伊東 乾
東大式絶対情報学

作曲家・指揮者にして東大大学院情報学環助教授による「絶対情報学」の教科書です。
東大教養課程で全学必修・文理共通科目「情報」での指導方法をもとに書かれています。
「東大式絶対情報学」と書かれるとどんなものかと構えてしまいますが、インターネットを始めとした「IT知」をいかに活用するか、について認知科学と経験をベースにノウハウとして書かれたものです。
ビジネスマンとしては当然身に着けていることも多いのですが、内容は知識の整理になりますし、「手指ストレッチ」などはすぐに役に立ちます。
第一人称性情報感、第二人称性情報感、第三人称性情報感という整理の仕方は頭に入りやすく、覚えておきたいと思います。
ただ、この本を読んで一番の驚きは、現在の東大生は、こんな授業を「必修で」受けている、ということでした。
頭の柔らかいうちにこういう知識を身につければ、「IT知」のレベルがわれわれとは全然違ってしまいますね。

吉野 貴晶
サザエさんと株価の関係―行動ファイナンス入門

大和総研のチーフクオンツアナリストによる「行動ファイナンス入門」の本です。
タイトルにも使っている第1章の「『サザエさん』の視聴率で景気がわかる」から天候やペット、イベントなどを題材にして株価との相関を調べています。
データ収集と分析の労力には頭が下がりますが、正直、それはあんまり関係ないんじゃない?と思うものも結構あります。
「サザエさん」にしても、「『サザエさん』の視聴率が高い」→「日曜日の夕方に自宅にいる人が多い」→「外出してお金を使っていない」→「景気がよくない」→「株価低迷」というロジックですが、2003年からの2年半のデータで相関をみて結論を出していいのかなぁ?と思ってしまいます。
相関がマイナス0.86というのは逆に高すぎる気がしますし。
梅雨の降水量と株価の関係は、そもそもデータを見ても関係がなさそうな上、6月は決算発表月なので、そちらの影響のほうがたぶん大きいですよね。
お話としては面白いのですが、「行動ファイナンス」というよりは「統計を使ったこじつけ」という感じでした。

伊坂 幸太郎
終末のフール

3年後に小惑星が地球にぶつかるとわかった(わかったのは5年前)世界の話です。
舞台はもちろん筆者おなじみの仙台。「砂漠」で出てきたキックボクシングジムも出てきます。
混乱が終わった小康状態のなかで、仙台北部の丘に造成されてできた団地「ヒルズタウン」の住人たちがどう過ごすのか、
家族を思いやることができなかった父親、両親が死んでしまい父親の蔵書を4年かけて読み終えた女性、レンタルビデオ屋の青年とその家族など8編のストーリーが描かれています。
筆者も謝辞のなかで触れていますが、キックボクシングジムを扱った「鋼鉄のウール」が印象に残りました。
「明日死ぬとしたら、生き方が変わるんですか?」「あなたの今の生き方は、どれくらい生きるつもりの生き方なんですか?」という科白には自らを省みて答えに詰まってしまいます。

大塚 ひかり
オバサン論―オバの復権をめざして

私よりひとつ下の1961年生まれの「オバサン」古典エッセイスト大塚ひかりさんが書いた「オバサン論」です。
「オジサン」もイヤですが「オバサン」という言葉にもネガティブなイメージがつきまとっています。
著者は、「オバサン」の条件を
イ.図々しい・厚かましい・羞恥心がない
ロ.外見が醜い・カラダに贅肉がついている
ハ.生活臭が漂う
ニ.おしゃべり
ホ.知りたがりや・おせっかい
ヘ.品がない
ト.理屈抜き・一見、論理的に見えてそうじゃない
チ.地球は自分を中心に回っているかのように振る舞う・自己中心的
リ.元気
ヌ.万事につけてうるさい
とこれでもかと挙げていますが、一見悪条件に見えるこれらの特徴も「源氏物語」や「平家物語」「栄花物語」など古典に例をとってポジティブに解釈しています。
「黙っていられないオバが文学・歴史を作った」という話には確かにそうかなぁという気もします。
「源氏物語」も「更級日記」も「枕草子」も全部女性(オバサン)ですよね。
「道長を出世させたオバたち」にもなるほどと思いました。
オバサンの眼力によるヒキ(おせっかい)で道長は出世したとも言えるようです。
この本では、源氏物語に登場する源典侍(げんのないしのすけ)というオバサンが再三登場します。
光源氏にかげでバカにされたりするのですが(著者も書いているように紫式部の悪意もあるのでしょう)、結構魅力的なオバサンです。
「年相応」にならないというのはいいですよね。
江戸時代になると二十歳前後で「年増」三十歳を過ぎると「大年増」となって「年相応」が求められるのに対して、平安時代にはそういう概念がなく、むしろ現代は平安時代に似ているようです。



ダン・ブラウン, 越前 敏弥, 熊谷 千寿
ダン・ブラウン, 越前 敏弥, 熊谷 千寿
パズル・パレス (下)
パズル・パレス (上)
「ダ・ヴィンチ・コード」の作者ダン・ブラウンのデビュー作です。
米国の情報機関NSAが保有する世界中の情報を解読できるコンピュータ「トランスレータ」とそれを無効にする新たな暗号アルゴリズム「デジタル・フォートレス」。
NSAの美人暗号解読官スーザン・フレッチャーとその恋人でハンサムで頭脳明晰な大学教授デイヴィッド・ベッカーが活躍し、当然ながら最後は危機は回避されるという物語です。
ストーリーにひねりはありますが、ステレオタイプな感は否めず、映画にしてもB級大作という感じではないでしょうか。
緊迫の最後、パス・キーを探すのですが、たぶん、かなり早いところで、読者にはわかってしまうのではないかなぁと思います。
あと、本筋とは関係ないですが、「デジタル・フォートレス」を仕掛けた元NSAの天才日本人、エンセイ・タンカドって名前はどうかと思います。
どうみても日本人の名前ではないですよね。
ソフト会社社長トクゲン・ヌマタカはまだ有り得ると思いますが。
マイケル・S. ガザニガ, Michael S. Gazzaniga, 梶山 あゆみ
脳のなかの倫理―脳倫理学序説

