第6話 悪夢のような…(2/3)
巫女が回復するまでの間、彼女が命がけで持ち帰ってくれた聖正蒼の血液で、魔法陣を描く作業は続けられた。
不気味なことにシャクランは、そのことについて何も関心を持っていないかに振舞っていた。
一週間ほどした頃、巫女は意識を取り戻し、話が出来る程度までになった。
その日もアオリは、巫女のためにナビオカの薬草を摘んで、彼女の寝室へと運び込んでいた。
──ナビオカという植物は、真っ白い花と紫の実を付ける多年草で、花は香りを嗅ぐだけで気分を良くしてくれ、実は麻痺を治し、醗酵させた果汁の酒は石化を止め、一年に一度付ける金色に輝く実は、瀕死の状態をも回復してくれる(とも言われている)、まさに万病に効く素晴らしい植物である。ただし、非常に値段が高いのが難点ではあるが…──
アオリが薬草を花瓶に生け終えたとき、彼女もちょうど目を覚ました。
「気分はどう?大変だったわね。ゆっくりお休みなさい。」
アオリは優しく微笑みながら彼女に話し掛けた。
しばらく放心したような瞳でアオリを見つめていた巫女は、意識がはっきりしない間も懸命に看病するアオリの声を聞いていたのを思い出し、感謝の気持ちで目に涙をため、見る見る大粒の雫をこぼしながら口を開いた。
「…ア、アオリ様。助けていただいてありがとうございました。」
まだ少し声は枯れている感じだったが、意識はもうはっきりしているようだ。
彼女は懸命に話し出した。
「私たちの船は晴天に恵まれ、一週間ほどの航海の後、何事もなくジオロジクル国にたどり着きました。
迷いの森と言われるロストフォレスも、そのときばかりは私たちを歓迎するかのように道が自然と開き、 聖正蒼(しょうせいおう)のもとへ導いてくれたのです。
青白く発光する湖の岸辺に聖正蒼は現れました。穏やかで時間の流れを忘れる、心地よい一時でした。
かの龍は不思議な千里眼を持ち、我々の目の前で人の姿へと変貌する様は、 神々の美しさを思わせるほどでした。
私たちがそこへ来た理由もすでにわかっていたみたいで、差し出したミスリルナイフを自ら受け取り、そのしなやかな腕にナイフを一筋入れて、私たちに彼の血を分けてくださったのです。
私たちは一晩、その湖の近くで暖を取り、ゆっくり体を休めることができました。
…しかし翌朝になってみると、森に入ってきたときの道が閉ざされているみたいに、全く道を見つけることが出来ずに、さらに森の奥へと迷い込んでしまったのです。」
巫女はいったん息を落ち着かせ、アオリが渡してくれた薬湯を喉に流し込んだ。
そして、何か思い出したくないことを思い出すように苦悶の表情を浮かべる。
「私たちはすでに、聖正蒼に守られていた聖域から離れてしまったようで、周りには魔物の姿も現れ始めました。
そこからはひっきりなしに現れる魔物たちとの戦いが続きましたが、私たちはやっと森の切れ目を見つけて、その光を求めて森を抜けました。
しかしそこは、おそらく入ってきた方向とは全く反対側だったのです…。
森を抜け視界が開けると、…遠くに霞む島に巨大な城の姿を臨むことができました。
あれが、うわさの城だったのでしょうか…?」