Power of the Destiny -53ページ目

第4話 前兆(2/2)

その部屋には、長兄シャクランを除く兄妹たちと、その側近たちが密かに集まっていた。
緊迫した空気の中、ケイが重い口を開けた。


「皆もわかっていると思うが、この世界には現在【空】の力が存在しない。

長年の間、空の力が欠けていた為、その歪みが出てきてしまったようだ…。
あれほど温厚だったシャクラン兄さんが変わってきているのに気づいたものはいるだろうか。

力の均衡が崩れ、シャクラン兄さんの火の力が、兄さんを侵食しているように見えて仕方ない。
このままでは、この全世界が戦火の渦に巻き込まれてしまうだろう。
その前になんとか力の暴走を食い止めたいと思う。
誰か、世界を支える力について詳しく知るものはいないだろうか?」


ケイは部屋にいる全員を見渡した。

水の力を持つ第三王子サコウ、第一王女にして末妹、風の神殿神官長、風の力を持つアオリ。
風の神殿神官長補佐のナギ。それから、風の神殿警備隊長、魔法剣士のルウだ。
他には神殿の巫女たちが数名いる。皆顔を合わせ、ひそひそとささやきあっている。
その中で、一人考え事をしていた神官長補佐のナギがゆっくりと語りだした。


「世界を支える力について詳しく載っている書物…。

古の神話とも言われている書物で、 ”神々の力と魔導力の発動”の第27巻88章に記してあったのですが…。
五つの力は…この世界だけのものではないらしいのです。
…つまり、この世界以外にも同じような世界があり、その世界にも五つの力が存在しているというのです。」


どよめきが起こった。王家の人間以外には、ほとんど知られていない事実だ。


「皆、静かに。」


第三王子サコウが制すると、その場はまた静まり返った。


「神話にある五千年の昔、五つの力が神から贈られてからというもの、力の一つが欠けるたびに、小さな混乱は繰り返しあったようです。
三千年程前に起こったと言われるドワーフ大戦争では、 その力…、つまり別の世界から欠けた力を召喚することも行われていたみたいで、異世界からの力のおかげで、その戦争は終結を迎えたとも記してあります。
神話をどこまで信用していいものか、疑わしくはありますが…。」


語尾を弱めて、ナギは少しうつむいた。左上でポニーテールにしている長い髪がナギの頬の上に落ちた。

こことは異なる別の世界。皆がそれぞれにそのことについて話し始めた。
一刻ほどして、アオリが一人ケイの前に歩み出た。
皆の視線がアオリへと注がれ、ざわめきは遠ざかる波の音のように消える。


「ケイ兄さん…。シャクラン兄さんの異変には、私も少し前から気づいていました。
何か──何かはわかりませんが──、邪悪な力がこの世界を覆い始めています。
それが火の力の暴走のせいなのか、それ以外のものなのかはわかりませんが、はっきりしているのはデザイハムの内乱も、この邪悪な気配のせいだということです。
別の世界…、異次元への干渉は長らく禁じ手とされてきましたが、空の力を持つものを召喚してはいかがでしょうか?
風の力には空間を歪める力もあります。それに─私はもともと、空の力の者とは双子だったのですから、きっとその人を見つけることが出来ると思います。」


アオリはケイの目を見つめて、きっぱりと言った。そのスミレ色の瞳には、揺らぎない自信が溢れている。 ルウは皆の後ろから、そんなアオリを優しく見守っていた。
15年前のあの日、異形のものに母を奪われてから、幼いながらもずっと彼女を見守ってきたのだった。それが母の遺言でもある。
ケイもふっと目元をゆるめて愛しい末妹を見てから、また表情を引き締めて皆を見渡した。


「アオリの言うとおり、空の力を持つものを救世主として召喚することは早急に行われるべきだろう。
事態が悪化する前に力の均衡を取り戻し、現在起こっていることの原因を突き止め解決しよう!」


翌日から、風の宮殿は慌しくなった。
救世主召喚の魔法陣の準備で、宮殿中の神官が忙しく動き回っているからだ。
魔法陣は、通常ドラゴンの血液で描かれるが、今回はさらに強いパワーを得るために、マウグリット国・ロストフォレスの森に住む、人間に姿を変えることもできる藍色の龍、「聖正蒼(しょうせいおう)」の血液が必要だった。
なかなか手に入らないもので、さらに扱えるのが処女だけだったので、血液を採りに行く巫女たちの隊が組まれ、その巫女を守る女戦士たちが数名同行することになった。

「ロストフォレスは迷いの森。正しい心を持つものだけが蒼き龍に出会えるでしょう。
一刻を争います。道中気をつけて、無事に戻ることを祈っています。」

巫女と戦士たち全員の額に、風の力の祝福のキスをして、アオリは巫女たちを見送った。