BSの日テレさんで、2024年のノッテステラータを観ることができた。
【公式】 羽生結弦 notte stellata 2024 | ノッテステラータ 2024
公開リハーサルから始まったショーは、羽生選手の演技はもちろんのこと、他のスケーターさんたちの演技も素晴らしかった。
確かに昨年のノッテステラータよりも明るく、希望を感じられる内容だった。
羽生さんのノッテステラータから開始したショーは、しょっぱなから彼の演技の質の高さを見せつけた。 何度見ても、そしてそのたびに熟成度を増していくプログラム。演者の人間としての熟成を表すように…。
本郷理華さんのTrue Colors、少し体が大きくなっているかに見えたが、鮮やかに決めたトリプルジャンプを見れば、彼女が今もスケートの訓練を怠っていないことが分かる。 プロになってますます伸び伸びと自分を表す演技ができるようになっているように見える。
シエイリン・ボーンさんはさすがだ。技術的にそれほど難しいことをやらずとも、観客の目をくぎづけにできることを証明しているかのようだ。氷の上のダンサー、それだけじゃない。腕の動き一つにしても、そこらの現役スケーターがかなわない表現力。さすが世界トップクラスの振り付けをするだけのことはある。
田中刑事さん。彼は競技よりもアイスショーの方が輝いて見える。競技のような緊張を強いられないためだろうか。Hopeという曲に乗って、なかなかユニークな振り付けを披露した。彼は競技時代もエキシビションでなかなか良い演技をして見せていたのだ。
現役選手のジェイソン・ブラウン。表現力に定評という紹介があったが、表現力だけじゃない。彼の持つスケーティングスキル、そして踊れる能力があってこその表現だ。4回転ジャンプがなくとも、世界トップレベルのスケーターに割って入れる実力はあなどれない。Adiosにのせて、その能力をいかんなく発揮する。2番目の演技の後で、リンクで飛び跳ねて観客にアピールするジェイソンは可愛すぎ。
宮原知子さんが自分で振り付けた、という彼女の2番目の演技、One last dance。素敵でした。過去、Ms Perfectと呼ばれた彼女は、最初のころは「失敗はしないけれど…」という認識だった。しかし、ご自分のウイークポイントをよく知っていた彼女は、吉田都さんに教えを乞うて表現力を磨いたり、バレエやパントマイムを習ったりして、表現力をここまで高めた。ピアノの、どうかするとモノトナスになりがちな楽曲を用い、ここまで見せて飽きさせないコレオグラフィーをご自分で編み出し、その表現力で観客を引っ張るまでのスケーターさんになったんだな、と感慨深いです。もとより、高いスケーティングスキルを持つ彼女だからこそ、表現力が付いた時は鬼に金棒。 今では、私が最も好きなスケーターさんの一人になった。ISU公認解説者のマーク・ハンレッティ氏も、宮原さんのことはべた褒めなのである。
鈴木明子さん。 彼女は「動き出したとたんに目が離せない」というスケーターさんの一人。日本人のダンサーやフィギュアスケーターに多い、「プロポーションには恵まれないが、その技術でそれをカバーできる」という部類のスケーターさんだと思う。女子だけではなく、男子も、「こんなに小さくて足も短いのに…滑りだしたら目が離せない」というスケーターさんはいるものだ。 ご本人も「少しでも足が長く見えるように衣装のスカートの長さ一つにも徹底的にこだわった」と言っていたのを記憶しているが、実に情緒的な表現が美しいスケーターさんで多くのファンがいる。2013年の全日本の「愛の賛歌」を現地で観て、スケートのファンでもない友人と二人して「どうして涙が出るんだろうね!」と感動したことを今でも覚えている。素晴らしいスケーターさん。
そしていわずもがなの、羽生結弦氏。やはり別格であった。
圧巻のカルミナ・ブラーナは、大地真央さんとの共演。大地さんの存在感、女王感・女神感は言わずもがなだが、あのエピックな音楽を表現しきるだけの振り付けと、それを滑り切る羽生さんの技術・表現力には脱帽。 一つの音も逃さず全身を使っている。 フットワークの難しさ、ツイズル、スピンの高度な能力だけでなく、上半身をくまなく使い切り表現しきるだけの技術力は、現役の競技選手がどれほど手本にできるだろうか。