副題が「脳倫理学序説」と題されているように、脳神経科学界の第一人者であるガザニガが、脳研究が進んだことによって新たに直面することになった「脳倫理学」について、考察した本です。
「第1部 脳神経科学からみた生命倫理」では「胚はいつから人になるのか」「老いゆく脳」の2つの章で、受精後いつの時点で人とみなせるのか、逆に、脳が衰えていったとき、意識の終焉とは、といったことについて、最新の研究をもとに見解を述べています。
社会的にも難しい問題を含んだ内容ですが、脳のシナプスの発達、胎内から出ても生きていくことが可能ということから、法律で保護すべきは23週目という結論を出しています。
議論は、様々な見方に配慮しつつ展開され、説得力があります。
「第2部 脳の強化」では「よりよい脳は遺伝子から」「脳を鍛える」「脳を薬で賢くする」の3章で、着床前診断、遺伝子操作等についての議論を展開しています。
「第3部 自由意志、責任能力、司法」では「私の脳がやらせたのだ」「反社会的な思想とプライバシーの権利」「脳には正確な自伝が書けない」の3章で、自由意志の問題を中心に、司法との関連を取り上げています。
脳がその行動を認識する前に既に活動を始めていることなどの研究成果をもとに、自由意志の根拠は思ったほど強くはないことを述べつつ、だからといって責任能力がないとは言えないと述べ、また、米国の裁判で重要視される証言については、記憶のあいまいさを元に、その危険性について述べています。
最後の「第4章 道徳的な信念と人類共通の倫理」では、「信じたがる脳」「人類共通の倫理に向けて」では、人類共通の道徳的志向などを脳科学の研究成果を引用しつつ説明し、人類共通の倫理を理解し、定義する努力が必要であると結論付けています。
哲学・倫理学について考えるには、もはや脳科学を抜きにして語ることはできず、そうした入門書としても非常に読みやすい本です。


町田 康
正直じゃいけん

エッセイ集ですが、2000年前後にいろなところに書いたものの寄せ集めです。
町田節は読んでいて楽しいので、別に悪くはないのですが、軽い息抜きという感じでしょうか。
町田康の文体と論理展開を毎日少しずつ読んで「ふふっ」と笑って楽しむような本です。

安部 司
食品の裏側―みんな大好きな食品添加物

食品添加物の専門商社の敏腕セールスマンだった著者が、食品の“裏側”告発していく本です。
著者は毒性を云々言うわけではなく、知ってうまく使ってほしいということを強調しています。
食品添加物なしでは、安くて見栄えがよく日持ちのする食品というのはありえません。
ただ、それを知って自分がどういう食事をするのか、考えてください、ということをわかりやすく述べています。
3大添加物食品として「明太子」「漬物」「練り物・ハム、ソーセージ」が挙げられていますが、それを読むとやはりこれはちょっと…と思ってしまいます。
今まであまり気付かなかったものとして「しょうゆ風調味料」と「丸大豆しょうゆ」の違い、「コーヒーフレッシュの正体」などでも具体的にまったく違うものであることが書かれています。
そうした記述のあと、メリットもある食品添加物との付き合い方として、以下の5つのポイントを挙げています。
1.「裏」の表示をよく見て買う~「台所にないもの=食品添加物」
2.加工度の低いものを選ぶ~手間を取るか、添加物を取るか
3.「知って」食べる~1週間というスパンで考える
4.安いものだけに飛びつかない~安いものには理由がある
5.「素朴な疑問」を持つこと~添加物と付き合う最初の第一歩
この本を読んだあとにスーパーに行くと思わず食品の裏をひっくり返してみてその成分表示を見てしまいます。
実際の行動や考え方にも影響を与えるインパクトのある本です。


養老 孟司
超バカの壁

養老孟司さんに対する質問を編集部がまとめてそれに答える形で出来上がった本ということで、読みやすいですが、特に一貫した内容とはなっていません。
養老孟司さんのファンにはいいと思いますが…。
あと若い人にはいいかもしれませんね。
「オンリーワンよりただの人」「時期がくる」など、「自分探し」をしている若者に、それはムリなことだよと伝えてあげるのは意味があるかもしれません。

マイケル レイ, Michael Ray, 鬼澤 忍
ハイエスト・ゴール―スタンフォード大学で教える創造性トレーニング

「スタンフォード大学で教える創造性トレーニング」だそうですが、抽象的な精神論みたいな話で、よくわかりませんでした。
実際に授業を受けたらまた違うのかもしれませんが、この本を読んで「創造性」が目覚めるとはとても思えません。
目次はこんな感じです↓
1 情熱と成功を乗り越えよう
2 自分自身の道を歩もう
3 最高のゴールとともに生きよう
4 真の成功を見いだそう
5 不安を突破口に変えよう
6 心で他人とかかわろう
7 あらゆる瞬間にシナジーを感じとろう
8 生産的なリーダーになろう