篠田 節子
讃歌
テレビ制作会社で働く小野は、レコード制作会社社長の熊谷の誘いで、教会でのボランティアコンサートを聞きに行く。
そこで耳にしたビオラ奏者柳原園子の演奏に魂を揺さぶられ、番組制作を決意、天才少女の栄光と挫折を追ったドキュメンタリーは好評を博し、園子は一躍スターになるが、経歴詐称疑惑が発覚、マスコミも一転バッシグに…。
クラシック音楽に疎い私には、ホンモノとニセモノの区別はつきませんし、ホンモノでないといけないのかどうかもわかりません。
ストーリー展開は面白く、一気に読めます。
海堂 尊
チーム・バチスタの栄光

第4回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作品。
東城大学医学部付属病院では、米国帰りの天才外科医桐生助教授をヘッドとする心臓移植の代替手術であるバチスタ手術の専門チーム「チーム・バチスタ」を作り、次々に成功を収めていた。
ところが今、三例続けて術中死が発生。そこで病院長から内部調査の役目を押し付けられたのが、神経内科教室の万年講師で、不定愁訴外来(通称「愚痴外来」)責任者・田口。
後半からは厚生労働省の変人役人・白鳥も登場し、真相を解明していきます。
作者も勤務医ということで、病院の世界もよく描けているのですが、それ以上に登場人物のキャラクターが抜群です。
有能だが変人の白鳥、懐の深い病院長、真摯な桐生、ほかの脇役もそれぞれがユニークです。
白鳥の田口への「アクティブ・フェーズ(日常生活に心理学を応用する枠組み)」の勝手なレクチャーもためになります。

畠中 恵
アコギなのかリッパなのか

引退した大物議員の事務所に事務員として勤める21歳の佐倉聖。
ここに持ち込まれる難題を解決していくお話です。
畠中さんの作品は「しゃばけ」「ぬしさまへ」などの江戸ものファンタジーしか読んでいなかったので、現代を舞台にしたものは初めて読みました。
悪人の出てこないふんわりした感じは共通しています。

伊坂 幸太郎
砂漠

東北大学の学生5人組(男3、女2)のキャンパスライフを描いた作品です。
伊坂作品らしく、メッセージを発しつつも、押し付けがましさがありません。
「その気になれば砂漠に雪を降らすことだってできる!」といきなり自己紹介で話し出す、「西嶋」のキャラクターが秀逸だからでしょう。
「東南西北」「平和」「中」など麻雀も重要な小道具になっており、最近はやらなくなってしまったので、懐かしい感じがしました。
超能力や犯罪「プレジデントマン」など話の展開も面白く、ぼくの中では、伊坂作品のなかでも上位に入ります。
傍観者になってはダメだ、行動しよう、と反省しました。

筒井 康隆
銀齢の果て

政府に指定された地区の老人同士が1ヶ月の期間で殺し合いを行うシルバー・バトル。
無責任な介護制度や年金制度に対処しきれなくなった政府が作った「老人対策」です。
久々の筒井康隆のスラップスティックで、昔の作品を彷彿とさせます。
極限状況でのやりとりをニヒリスティックに描いていて笑えます。
山藤章二のイラストもぴったりです。


石田 衣良
てのひらの迷路

ちょうど直木賞を受賞した時期を挟んだ2年間に雑誌に連載した24編のショートショート集です。
内容は私小説的なものやファンタジーっぽいものなど様々です。
小説よりも「I氏の生活と意見」のようなエッセイ風のもののほうが面白かったですね。

黒木 亮
巨大投資銀行 (上) (ルビ:バルジブラケット)
黒木 亮
巨大投資銀行 (下) (ルビ:バルジブラケット)

1980年代半ばに東都銀行(第一勧銀)を退職し、モルガン・スペンサー証券(モルガン・スタンレー証券)に転職、日本産業銀行(興銀)の常務となったもののやまとFG(みずほFG)の権力争いから再びモルガン・スペンサーに戻ろうとしたが、最後は国有化されたりずむHD(りそなHD)会長となる桂木英一を主人公として外資系インベストメントバンクの世界を描いた作品です。
同じ頃金融業界にいた私としては懐かしいエピソードがたくさん出てきます(実際に私がかかわったディールもちらっと出てきたりしました)。
映画「ウォール街」のゲッコー(マイケル・ダグラス)のモデル・アイバン・ボウスキー、ジャンクボンドの帝王マイケル・ミルケン、ドリームチームLTCMなど、アメリカの金融界の話や、日本航空、三菱地所を始めとする日本企業の不動産投資やセゾングループによるインターコンチネンタルホテル買収等、臨場感溢れた描写がされています。
ただ、金融界と縁のない読者にはやはり難解なのではないかなぁという気はします。

高嶋 哲夫
M8(エムエイト)

昨年末にこの著者の「TSUNAMI」という本が出たのをみて、先に出たこちらから読んでみようと思い、手に取りました。
小説としては、登場人物よりも地震のほうが主人公という感じですが、地震の描写については期待通りで、東京直下型地震のすごさを感じました。
いずれ来ると思っていても、なかなか備えはできないものですが、やはり家でできることぐらいはしておかないと家具や家屋につぶされてしまうなぁ…と反省しました。
政府には高速道路をつくるよりは地震対策にお金を使ってほしいと思います。

朱川 湊人
わくらば日記

昭和32年から昭和35年までの東京・荒川近くに住む姉妹を中心にした短編連作集です。
姉は美人で、人やものから、過去にあった出来事を見ることができる「透視術」の能力を持っています。
姉は夭折してしまうのですが、妹が過去を語る視点から物語は描かれています。
映画「Always三丁目の夕日」と通ずる、貧しいけど共同体のあった世界、モノが増えることが幸せにつながる時代でした。
そうした時代を背景にちょっと哀しい事件が「透視術」で解決されていきます。
後半の物語のほうがそうした点がうまく描かれているように感じました。
続編も期待しています。

伊坂 幸太郎
魔王

ファシズム、群集心理の恐ろしさを描いた作品ということになるのだと思いますが、たしかに世の中がこういうふうに動くことはありうるなぁと思いました。
小説は面白く読んだのですが、せっかくの「腹話術」の超能力、もう少し有効に使えたのでは?と思わないでもありません。
シューベルトの「魔王」や宮沢賢治の詩などもわかりやすいほどの比喩でした。
とはいえ、最後まで惹きつけるストーリーテリングと登場人物の描写はさすがです。
群集に銃殺され、ムッソリーニとともに逆さ吊りにされた愛人、クラレッタのスカートを縛ってあげる人になれるかどうか、という問いには、難しいけどそうありたいと思いました。