友野 典男
行動経済学 経済は「感情」で動いている

旧来の経済学が前提としていた合理的で利己的な「経済人」。
30年近く前に経済学を学んだときにも違和感はありましたが、経済学とはそういうもんかと思い、だから、理論と実際の経済は別物なんだと感じていました。
「行動経済学」とは「人は実際にどのように行動するのか、なぜそうするのか、その行動の結果として何が生じるのかといったテーマに取り組む経済学」です。
行動経済学は非常に学際的な学問であり、認知心理学、社会心理学、進化心理学、社会学、倫理学、哲学、人類学、進化生物学、行動生態学、生理学、脳神経科学など様々な学問からの影響を受け、現在も進展しています。
本書では、いくつかの実験を示して、代表的な理論を説明し、最後には脳神経科学による実証も紹介しています。
説得力に富む本で、入門書として最適だと思います。
ヒューリスティクス(=便宜的な方法、「利用可能性」「代表性」「アンカリングと調整」)とバイアス、プロスペクト理論(「価値関数」←「参照点依存性」「感応度逓減性」「損失回避性」と「確率加重関数」)、「フレーミング効果」、「時間選好」「社会的選好」など、新しい概念が実験とともに紹介されています。
最終章では、脳のどの部分が活性化しているか、など脳神経科学の成果も利用して、行動経済学の概念を説明しています。
特に印象に残ったのは、利得を期待した場合に活性化する側坐核という部位が損失を予想した場合には活性化しないという事実で、プロスペクト理論の中心的な考え方である損失回避性が脳の働きによっても証明されています。
「行動経済学」の分野は今後も進展していくものと思いますが、政策への応用など、更に浸透していくことを期待しています。


石黒 達昌
冬至草

「希望ホヤ」「冬至草」「月の…」「デ・ムーア事件」「目をとじるまでの短かい間」「アブサルティに関する評伝」の6編が収められている短編集です。
掲載誌もSFマガジン、文学界、すばるとSF誌と純文学誌に分かれているように、SF的味わいの作品と純文学的味わいの作品が混在しています。
作者は外科医であり、科学的な記述はいかにもそれらしく、どこまでがフィクションなのか、素人には区別がつかず、作品に信憑性を与えています。
一方で、純文学的な味わいの部分はあまり好みではないのですが、「目をとじるまでの短かい間」が芥川賞候補にもなったように、評価は高いのでしょう。
掲載誌に関係なく「希望ホヤ」「冬至草」「デ・ムーア事件」「アブサルティに関する評伝」はSF的な色合いが濃く、面白く読めました。
「月の…」は稲垣足穂のような設定です。

樋口 裕一
バカを使いこなす聞き方・話し方

「頭がいい人、悪い人の話し方」がベストセラーとなった著者の最新刊です。
部下はだいたいバカである、との前提の下に、様々なバカを分類し、対応の仕方を説明しています。
「空気が読めないバカ」「体育会系バカ」「すべてにルーズなバカ」「大物ぶりたがるバカ」「他人任せバカ」等々細かく分類されていますが、要は「コミュニケーション不全」にどう対応するかということで、あまり場合分けをしても実際上意味がない気もします。
この本にはありませんでしたが「(こういう)本を読んでそのまま信じるバカ」というのもいそうです。

金田 理恵
一九六〇年生まれ

ぼくも同じ一九六〇年生まれなので、これは読まねば、と思って読んだのですが…。
期待通りの懐かしい部分もありましたが、同じ一九六〇年生まれでも、あの頃は、地域差も男女差も今より大きかったからか、ちょっとピンと来ないところのほうが多く感じました。
著者は、長岡で幼年時代を過ごし、その後フィリピンに住んだということで、東京で育った男の子とは感覚が違う気がしますが、図鑑の絵や学研の付録などは懐かしい感じがしました。

朱川 湊人
赤々煉恋

「死体写真師」「レイニー・エレーン」「アタシの、いちばん、ほしいもの」「私はフランセス」「いつか、静かの海に」の5作品が収録されている短編集です。
「花まんま」や「かたみ歌」などの懐かしさが前面に出ていた作品と違い、ホラーの色彩の濃い作品群です。
全体にあまり救いのない話が多いのですが、その中で、「私はフランセス」が印象に残りました。
ホラー作品は超自然的な事象を扱うことが多いですが、この作品は設定のうまさが光りました。

サイモン・シン, 青木 薫ビッグバン宇宙論 (上) サイモン・シン, 青木 薫ビッグバン宇宙論 (下)

天動説と地動説の盛衰から始まって、ビッグバン説が定着するまでを、科学者たちのエピソードを積み上げて描いています。
相対立する説の比較表(何が説明できているのか)は、何が証明されなければいけないのか、理解を助けてくれました。
古代の天動説から始まって、20世紀のビッグバンと定常宇宙説の争いまで、文系の人間でも興味深く、その議論と証明を追っていくことができました。
そもそもビッグバンなど途方もない考え方のような気がするのですが、その考え方が出てきた必然性がわかり、また、それがどのように証明されていったのか、人間ドラマも交えてわかりやすく説明されています。
ビッグバンについての本は何冊も読みましたが、この本が一番わかりやすかったと思います。
理論と実証の過程がよくわかりました。
高校時代にこういう本を読めば、物理にも興味を持てたのではないかと思います。

野内 良三
ジョーク力養成講座

ジョークというのは、下手に解説すると面白くないという見本のような本です。
著者は仏文学者なので、分類とか分析とかしてしまうのでしょうが、あんまり面白くないジョークの本はいかがなものかと思ってしまいます。
この本を読んでジョークの勉強すること自体、センスがない気がします。

佐藤 賢一
女信長

「信長は女だった」という設定は斬新ですが、全く破綻のない物語展開はさすがだと思います。
「御長」という存在もうまく使っています。「御長」と「御濃」との会話もユーモラスです。
後半は、本能寺の変に向けて明智光秀との関係がどうなるかと期待して読み進んだのですが、期待に違わぬ結末でした。
信長の偉業自体は、女性として描く必要はないかもしれませんが、本能寺の変については、女であることが必然となります。

北芝 健
警察裏物語

元警視庁刑事でコメンテーターとしてテレビ番組にも出演している著者が書いた警察の裏話。
横山秀夫を始めとするミステリーで馴染んでいるせいか、そんなに意外な話はありませんが、数ページのエピソードばかりで面白く読めます。
「青島刑事、室井管理官はどこまで出世できるのか?」などはさすがに警察組織の中にいたひとにしかわからないような話です。
ちなみに、青島刑事は、そのまま仕事を頑張ると昇進試験の勉強をする余裕がないので、階級でいうと警部補、役職としては所轄の係長か本庁の主任、室井管理官はそのままであれば県警本部長から局長、キャラを変えてゴマをすればさらにその上も有りうるとのことでした。

アルマン・マリー ルロワ, Armand Marie Leroi, 築地 誠子, 上野 直人
ヒトの変異―人体の遺伝的多様性について

「私たちはみなミュータントなのだ。ただその程度が、人によって違うだけなのだ」。
著者は、過去の文献に遡って、「結合性双生児」「単眼症」「半陰陽」などさまざまな奇形を紹介し、その原因を遺伝子レベルで説明します。
また、身長や肌の色などのほか、寿命や美についても述べています(遺伝子レベルの話を除くと長寿は節制が重要)。
過去の文献の説明や科学的な分子の働きの説明など、やや難解なところもありますが、ヒトの多様性について、見方が広がります。