段取り力」等々解説されているのですが、だからどうなの?と感じてしまいます。
あとがきで「これは私のベストの本なのだ!」と書いているのですが、だったら他の本はもう読まなくていいか、と思いました。

伊坂 幸太郎
チルドレン

2004年に出た本で、「砂漠」の「西嶋君」の原型(?)ともいうべき「陣内君」が全編を通じて周囲を圧倒しています。
バンク、チルドレン、レトリーバー、チルドレン2、インの5編の短編集ですが、長編としても読めます。
勝手な理屈とでかい態度で迷惑省みずまっすぐ突っ走る「陣内君」は魅力的なキャラクターで、いろいろと決めのセリフもありますが、「大人が格好良ければ、子供は ぐれねぇんだよ」というのはいいなぁと思います。