夫、「カルミナブラーナは、多くのスケーターが使ってきたけど、これほどエピック(壮大)な音楽を表現しきることのできるスケーターは今までいなかったね。 ハニュウはやはり圧倒的だ」と感想を。振り付けもだけれど、その振り付けをここまで生かして表現できるスケーターは今、他には存在しないだろう。
現役の競技選手を見れば、もらった振付をなぞっているだけの選手が多い。それを自分のものにし、さらに自分の個性を足して、見るものの心に訴えかけるだけの作品に変えることができるスケーターはほとんどいないだろう。そこには、練習だけで身につくもの以上の才能が必要だから…。
途中にさしはさんだ、ビデオによるダンスの映像。16才ですか? とてもアラサーの男性には見えませんが…。 羽生さんは、性別も年齢も超えた、なにか別の生き物なんじゃないの、と思うばかりである。 いろいろな制限を超えたところにいるから表現の枠も広がるのだろう。
そして、ダニー・ボーイ。
スタンドカラーの白い衣装は、なかなか素敵ですね。お袖は、私的には普通の袖の方がこのデザインには合うと思いますが…。羽生さんのプロポーションの良さが引き立つ衣装だが、腰回りにあれほどヒラヒラしたのが付いていると、演技をする上での危険性は高まるでしょう。トウピックに引っ掛けないで演技ができるのは、羽生さんの技量があってこそ。
「ああ、あのツイズル…。 あのスピン。 If only I can do it like that....」と、大それたことを言っていたら夫が一言。「今現役の世界トップの選手が、きっと同じことを思ってハニュウをみているよ」だって。
なにもかも、楽なこと、楽しいこと、やりたいことを犠牲にして、スケートだけに時間もエネルギーもつぎ込んできた選手の技術が、素晴らしくないわけがない。 しかし、同じように色々犠牲にしてきた他の選手がこのレベルにたどりつけるかというと、やはりそうではない。
たぐいまれなる才能が、人の何倍も努力をつぎ込んだ結果、「羽生結弦」という芸術品ができたのだ。
それを見せていただいている私たちは、本当にラッキーというか、感謝しなくてはならない。
積み重ねた修練で成り立つ技術の上に、人に伝えるべきストーリーを表現するための表現力。もらった振付を理解し、そこに自分の想いや経験を重ね、伝えたい人たちに向けて真摯に届けようとする意識。 それらすべてが織りなす美しい物語が氷上に開花する。
非の打ちどころのない緩急の間。あの美しいイナバウアー。カルミナブラーナも圧巻だったが、このダニーボーイは、彼のプロの中でも名作の一つだろう。 (もっとも、彼のプロで記憶に残らなかったものは一つも無いが)
どれほど毎日ストレッチや筋トレ、そしてプログラムのランスルーをたった一人で積み重ねていることか。 プロとはいえ、ここまで完璧な演技を次々と見せることができるには、どれだけの時間や気持ちをつぎ込み、努力を絶やさないでいることか。 病気になるわけにもいかないし、ショーからショーへの間も、気を抜けないに違いない。
そう思うと、その絞り出した一滴ともいえる、芳醇な成果をいただく私たちも、正座をして受け取りたいぐらいである。
彼の演技を、すこし前に「薪能のようだ」と書いたことがあるが、今回もまた、神に奉納する舞のように感じながら見たのである。
今回もありがとう、羽生さん。 良いものを見せていただきました。
BSで放映してくれたことも嬉しかった。より多くの人の目に、羽生さんのスケートが触れることができる。
彼の作品は、多くの芸術作品が公共の美術館で一人でも多くの人の目に触れられるよう展示されているのと同じに扱うべきだと思っている。
一部の人が独占してはいけない。
そういう意味で、BS放送という枠で放映することの意味は大きい。
フィギュアスケートのレジェンド、ジョン・カリイ氏の演技やバレエのレジェンド、ニジンズキーの演技が映像として残っていないのは大きな損失だと思っているが、羽生結弦という希代のレジェンドの演技は、競技時代から今に至るまで多くのメディアに残され、この後50年100年経っても人々がそれを見て、彼の功績を語ることができるのは、本当に幸いといえよう。
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