ロンドンつれづれ

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私はスケーターの悪口をいうのは嫌いである。

彼らは、コーチの教えに従って日々一生懸命練習をし、試合に臨んでは自己のもつ精一杯を注ぎ込んでベストをつくす。

 

しかし、そういう若いスケーターの周りには、大人であるコーチ、振付師、そしてジャッジなどがいて、彼らを指導したり審査したりしている。なので、この大人たちは責任があるのである。

 

 

ここに、ラファエル・アルトニアンのインタビューがある。 

動画は数年前のものらしいが、ツイッターで出回っているのはつい最近。 夫が見つけてきた。

https://twitter.com/dasani2005/status/1110167377688305664

 

 

インタビュアーは、彼に「トランジションについてどう思っているのか」、と質問している。

それに対し、かなりしどろもどろで応えるアルトニアンコーチ。

その動画の会話は以下の通り。

 

There has been some criticisms that there is not enough transitions in the programme.  Would you be adding adding those? (あなたの生徒の)プログラムには、トランジション(つなぎの動き)が少ないという批判がありますが、(トランジションを)加える予定はありますか?

 

RAf: No, I mean it's always....., what do you mean transitions?

いいや、いつも…、トランジションとはどういう意味だ?

 

Well, there is a lot of two foot gliding.

つまり、(あなたの生徒のスケートは)両足をついての滑りが多いという事ですよ。

 

Raf: I....I.... performance is not about two foot or one foot, it's just performance...  Judges, if they don't like it, they will give you less marks, if they don't like it.

いや、演技は片足とか両足とか、そういう事じゃない、演技は演技だろう。 ジャッジは、もしそれが気に食わないなら、低い点をつけるだけだろう。

 

Well, would you add if they do?

もし彼らが低い点を付けるとしたら、(トランジションを)加えるつもりはありますか?

 

Raf: No....no. いいや、そのつもりはない。

 

 

さらに、このツイートの主によると、アルトニアンは、ルールは破られるためにある、と発言したようだ。

 

これをツイッターに上げた人物は、今回の世界選手権の審査について、モノ申したいから、アルトニアンのインタビューを今、上げたのであろう。

 

 

フィギュアスケートは、ジャンプとスピン、ステップシークエンスなどのエレメンツ(要素)の間を、ターンやステップで繋ぐのである。 これをトランジションと言い、ここの難易度が、PCSのトランジションの部分の点数であり、さらに、パフォーマンスや、スケーティングスキルの部分にも多少影響する。 トランジション部分で、音楽のストーリーを語ることもできるのだ。

 

トランジションが入っていないプログラムは、クロスオーバーで漕いでいるだけのスカスカな印象を与え、さらに両足でグライドしている部分が多ければ、片足での難しいターン、ロッカーやブラケットの連続などはほとんどやっていない、ということになる。(もっともステップシークエンスでやるかもしれないが)

 

確かに、スケーターによっては、複雑なステップやターンなしに簡単なストロークや両足グライドで、ジャンプやスピンのエレメンツの間をただ滑っているだけの選手もいる。 そういう選手と、難しいトランジションをちりばめた選手のPCSがあまり変わらないとしたら…。それは審査員の目が節穴だということになる。

 

さらに、ジャンプ前に長ーい距離をただテレグラフして、ジャンプに入る選手と、ブラケットやロッカー、カウンターなどの難しいターンやイーグルを入れてジャンプに入っていく選手とでは、同じジャンプでも難易度がうんと違う、ということがジャンプのGOEに反映されるべきだというのである。

 

一昔前のスケーターたちをひとくくりにして、「オールドスクール」というが、例えばロシアのヴォロノフ選手などは、このタイプで、やっぱりジャンプの前に何もしないで、長ーいテレグラフをしてから跳ぶのである。 ただし、ヴォロノフ選手はもう30歳。 オールドスクールだって仕方がない。 昔の選手はみんなそうやってジャンプを跳んでいた。

 

 

トランジションのあるなしは、PCSに影響があるだけでなく、ジャンプのGOEにも影響するはずなのである。

 

例えば、ルールブックには、ジャンプのGOE条件として、以下がある。 (ISU)

For example, in jumps the bullets for positive GOEs are:

  1. very good height and distance (高さと距離)
  2. good take-off and landing (良き離氷と着氷)
  3. effortless throughout (including rhythm in a combination or sequence) (力みなく楽々と跳ぶ)
  4. steps into a jump, unexpected or creative entry (ジャンプに入る前の意外で創造的なステップ)
  5. very good body position from take-off to landing(離氷から着氷までの姿勢)
  6. element matches the music(音楽にあったジャンプ)

The bullets in bold are the three mandatory ones for +4 and +5 GOE.

