吾妻 ひでお
失踪日記

吾妻ひでおの美少女マンガ、ロリコンマンガにそそられたことはなかったのですが、「不条理日記」は大学生の頃に読みました。
たしか星雲賞かなにかを受賞していたんではないかと思います。
その後見なくなったなぁと思ってましたが、まさか、失踪、自殺未遂、路上生活、また失踪、配管工、アル中で入院という生活をしていたとは…。
「この漫画は人生をポジティブに見つめ、なるべくリアリズムを排除して描いています。リアルだと描くの辛いし、暗くなるからね。」 と冒頭に書かれていますが、まさに、その通りだし、吾妻ひでおの作風ともぴったりでした。
中島らものアル中小説もそうですが、壮絶な話を深刻にならない文体で描写しているところがすごいところだと思います。
しかし、冬の路上生活はやはりつらそうです。

見沢 知廉
ライト・イズ・ライト―Dreaming 80’s

著者は1959年生まれで、新左翼から新右翼へ、火炎瓶焼き討ち事件等で12年服役、昨年死亡した活動家です。
同世代ですが、われわれの世代では既にこうした政治活動に走った人は少なく、経歴に惹かれて読んでみました。
暴走族上がりで、新右翼T連合の事務所に出入りしている17歳の不良少年・ツカサと彼と同棲している新左翼の団体に所属する医大生・ヨーコを中心に、80年代の青春群像を描いた小説、という感じですが、いまひとつ現実感のない話でした。
小説という形ではなく、評論なりエッセイを書き遺してくれたほうがよかったと思わざるをえません。

奥田 英朗
港町食堂

すべてを船やフェリーを使って行くことをコンセプトに高知、宮城、釜山、日本海、稚内を訪れた紀行文です。
雑誌「旅」のスタッフと一緒に名物を食べ、スナックに入るという旅ですが、なんか楽しそうです。
連載の途中で直木賞を受賞して、ランクアップしたはずなのですが、その微妙な知名度がなんとも言えない感じです。
一人旅もいいですが、こういう旅行もいいなと思いました。
なんか、飲み会がずっと続いてるような楽しさです。
惜しいのは、せっかくカメラマンが同行しているのに、写真がほとんど載ってなかったことです。
たぶん雑誌連載時にはたくさん掲載されていたんでしょうね。

後藤 均
グーテンベルクの黄昏

第二次世界大戦前のパリに留学し、絵画を学んだ星野泰夫を主人公として、大戦中に起こったイギリス領ガーンジー島で起こった殺人事件の謎を解くミステリーです。
発見された死体は日本陸軍少佐、イギリス人のメイド、そしてゲシュタポと思しきドイツ人。その場にいるはずのない日本海軍の退役軍人が写真に写っていた…。
それに加えてヒトラーにまつわる謎も最後には解かれます。
ペダンチックな香りもしますが、ぼくはそういうのも好きなので、そうしたところも楽しめました。
でも西洋史にまったく興味がないと厳しいかもしれませんね。

桐野 夏生
魂萌え !

夫婦ふたりで平穏な生活を送っていた(と思っていた)関口敏子、59歳。
63歳の夫・隆之が心臓麻痺で急死し、その人生は一変しました。
コンビニ店員と付き合っている長女・美保と8年ぶりに現れて強引に同居を迫る長男・彰之との間に持ちあがる相続問題に夫の遺した衝撃的な秘密。
これまでの桐野作品とは違って犯罪や極端にグロテスクな人間心理は出てきませんが、それぞれが心の奥底に持っているどろどろしたものを描いています。
脇役の男性陣もそれなりに情けなさややるせなさが出ています。
平穏無事だと思って生きていても実は家族も含めてなにを考えているのかはわかりません。
おばちゃんの自立を描いた作品です。

村上 龍
半島を出よ (上)
村上 龍
半島を出よ (下)

北朝鮮のコマンド9人が開幕戦の福岡ドームを武力占拠し、2時間後、複葉輸送機で484人の特殊部隊が来襲、市中心部を制圧、彼らは北朝鮮の「反乱軍」を名乗る…。
政治に疎い読者、村上龍の作品を読みなれていない読者には読みづらいかもしれませんが、久しぶりに村上龍らしいパワー溢れる作品だと思いました。
そもそも権力は暴力装置であり、意思決定ができない統治機構は蹂躙されても仕方がないということをわかりやすく提示してくれます。
もし周到に準備されてこのようなことが起こったら、日本政府は対応できないのではないかと思わざるを得ません。
「優先順位をつけること」が政治のはずなのですが…。
視覚的にも場面を頭に描きやすく、ホテルの倒壊場面は映画のラストシーンのような美しい光景が思い浮かびます。

森福 都
狐弟子

唐代の奇譚集です。「鳩胸」「雲鬢」「股肉」「狐弟子」「石榴缶」「碧眼視鬼」「鏡像趙美人」の短編7篇が収められています。
森福都さんの作品を読むのは初めてでした。
それぞれ独立した作品なのですが、登場人物が魅力的なので、連作にしたものも読んでみたいと思いました。
「狐の化身」の弟子となった馬孝児とお師匠様の毛潜の今後の活躍もみてみたいですね。

川上 弘美
古道具 中野商店

いつもの通り淡々と話は進んでいきますが、お話自体は町内会のドロドロした恋愛のお話です。
川上弘美が描くと不思議とドロドロ感がなくなって、なんとなく心地よい世界になってしまいます。
主人公のヒトミさんのふんわりした感じ方が「センセイの鞄」のツキコさんっぽいです。

奥泉 光
モーダルな事象

冴えない短大助教授の桑潟幸一(桑幸)は、文学辞典の項目執筆で、戦後まもなく死んだ無名の童話作家・溝口俊平の項目をいやいやながら執筆する。
ある編集者がこの童話作家の遺稿を持ち込み、これが発表されるや評判を呼んで、「純愛ブーム」の追い風を受けてベストセラー、桑幸は時の人に…。
しかし、喜びも束の間、件の編集者が首なし死体で発見され、大事な遺稿も盗まれてしまう。
謎を追うのは、元夫婦探偵のライター兼ジャズヴォーカリストの北川アキと雑誌編集者をしている諸橋倫敦。
伝奇SFトラベルミステリーとも言うべき盛りだくさんの作品です。
メタフィクション的な部分は抑えめで、きちんとミステリーとして読める作品だと思います。
桑幸の小物っぷりも楽しめます。

重松 清
きみの友だち

小学生から中学生の子供たちを描いた作者らしい作品です。
小学4年生のときに交通事故で足が不自由になった「恵美ちゃん」とその弟のスポーツ万能で勉強もできる「ブンちゃん」を軸に10の話が語られます。
生きていくことの大変さと自立すること、自分の基準を持つことの大切さを感じます。
「恵美ちゃん」が病弱で長生きできない友人の「由香ちゃん」について「西村さん」に『いなくなっても一生忘れない友だちが、一人、いればいい』と語るところ(千羽鶴)や
『うつむいてから顔を上げるでしょ、その瞬間って、けっこう笑顔になってるの』という言葉(かげふみ)のあたりは涙が滲んでしまいます。
電車の中で読むときは要注意です。