- マイケル・S. ガザニガ, Michael S. Gazzaniga, 梶山 あゆみ
- 脳のなかの倫理―脳倫理学序説
副題が「脳倫理学序説」と題されているように、脳神経科学界の第一人者であるガザニガが、脳研究が進んだことによって新たに直面することになった「脳倫理学」について、考察した本です。
「第1部 脳神経科学からみた生命倫理」では「胚はいつから人になるのか」「老いゆく脳」の2つの章で、受精後いつの時点で人とみなせるのか、逆に、脳が衰えていったとき、意識の終焉とは、といったことについて、最新の研究をもとに見解を述べています。
社会的にも難しい問題を含んだ内容ですが、脳のシナプスの発達、胎内から出ても生きていくことが可能ということから、法律で保護すべきは23週目という結論を出しています。
議論は、様々な見方に配慮しつつ展開され、説得力があります。
「第2部 脳の強化」では「よりよい脳は遺伝子から」「脳を鍛える」「脳を薬で賢くする」の3章で、着床前診断、遺伝子操作等についての議論を展開しています。
「第3部 自由意志、責任能力、司法」では「私の脳がやらせたのだ」「反社会的な思想とプライバシーの権利」「脳には正確な自伝が書けない」の3章で、自由意志の問題を中心に、司法との関連を取り上げています。
脳がその行動を認識する前に既に活動を始めていることなどの研究成果をもとに、自由意志の根拠は思ったほど強くはないことを述べつつ、だからといって責任能力がないとは言えないと述べ、また、米国の裁判で重要視される証言については、記憶のあいまいさを元に、その危険性について述べています。
最後の「第4章 道徳的な信念と人類共通の倫理」では、「信じたがる脳」「人類共通の倫理に向けて」では、人類共通の道徳的志向などを脳科学の研究成果を引用しつつ説明し、人類共通の倫理を理解し、定義する努力が必要であると結論付けています。
哲学・倫理学について考えるには、もはや脳科学を抜きにして語ることはできず、そうした入門書としても非常に読みやすい本です。