上記の1,2,3は、プラス4や5のGOEに必須

 

そして、以下の数の条件が、プラスのGOEには必要、と書かれている。

+1 – 1 bullet

+2 – 2 bullets

+3 – 3 bullets

+4 – 4 bullets

+5 – 5 bullets or more

In cases of errors, judges reduce the GOE depending on how big the error is.

また、ミスがあった場合はマイナスのGOEがつけられる、と。

 

つまり、上のプラスGOEの条件を満たしていれば、その数により上記のプラスポイントが付かなくてはならないはずだ。

 

しかし、実際のところは、プレロテーションがあったり(よくない離氷)や、どっこいしょと力を込めて跳びあがるようなジャンプ、前のめりの着氷、またジャンプ前の長いテレグラフ、ジャンプ後のトランジションの無さ、などが目立つジャンプと、それらの条件をすべて満たしているジャンプとの間のGOEに、あまり差が感じられないことが、問題なのである。

 

少なくとも、4番の、ジャンプの入り前の難しいステップがあるだけで、GOEは1点増えなくてはならない。

 

例えば羽生選手の3Aは、それだけでも他の選手の3Aに比べて、4番の条件で0.8点増えなくてはならないのだ。あの複雑で難しいターンからのテイクオフは他の追随をゆるさない。 また、着氷後の流れるようなエッジと姿勢の美しさは、2番と5番のブレットポイントをヒットしている。ここで、1.6点ゲットのはずだ。 1,3番は言うまでもなく、そして6の音楽にあったジャンプ。これは彼の得意中の得意ではないか。 5番の、最初から最後まで通してのポジションの良さ。 これは軸がしっかりしてゆるぎない羽生選手のジャンプの特徴だ。 

 

さて、1から6までが揃っているトリプルアクセルであれば、文句なくGOEで+5をどのジャッジも付けるはずなのだ、上記のルールに従えば。 つまり、4点の加点があるべきなのである。 それがなかなかつかないのはどうしてだろう。あと何が足りていないのだろうか。 だれか教えてほしい。

 

ジャンプの基礎点を低くして、GOEの比率を大きくしたのは、完成度の高いジャンプを目指しているからではなかったのか。 それが反映されていなければ、何のためにGOEの幅を±3から、±5まで増やしたのか、意味がないではないか。

 

色々な選手のプロトコルを見ると、ジャッジによってはGOEが+1から+4ぐらいまでばらつきがあるのが散見されるが、もしジャッジが上記のルールに従って採点しているとしたら、おかしいではないか。条件を一つしかクリアしていないと考えるジャッジと、1,2,3を含む4つ以上をクリアしていると考えるジャッジがいることになる。

 

そしてジャッジによっては一人の選手のすべてのエレメンツに、他のジャッジよりも数点低いGOEを付ける人もいるし、その同じジャッジが、他の選手のすべてのエレメンツに他のジャッジよりも数点高いGOEをつけていることもある。

 

上記のように明白なジャッジ規定があるにもかかわらず、どうしてだろうか。

 

アルトニアン氏のインタビューを見ると、彼は「トランジションなど必要ない」と考えているように見える。それも、「なくたってジャッジは気にしないだろう。ジャンプなどのエレメンツさえしっかりしていれば・・・」と言っているようにも聞こえる。 ジャンプからジャンプへの間の滑りに難しさも工夫もないとしたら、それはただのジャンプ、ジャンプ、スピンの羅列だけになってしまう。 しかも、それをジャッジが良しとしている、という風に感じられるようなアルトニアン氏の答えなのである。 自分の生徒が点数さえとれば美しさは必要ないというのは、フィギュアスケートの発展に逆行するような考えではないだろうか。

 

 

話は変わるが、韓国の女子スケーター、ユンスー・リム選手とマライヤ・ベル選手の確執についても、両者ともにアルトニアン・コーチの生徒でありながら、どうしてここまでこじれたのか不思議だ。 世界選手権の公式練習中に、ユンスーの足をマライヤが蹴った、というのである。 ユンスーは足の負傷を抱えたまま、試合に臨んだ。

 

ユンスーの所属プロダクションと韓国スケート連盟はISUに調査を依頼、ISUは、マライヤが故意にユンスーを蹴ったという証拠はないという結論を出した。 が、ユンスー側はこれまでもマライヤからは暴言やいじめを受けていたと言っており、実際同じコーチのもとでも練習時間や場所が重ならないようにしていた、という。 この事件の後、「故意にやられた」といったユンスーを批判するような動きがスケート界にはあるようだが、まだたった16歳のユンスーが訴えた「いじめ」に対し、「証拠がない」、あるいは「マライヤがそんなことをするわけがない」という形で、「なかったこと」にするのは、危険ではないだろうか。

 

