Power of the Destiny -52ページ目

第5話 悪夢のような…(1/3)

魔法陣を描くための聖正蒼(しょうせいおう)の血液を採取しに行った一行は、
一ヶ月という時間を経ても戻ってきていなかった。

「母なる海を渡る、安全で早い航路を取っているはずなのに…。
最短で半月ほどで戻ってこれる旅だわ。

…何かあったのかしら。」


アオリは風の神殿の最上階から、スミレ色の瞳を曇らせて心配そうにジオロジクル国の方角を見ていた。
空は晴れ渡り気持ちのいい風が吹く、航海するには最適な日々が続いているだけに余計不安は募る。
隣で望遠鏡を覗いているルウも、帰りの遅い彼らを心配していた。
ルトナックの港に照準を合わせようと先をめぐらせていると、望遠鏡の端に何かが映った。
ルウは慌てて照準を定める。
青白い光が、ジオロジクルの方角へ飛んでいくのを一瞬だけ捕えて見失ったが、光が現れた付近に何かを発見した。


「アオリ様!何かが、ルトナックのほうへ近づいてきます!
あれは…、船だと思うのですが…。」


行ってみましょうと、アオリはルウを促し、二人はルトナックへと急いだ。



ルトナックに着くと、港には船が入ってきていた。一月前に航海に出た船だ。
そのはずなのだが、船はひどい有様だった。
まるで、幽霊船のようにあちこち壊れかけた船体。
マストも真中から真っ二つに折れている。この分では、ルトナックの港に戻れたのも偶然に違いない。


「なんて…、ひどい…。何があったというの…?」

アオリは呆然として、船に近づいた。甲板には誰の姿も見当たらない。
アオリはざわつく胸騒ぎを感じながら、船上へと向かおうとした。

「アオリ様、私が先に入ります。」

ルウがアオリの前に立って、船の中へと入っていく。


船の中もひどい有様だ。何もかもがめちゃくちゃに壊れていて、一部からは浸水も発見された。
よく、ここまでたどり着いたものだ。
アオリは絶望的な思いにとらわれながらも、懸命に生存者を探した。


「誰かっ!誰かいないの!?お願い、返事をしてっ!!」


静まり返った船室の中で、アオリの声だけがこだました。
ふと、何か聞こえたような気がして、アオリとルウは身をこわばらせた。
そして注意深くあたりを見回す。


「誰?誰かいるのね?どこなの?出てきてちょうだい。」


今度は確実に、うめく声が一番奥の船室から聞こえてきた。
書物がたくさん並んでいる部屋で、本棚がめちゃめちゃに倒れている。
声はその棚の下から聞こえるようだ。


「大変!!!」


アオリとルウは、急いで棚のそばへ駆け寄ると、倒れている棚を慎重に押し上げた。
そこには一月前に風の神殿を出発した、一人の巫女がいた。
かろうじて着ている物で巫女とわかる、と言ったほうが正しいだろうか。
皮膚には焼け爛れた後が無数にあり、ひどい臭いが立ち上った。
彼女はうつぶせに丸くなっており、胸の中には聖正蒼の血であろう、青い光を放つ液体の入った壜を大事そうに抱えていた。
発見するのが、もう少しでも遅れていたら、彼女は助からなかっただろう。
ひどく衰弱していた。
アオリがその場で最上級の回復魔法メレアフをかけ、何とか一命を取り留めたのであった。
しかし船内には、彼女以外の人影は全く見つからなかった。

「回復を待って話を聞きましょう。」


アオリは辛そうなまなざしをルウに見せないようにうつむいた。