★リアエンジンの軽商用車 というとスバル360をベースとした1961年(昭和36年)デビューのスバルサンバーがメジャーだが、サンバーより約1年早く東急くろがね工業の「くろがね・ベビー」 はデビューした。日本初のリアエンジン・キャブオーバー型の軽商用車である。1959年(昭和34年)10月開催の第6回東京モーターショー(当時の正式名称は全日本自動車ショウ)で初公開されたベビーは、翌1960年(昭和35年)1月に発売された。ベビーは当時の日本におけるダイハツ・マツダと並ぶ三大オート3輪メーカーであった「くろがね」の3輪生産に代わる新たな車種として企業存続を賭けて開発されたクルマでもあった。
★くろがねベビーの設計 は、東急くろがね工業の前身企業の一つである戦前から1950年代まで存続したオオタ自動車の創業者・太田祐雄氏の三男・祐茂氏が手がけ、前輪は横置半楕円型リーフスプリング、後輪はコイルスプリングによる4輪独立サスペンションや空冷2ストロークが軽の主流であった当時としては異例な縦置き水冷4ストロークエンジンという先進的なものであった。ルーフの一部はキャンバス張りとして軽量化・コストダウンにも考慮されている。オーソドックスながらも実に可愛らしいデザインは鉄道車両のデザインも多く手がけたインダストリアル・デザイナーの伊原一夫氏によるもの。
★くろがねベビーのバリエーション には普通のトラックである「キャリアー」(価格29万8000円)、幌付の「コマーシャル」(30万5000円)、「コマーシャル」の荷台に何と補助席を付けて4人乗りにした貨客兼用トラックの「キャンバスワゴン」(32万5000円)、更にデビュー1年後には5ドアの「ライトバン」(34万円)が追加された。トラックを先行発売しライトバンを後に追加する手法は、その後のスバルサンバーでも取られた。
★くろがねベビー は当初、対抗車種が存在しなかったこともあり好評で発売初年の1960年(昭和35年)には16497台を生産し、1960年5月にはベビー専用工場として埼玉県上尾市に新たな工場も設置された。しかし、1961年にベビーと同じリアエンジン・キャブオーバー軽4輪トラックのニューモデルとして富士重工が2ストロークエンジンで過積載にも強いスバル・サンバー(K151型)を発売すると、サンバーに比べて製品としての完成度の低さに加えて販売網の弱さもありベビーは販売不振に陥り、1962年(昭和37年)1月に東急くろがね工業は会社更生法の適用を申請、ベビーは生産中止となった。僅か2年足らずの短い生涯であった。
ベビーは福山自動車時計博物館に貴重なライトバンの保存車両があるが、丸半世紀を経て現存しているベビーは稀であり両手で数えられる程度と言われる。
【主要スペック】 (1960年くろがねベビー KB-360型)
全長2995mm・全幅1280mm・全高1645mm・ホイールベース1750㎜・車両重量480kg・水冷直列2気筒OHV4ストローク356cc・最高出力18ps/4500rpm・最大トルク3.3kgm/3400rpm・最大積載量350kg・最高速65km/h・燃料消費30km/L
●販売店用 POP
●1960年くろがねベビー 簡易カタログ (A4判/両面1枚)
※裏面スペック
●1960年 くろがねベビー 本カタログ (小判/12p)
全頁が絵本のような雰囲気をもったとても魅力的なカタログ
※中頁から
※キャリヤー(トラック)
※コマーシャル(幌付トラック)
※キャンバスワゴン(補助席付トラック)
何と荷台にシートを配置した貨客兼用、荷台乗車はちょっと怖い気がする。
※キャンバスワゴンで家族ピクニック、当時の夢の世界
※透視図
※スペック
※裏表紙
●1961年 くろがねベビー 本カタログ (小判/12p)
表紙は1960年版と全く同じで頁数も同じ12pだがライトバンが追加され中の構成が変えられている。
※中頁から: 追加されたライトバン
1960年版には見られないカット頁(キャリヤー+コマーシャル)
※ライトバンを含む図面+スペック
※裏表紙(1960年版のトラックからライトバンに変更されている)
●1960年4月10日発行 広報誌「くろがねニュース」
くろがねベビー都内での初期の使用例特集
★オマケ: 野村トーイ製 1/16スケール くろがねベビー(左) + 米澤玩具製 1/14スケール くろがねベビー(右)
くろがねベビーのミニチュア立体造形物は現在に至るまで華々しくデビューした当時作られたモデル玩具のみ。
今となってはマイナーな車種でもあり、今後EBBRO等でのモデル化は厳しいかもしれない。
★オマケ(その2): 中尾ミエ 「可愛いいベビー」(Pretty little baby)
くろがねベビーと同時代の1961年にコニー・フランシスがヒットさせ、日本では中尾ミエのカバーが有名な懐かしのスタンダード曲