Power of the Destiny -55ページ目

第2話 プロローグ(2/2)

幻影界では、今、まさに新しい力が生まれようとしていた。


サラウント国、ルトナックを城下に望む、プロパリア城。
その一室で、王妃は双子の出産を控えていた。
傍らには王妃の側近で巫女、フーリンとその2歳になる息子ルウが王妃を見守っている。


「ねえ、フーリン。
 生まれてくる子達は、新しい力を持っているわ。
 私の風の力を受け継ぐ子と、今少しの間留守になっている空の力…。
 私の中で育っていたのね。 とても温かく大きな力を感じるのよ。
 きっと、世界を導く子達になるわ。」


王妃は優しく微笑んだ。その手を握りながらフーリンは言った。


「ええ、勿論ですとも。生まれてくる子達は、貴女のように気高く、美しく聡明であるでしょう。
 私の息子ルウには、二人をお守りする戦士になってもらわないと。」


二人は目を合わせて、秘密事を話しているかのように、フフフと笑った。
ルウは、母親の服の裾をしっかりつかんで二人を見つめている。


「それにしても、貴女のお腹に二人も子供がいると知ったら、王はさぞかしお喜びになるでしょうね。それから、三人の王子達も。」
「そうね、驚かせたくて秘密にしてたこと、あの人は怒らないかしら?私の大切な坊やたちも喜んでくれるといいのだけど…。」
そう言いながら王妃は、少しまぶたを閉じた。

その日の真夜中になって、王妃が産気づいた。
「フーリン、フーリン。もう生まれるわ。側にいて手を握っていて頂戴。」
外は雨こそ降っていないものの、暗雲が星空を隠し、風はゴウゴウと音を立てて吹き荒れている。
新しい命が誕生してくるというのに、不吉な夜だという考えを王妃は振り払った。
王妃の隣でうとうとしていたフーリンは、すぐにしっかりと王妃の手を取る。
隣のベッドで横になっていたルウも、そのまぶたを開けた。

元気な産声を上げて、最初に生まれたのは女の子だった。
「ああ、私の力…風の力をを受け継ぐ子だわ。アオリと名づけましょう。」
額に大粒の汗を浮かべた、王妃の苦しそうな表情が一瞬和らいだ。
「ええ、さあもう一人いらっしゃいますよ。頑張ってください!」
フーリンが声をかけた途端、部屋の窓が風にこじ開けられ、ねっとりとした生暖かい空気が部屋の中を蹂躙していく。
その時生まれたばかりの赤ん坊を除く三人は聞いた。
低くくぐもった、この世のものとは思えない恐ろしい声を。


見つけた!見つけたぞ!!

我を封じた空の力!今度こそ私は蘇る!!!



風が渦を巻いたかと思うと、窓の外から無数の黒い触手が這い上がってきた。
フーリンの手には、たった今取り上げられたばかりの男の子がいる。


「王妃!逃げてください、王妃!!」


フーリンは片腕で赤ん坊を抱きながら、触手に向かって風の魔法をかけるが一向に効く気配がない。
黒い触手は、フーリンと男の赤ん坊に巻きつき、さらには王妃へと迫っていた。
触手はフーリンをぐいぐいと締め上げ、彼女の口からはすでに呪文も悲鳴も上がらなくなっていた。
産声を上げる間もなく、赤ん坊は触手の中に消え、王妃は我が子を助けようと渾身の力を込めて風の精霊の大魔法エクスカリバーを唱えた。
触手の何本かが途中で嫌な音を立ててちぎれ、フーリンに巻きついていた触手ごと床に叩きつけられた。
そして触手は、王妃の手前でその動きを止め、目にもとまらぬ速さで暗闇の中へと消えていった。

「ああ、フーリン、お願いよ目を開けて。私の赤ちゃんが…!」


ひどい出血で、王妃はその場に倒れこんだ。


「ヒュウ…。空の力を持つ子よ…。…。」


その言葉を最後に王妃も事切れた。

それは、本当に一瞬の出来事だった。
ガラスの割れる音に、兵士が駆けつけたのは、それから数分後のことだった。
王妃の寝室は地獄絵図と化していた。
目を見開いたまま苦悶の表情で死んでいるフーリン、ベッドの上の血だまりでうつ伏せに亡くなっている王妃、張り裂けんばかりの鳴き声で泣いている生まれたばかりのアオリ、そしてそのアオリを守るように赤ん坊が入っている籠に覆い被さり声を殺して泣いているルウがいた。

ただ、あの触手だけは、蒸発してしまったかのように跡形もなく消えていた。