今年の桜は当初、例年より1週間早いと予報された。しかし、その後気候が寒くなり、一体どうなっているのかわからなくなった。なので、旧合川高校の桜が果たして咲いているのか、散っているのか、まったく情報がないまま訪れることになる。やがて山手にその桜が姿を現す。遠目からは満開ではないが、何とか花が付いている。


桜の枝を見ると、若葉が出ているので、すでに散りはじめなのかと思った。しかし、花びらが地面にはほとんでない。確か去年は、グラウンドにピンクの絨毯を敷いたようで綺麗な風景が広がっていた。もう一度枝をよく見ると所々に蕾がある。何とここの桜は若葉と花の開花が同時に始まっているようだ。



それが、ここの気候によるものなのか、特殊な種類なのか、廃校になって手入れが行き届いていないからなのか。色々と想像をめぐらしてみる。しかしたとえ満開でなく、4分咲きほどでも、我々を迎えてくれる一輪があれば理想の花見は成立する。


廃校になった北秋田市の校庭に
咲く桜の袂で理想の花見を開宴する


他には誰もいないから場所取りの必要などない。誰にも気兼ねなく一番花が美しく見える場所を選ぶ。さらにこれが現役の学校なら校庭で宴会など許されないだろう。場所を決めると、さっそくレジャーシートを広げ、理想の花見を開宴する。(写真/やや肌寒いためsigenaさんも私もパーカーを着こむ)



何はともあれ、桜に乾杯。風がやや肌寒いものの、陽気は最高だ。そもそも雨降りの対策をしていないため、好天に恵まれただけでも感謝しなくてはならない。しかしこの瞬間だけはフォーマルなものにしようと、グラスだけは陶器の物を、緩衝材を巻きバックパックに忍ばせてきた。



理想の花見の定義に弁当は重要な位置を占める。もっとも望ましいのは、重箱に詰められた料亭の仕出し弁当。そこまでの用意はさすがにできないが、羽田空港で求めた折詰風の弁当や焼き鯖、そして地元産の惣菜が揃う。できるだけ本格的なものにしようと、会席料理に使うようなお盆とちょっと高級な割り箸は持ってきたが、今回はこれが限界である。



地面に落ちていた桜の小枝が、いい箸置きになる。普段風流な世界とは無縁な生活を送っているが、こうした所作についてはもっと学びたいとも思っている。これからもこうして自分たちだけの桜の下で、花見の宴を催すには、それなりの風情を理解する力が必要だ。



ビールは東北産のホップを100%使ったビール。日本酒はこの場所から近い大館市の酒蔵のものを選んだ。そして写真にはないが、いつも冬の旅で持ち歩くスキットに入れたサントリーウイスキー白州のオンザロックで締めて、花見の宴をお開きにする。



ここにあった学校が開校したのは昭和37年(1962)。当時は私立高校として誕生した。おそらく桜はそのときに植えられたものだと推測するが、東日本大震災のあった平成23年(2011)3月に閉校された。今まで何人の若者を見送ってきたのだろうか。心和寮という名の寄宿舎もあったようだが(写真)、ここで過ごした寮生も、私たちのように桜の時期に訪れているのかもしれない。そんな彼らの心境は果たしてどんなものか、ずっと考え続けていた。


理想の花見 in 秋田 Vol.5に続く