林 真理子
アッコちゃんの時代

ぼくは林真理子さんの小説はほとんど読んだことがないのですが、この小説は、バブルの頃を舞台にしたということで、懐かしい気持ちもあり、読んでみました。
地上げの帝王の愛人からキャンティの創業者の息子で女優と結婚している男の妻の座を得たという「アッコちゃん」の物語です。
男は金と権力と育ち、女は美貌、という非常に俗物的な価値観がベースとなっています。

(読んでいて、それに批判的な見方は感じられませんでした)
久しぶりに読んで後味の良くない小説でした。

山本 一力
かんじき飛脚

江戸と加賀の間を7日間で走る三度飛脚。
加賀藩の密命を受け、師走の金沢から江戸まで、密丸を届けるべく、飛脚たちは雪の中を江戸に向かいますが、これを阻止しようとする幕府のお庭番。
飛脚たちのチームスピリットとプロフェッショナリズムが心地良く、また、それを支える宿場の人たちなど、感情移入しやすい展開で、最後まで楽しませてくれました。

桐野 夏生
アンボス・ムンドス

桐野夏生さんは、人間のイヤな面を描くのがホントに上手いと思います。
この本は7編の短編集で、すべて女性が主人公ですが、あまりかかわりたくないタイプばかり出てきます。
特に「植林」の主人公の歪み方はかなりなものです。
タイトルとなっている「アンボス・ムンドス」は似たような事件が実際にあったような気がしますが、そこからここまで意地悪な想像力を働かせるとはさすがです。
ホラー小説ではありませんが、並のホラー小説より背筋が寒くなります。

朱川 湊人
かたみ歌

直木賞受賞作の「花まんま」に続いて出版された短編集です。
「花まんま」が30年ぐらい前の大阪を舞台にしていたのに対し、「かたみ歌」は同じ頃の東京下町が舞台です。
アカシア商店街で働く人や近くに住む人に起こる不思議な物語7編。
ノスタルジックホラーという感じですが、ホラーというよりも懐かしさを感じます。
映画「Always」の時代はまだ生まれていませんでしたが、「かたみ歌」の時代には東京下町に住んでいたので、その雰囲気はわかりすぎるほどわかります。
心地よいノスタルジーが味わえます。

上甲 宣之
地獄のババぬき 『このミス』大賞シリーズ

第1回「このミス」大賞で「隠し玉」を受賞した作者の2作目です。
卒業旅行のため夜行バスで東京へ出発したしよりと愛子ですが、なんとバスジャック事件が発生、
気づかないうちに飲まされた猛毒が、全身に回って絶命するまで一時間しかなく、犯人の命令により、しよりたち乗客は解毒剤を賭けて命がけのトランプ対決に挑戦しなければならなくなってしまった…という話です。
しかもババぬきはテレビ中継されるというばかばかしい設定ですが、トランプ技術、マジック技術、心理戦、超人的能力のせめぎあいで、一気に読めます。

恒川 光太郎
夜市

デビュー作にして日本ホラー大賞受賞、直木賞は惜しくも逃した本です。
「夜市」と「風の古道」の2編が収められています。
静かな語り口で独特な雰囲気を醸し出しています。
「夜市」は何でも売っている不思議な市場です。
幼いころ夜市に迷い込んだ祐司は、弟と引き換えに「野球選手の才能」を手に入れたのですが、罪悪感に苛まれていました。
学校蝙蝠の知らせで夜市が開かれることを知って弟を買い戻しに向かいます。
「風の古道」は幼い頃に迷い込んだ「道」に友人と一緒に入った少年と「みち」で生まれた水牛車を持つ旅行者の物語です。
2編とも異界譚でホラーファンタジーという感じでしょうか。
ラストのオチもうまく、次作も期待できます。

加藤 廣
信長の棺

75歳にして小説デビュー、しかもベストセラーということで、読んでみました。
歴史ミステリーということですが、謎解き部分が一人の人物による説明で終わってしまったので、ミステリーとしてはちょっと物足りない感じでした。
やはり伏線があって最後に謎が解き明かされるような構成にしてほしかったのですが…。
主人公である太田牛一と女しのびとの恋愛も不要な気がします。
信長の死の真相、桶狭間の戦い、丹波者等題材は面白かったので、そこにもっと焦点を当てたほうがすっきりしたのではないかと思います。

垣根 涼介
君たちに明日はない

リストラを請け負う会社「日本ヒューマンリアクト」の社員・村上真介が担当する案件と、それにかかわる人物を描いた5編の連作短編集です。
山本周五郎賞受賞作品なのですが、主人公には共感できず、ストーリーも意外性がなく平凡でした。
なぜこんな駄作が賞をもらえるのか、自分の読書眼がないのか、悩んでしまう本です。
とってつけたような濡れ場もいらないと思うのですが…。

石田 衣良
東京DOLL

若き天才ゲーム制作者相楽と、コンビニで発見したゲームの新作のモデル少女ヨリの恋愛と東京のおしゃれスポットを描いたお話です。
石田衣良は好きな作家なのですが、この小説はいまひとつ共感もできないし、ちょっとお手軽な感じがしました。
「池袋ウエストゲートパーク」や「アキハバラ@DEEP」を期待するとがっかりです。
石田衣良を読んだことのない人には読んでほしくないです。

伊坂 幸太郎
死神の精度

死神の「千葉さん」の仕事は、情報部から指示された人間の死を「可」とするか「見送り」にするか、1週間で見極め決断すること。
趣味は音楽。
ちょっとずつ登場人物がからんでいる連作のような短編集です。
死神なので当たり前ですが、「千葉さん」の微妙にズレた感覚の設定が絶妙です。
感動を呼ぶという作品ではありませんが、クールで面白い作品です。