動画を見る限り、バリアに沿ってゆっくり滑っていたユンスーに近づいて行って、そばを通りすがりにフリーレッグを横に開いたマライアのエッジが、ユンスーのふくらはぎに刺さった、という風に見える。 故意かどうか、と聞かれたら、「あの状況ならユンスーに気が付くはずだし、あのタイミングでフリーレッグを振り上げる必要があったか」というのが私の感想である。 さらに、ブレードあるいはトウピックが当たったあとに、それを感じないわけはなく、すぐに止まって謝罪するのが普通だろう、と思うのである。 ましてやマライヤは年上で、アルトニアンチームの先輩でもある。 後輩の面倒をみてもいい立場だ。

 

 

 

なぜ、スケート界では寄ってたかって、「わざとだという証拠はない」というのだろうか。 この番組の解説者も、プロであるマライヤが、本当に気が付かなかっただろうか、それに「蹴ったあとに、マライヤが知らん顔をして通り過ぎているのは不自然」と指摘している。 ユンスー側は、おそらく、ここに至るまでの「いじめ」の背景があったため、今回も「故意に蹴った」と判断したのだろう。 もしこれが初めての接触であれば、ここまで問題にはしなかっただろう。

 

これを問題にするにしても、なにも世界選手権の最中にしなくても、という意見もあったようだが、どうなんだろうか。 もし、いじめが日常化していたというのであれば、そしてこれが故意だったとするなら、傷害事件である。試合が終わるまで待って、示談でもいいじゃないか、という話ではない。 ユンスーの所属するプロダクションは危機感を持って、SPとフリーの間に、ISUに事件の調査を依頼したのだ。

 

ユンスーのフリーの試合の後のアルトニアンコーチの態度も、少なからず不適切と感じた。 まるで、「問題を大きくした」ことに対する、罰を与えているかのように、彼女を徹底的に無視しているように見えた。顔も見ずにエッジカバーを渡し、キス&クライでも会話なし。 せっかく良い演技をしたのに、彼女の表情も暗かった。 今彼女はアルトニアンチームの中で孤立させられているのではないか。

 

 

確かにことの真相は第三者にはわからないが、もし本当にいじめがあったのだとしたら、そしてマライヤが故意にユンスーを傷つけたのだとしたら、ユンスーを非難する空気はけっして正しいものではない。 いじめを受けた被害者が苦しむような状況は正しくない。 

 

人を育てるコーチの仕事は、試合で勝たせるためのプログラムを滑らせるだけではないはずだし、自分の気に入りの選手の贔屓をすることでもないはずだ。 親は、コーチを信頼して、高い金を払って自分の子供を預けているのである。 スケートを教えるだけがコーチの仕事ではないはずだ。

 

スケーターたちが、みんな和気あいあいと仲良しこよしだというのは幻想で、どんな社会でもあるように、気の合う,合わないはあるし、威張っている奴もいれば、リンク内のテリトリー争いもある。 外面が良くていい人のように見えても、陰でいじめをするスケーターだっているかもしれない。 私のホームリンクにだって、嫌な奴はいるのである。 自分に見せている良い面だけをみて、「彼女がいじめなんてするはずがない」と断定するのは、学校内で優等生の生徒を贔屓する教師のようである。

 

自国を離れてひとりで海外に拠点を移して頑張っているスケーターが、地元の選手に遠慮しながら小さくなって練習しているとしたら、それは悲しい。 ユンスーを暖かく迎える雰囲気がアルトニアンのチームに無いのであれば、彼女は迷いなく拠点を別の場所に移した方がいいと思うのである。 たとえば、カナダのクリケットクラブのように、預かっているスケーターの全人格を認め、メンタルまでも育てようという空気の中での方が、彼女も伸び伸びと育つであろう。 我慢する必要はない。

 

ユンスーもマライヤも、好きなスケーターさんだったので、本当に残念なのである。

 

 

ところでアルトニアン・コーチの門下生、ネイサン・チェン選手は、昨季よりも今季、大学との二刀流になってからの方がスケートが良いが、これは驚くべきである。 今は大学リンクで自分で練習しているそうで、動画を送ってはコーチのアドバイスを受けているということだが、ジャンプだけでなく、これまでに比べてトランジションの部分が良くなってきている。まだまだジェイソン・ブラウン選手や羽生選手にはかなわないが、もともとバレエも習っている人なので、本来は表現もしっかりしているはずなのである。 お母さんのふるさとだという北京でのオリンピックまでに、さらに円熟した演技になっているだろう。楽しみである。

 

それにしても、今回のアルトニアン氏のインタビューを見て、また上記のユンスーのトラブルへの対処法を見ても、なんだかモヤモヤしてしまうのである…。

 

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世界選手権で素晴らしい演技をした羽生選手へのお祝いは、以下の記事のコメント欄にお願いします!

https://ameblo.jp/popular2/entry-12449232728.html

 

 

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