誉田 哲也
ストロベリーナイト

ノンキャリながら27歳で警視庁捜査一課の主任警部補の姫川玲子を主人公にしたミステリー。
誉田哲也氏の本は初めて読みました。文体もすっきりしていてエンターテインメントとしては読みやすい本です。
ストーリーにはあまりひねりはなく、姫川玲子の直感に頼る部分がやや安直ですが、それなりに楽しく読めました。
姫川玲子と「ガンテツ」は魅力あるキャラクターなので、シリーズ化しても面白いのではないかと思います。


デイヴィッド サルツブルグ, David S. Salsburg, 竹内 惠行, 熊谷 悦生
統計学を拓いた異才たち―経験則から科学へ進展した一世紀

統計の実務家による統計学の歴史の本です。
ピアソンとフィッシャーから始まり、ブリス、ベイズ、ネイマン、ゴセット、コルモゴロフ、デミング、スネデカー、テューキー、コックス、など多数の著名な統計学者が登場し、理論を導出したバックグラウンドや人間味溢れるエピソードも紹介され、統計にある程度知識のあるひとには面白いのではないかと思います。
本書は数学的なトレーニングを受けていないひとに向けて書かれたもので、数式もないのですが、やはり文系頭のわたしには難解でした(^_^;)

奥田 英朗
ガール

30代女性を主人公にした短編集です。
「ヒロくん」課長に昇進した主人公が体育会系で年上の男性社員に悩む話。ヒロくんは趣味に生きる主人公のダンナ。
「マンション」先にマンションを買った友人に触発されてマンションを買うことを決意した主人公。青山のマンションを買うかどうか悩み、ローンを考えて保身に走り勝ちになってしまいつつ秘書室と戦ってしまう。
「ガール」38歳でも変わらぬファッションの先輩を見つつ、そろそろ年相応になるべきか、悩む広告代理店勤務の主人公。
「ワーキング・マザー」離婚してシングル・マザーとなって息子も小学校に入ったことから営業に復帰した主人公。周囲の気配りが重たかったり、子育てを武器にしてはいけないと思いつつ使ってしまい、自己嫌悪に陥ったり。
「ひと回り」老舗文具メーカーのOL。新人を指導する役目となったが、その新人男性がイケメンで好感度が高い。年はひと回り下だがやはり気になる。
といった5編が収められています。
楽しくは読めますが、やはり男性が書いた女性という感じがします。
女性に対しては悪意がなく、どうも脇役の男性のほうがやなやつとしても存在感があります。
こういう話は、(好きじゃないけど)林真理子に任せて、奥田さんには、精神科医伊良部や「最悪」「邪魔」系の話を書いてほしいと思います。

町田 康
告白

「河内十人斬り」をモチーフに「熊太郎」の生涯を描いたした676ページの大著です。
思弁の暴走と河内弁の軽妙な会話、一癖ある脇役たちとディテールに凝ったエピソードの積み重ね、リズムのよい文章にユニークな表現。
町田康の最高傑作のひとつとなる作品だと思います。
始めのほうでは、自分とはまったく違う、しょうもないやつと思っていた熊太郎ですが、終盤になると共感をもって読むことができます。
思考と表現が一致しないという違和感、伝わらないことの絶望感など、明治時代の河内の問題というより、現代人の悩みでしょう。
昨年出版されたにもかかわらず、分厚さになかなか手が出ずにいたのですが、GWにやっと読むことができました。
2006年本屋大賞では7位でしたが、順位が上がらなかったのはこの分厚さのせいかな、と思います。

ラグラム ラジャン, ルイジ ジンガレス, Raghuram G. Rajan, Luigi Zingales, 堀内 昭義, 有岡 律子, アブレウ 聖子, 関村 正悟
セイヴィング キャピタリズム

原題はSaving Capitalism from the Capitalists。
本書では、自由な金融市場の重要性を強調し、国際比較や歴史的視点を踏まえ、資本主義が「競争を避けることにより利益を得る資本家(大企業)」と「保護を求める弱者」によって、しばしば政治的に歪められてしまうと主張しています。
著者らはシカゴ学派で、当然ながら「市場主義」の立場です。
歴史上のエピソード等もふんだんに盛り込まれていますが、著者らが述べているようにエピソード自体は恣意的に引用・解釈することができます。
「市場原理主義」の立場からすれば、もっともな議論なのですが、その前提についての検討が不十分なため、説得力に欠ける感があります。

久保田 競
バカはなおせる—脳を鍛える習慣、悪くする習慣

脳機能の権威、久保田博士による脳に関するわかりやすくためになる本です。
脳関係の本はいろいろと出ていますが、そうした中でも出色ではないかと思います。
脳のためによいのは、基本は「ワーキングメモリー」を鍛えること。
年代ごとの鍛え方も書いてあります。
脳関係の本について、「読んではいけない」条件とは…。
まず、「21世紀になってから書かれている本しか信用しないほうがいい」ということ。
脳関係に科学は今現在急速に発展しているため、20世紀の知識で書かれた本では、ダメなようです。
また、著者については、「システムズ神経科学(脳の各局部に関する知識を網羅的に学んで、なおかつ、脳を全体として捉える神経科学)」を学んだ学者の本でないと偏った知識にしかならないと断じています。
有名な「バカの壁」については、基本的には解剖学者が脳について書いた本であり、科学的には間違ったことも多い「ユニークな哲学や人生観に満ちたエッセイ」だそうです。

辺見 庸
自分自身への審問

ぼくは資本主義社会にどっぷりつかって、辺見庸氏からは罵倒されても仕方のないような生活を送っています。
ふだんはそれを意識の彼方に追いやっているのですが、辺見庸氏の著作を読むとそのことに気付かされます。
本書は、著者が脳出血で倒れて右半身不随になり、さらに入院中に癌も発見されるという、肉体的にも精神的にも過酷な状況の中で執筆されたものです。
それだけに、著者の憤り、哀しみなどがストレートに伝わってきます。
死を常に意識せざるを得ない著者から自分が得たメッセージは、忙しさにまぎれて深く考えることをしていない自分はほんとうに「このままでいいのか?」ということです。
若い頃、少しは世界や社会のことを考えたことがあるひとにとっては、そう自問せざるを得ない本です。

新堂 冬樹
黒い太陽

キャバクラ業界を描いた著者らしい小説です。
29才の風俗王藤堂からその才能を見込まれた高校中退の新人立花。
父の入院費を稼ぐために嫌悪する夜るの世界に身を投じた立花は、やがて藤堂を超えるためにキャバクラを立ち上げ、戦いを挑む。
年齢も学歴も関係ない世界でのし上がるために立花は自分の内面も徐々に変わっていく…。
立花と藤堂の店「ミントキャンディ」のNO.1キャスト(店の女性)千鶴との恋愛も絡め、立花の成長ぶりが見ものです。
キャストの人間関係やその扱い方、キャバクラの男性社員の仕事ぶりなど、情報として面白いことも多く、さすが、新堂氏という感じです。
キャバクラは接待で連れて行ってもらったことがあるだけですが、この本を読んでその裏側を知ると、ちょっと見てみたい気がします。
もっとも金持ちそうな格好をしていかないといい女性はつけてもらえなそうですが…。

石田 衣良
40 翼ふたたび

勢いで大手広告代理店をやめてなりゆきで独立してしまった40才の喜一が主人公。
著者のストーリーテリングが上手いのでそのまま読めてしまいますが、なんか話がうまく進みすぎて現実感がないなぁという感じです。
「40才からはじめよう」というブログも、既に40代半ばを過ぎるとちょっとお気楽な気がします。
この本を読んで元気になるのは40才よりも若いひとでしょう。「まだ大丈夫」という感じで。

相場 英雄
株価操縦

著者のあとがきにあるように、「株価操縦」「金融ブローカー」「ネット・カード詐欺」を題材にした小説ですが、リアリティに欠けるというか深みのない話でした。
前作「デフォルト」もご都合主義なところが多かったのですが、本書でもやはりそう感じました。
著者は経済ジャーナリストとのことですが、小説的な面白さがなくても、もう少し情報量があればそれはそれで納得できたのですが…。