昨日、スターズオンアイスをテレビで見て・・・ | ロンドンつれづれ

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昨日、横浜で行われたスターズオンアイスをテレビで見た。 スケーターたちのインタビューの中で、佐藤由香さんが25年前に初めてプロスケーターとしてSoIに関わり、今年コロナ禍の中で、「日本人のスケーターだけで開催することができた・・」と感慨深げに話しているのを夫に通訳したら、「それはやっぱりレガシーでしょう。 イトウ、マオ、タカハシ、そしてハニュウ。 あれらの先人の後を追う若いスケーターたちが実力をつけて、こういったショーで見るに足るだけの質の高い演技をすることができるのは、やはりレガシーのおかげ‥」と言った。

 

 

そう、レガシーが花開くのは時間がかかるのである。 ロシアのように国が助成金を惜しみなく出して、やりたい子どもにはみんなスケートを習えるようにし、その中から特に才能のある子どもを選び抜いてエリートアカデミーに送り込むのとは違い、日本では裾野はそれほど広くないし、リンクの数も足りない。

 

そんな中からこれだけ才能のある選手が出てきていることは、子どもたちが憧れる日本人スケーター、つまりレガシーの存在があったから、スケーターになりたいと思う子どもたちがだんだんと増えてきたということだろう。 

 

また、子どもの気持ちと親の熱心はもちろんだが、ほとんどの日本人選手に備わっている基礎的な技術をしっかりと叩き込む根気あるコーチたちのおかげでもある。

 

昨年日本にいた時に、大阪で個人レッスンを何度か受けたが、そのコーチは有名競技選手も教えていたコーチであるが、私のような初老大人スケーターにも容赦なく「基礎が・・・」とやり直させる。もう、ブレードに乗せる体重の位置から、エッジの倒し方、上半身の姿勢、膝や足首を曲げる角度…。 

 

ジャンプなんて「あ、それ、チートジャンプです!」 わかってますよ。でも氷の上で半回転してからじゃないと、私の場合シングルジャンプでも無理です。 「でもそれじゃちゃんとしたジャンプじゃないですよ~」 はいはい。 それを言われそうな選手は国際競技会にも複数いるのだが。

 

そのぐらい、日本のコーチは、ジャンプも正確に跳ぶように子どもの頃からスケーターさんにしっかり教え込んでいる。 日本人のスケーターの演技を観ると、たとえジュニアでもアメリカの某選手らのようなスカスカな演技はしていないのである。 

 

そうして育ってきた日本の若手をまとめて、日本人選手だけでSoIという大きなショーを大成功させたのは、羽生選手のリーダーシップが大きかったんだなあ、ということを改めて感じたのである。 彼はアマチュアのアスリートでありながら、その姿勢はもうプロ。

 

 

口をついて出る言葉は、観客にフォーカスしたものがほとんどである。 観客がどう見ているか。どう楽しませることができるか。それはショーだけでなく、競技会での演技でもそうだ。 もちろん自分のために滑っているのだろうが、人を感動させることのできない演技では、自分も楽しむことはできないのが羽生選手なのだろう。生粋のパフォーミング・アーティストである。

 

芸術で自分を表現するものは受け手の存在を無視することはできない。受け手あってこその表現なのである。 パフォーマーはナルシストと言われることが多いが、ナルシシズムはパフォーマーの才能の大きな一部だ。 俺を、私を見て!という気持のないパフォーマーは観客を置き去りにしている。見てもらってこその芸術だからだ。

 

観客を徹底的に意識し(現場だけでなくテレビの観客も)、楽しませる振り付けと演出を若手のスケーターさんたちにしっかりと刷り込む羽生選手。 「カーテンにはいるまで、腕を下ろさないで!」という指示は、吉田都さんの「舞台袖に入る時にも、お客さんを背中で連れていって」という生徒さんへの指示と重なるな、と思った。 

 

自分の出番でない時も、気を抜かない。 最後までみられていることを意識して。 演技終わると同時に気を抜くスケーターさんが多い中、貴重なアドバイスじゃないだろうか。 若手スケーターは羽生選手の演技に対するこだわりや集中力、観客に対する姿勢から学ぶものはものすごく多いだろう。 

 

サンクス・ツアーでの浅田真央さんの指導風景もテレビで見たが、同じようなこだわりがある。同じ振り付けを滑っても、浅田さんがやると伝わるものがまったく違う。 ほんの首の傾げ方、指先のしなり、音から故意に遅れての動きの余韻、などなど。 そしてお客さんに対する感謝とプロ意識。

 

座長としての浅田さんの情熱とこだわりがあってこそのサンクス・ツアーだが、SoIでは羽生選手のリーダーシップ無くして、ここまで完成度の高いショーにはならなかったはず。短い練習期間でまとめた群舞は羽生選手の振り付けだったそうだ。

 

やはり同じ音楽で踊り、滑っていても、パフォーマーとしての力量の違いが歴然と出てしまう。

 

最後の群舞を見ていると、羽生先生と生徒たち、という感じだったが、それもなんだか微笑ましかった。

 

 

今回のSoIの客席の密は褒められたことでは無かった。が、それは運営サイドの責任であって、スケーターたちのコントロールの及ぶところではない。 スケーターたちは与えられた役割をしっかりこなしただけである。

 

そして今度、ドリームス・オン・アイスも7月に開かれるという。

 

こちらは、「座席は一つおき」としっかりチケット情報サイトに書かれていた。 二人一組で買っても、座席は一つおきだそうである。 その点はSoIよりはずっと良心的だ。

 

 

緊急事態宣言は一応6月21日までだというから、延長されなければこのままGOだろうし、会場は比較的小さなリンクだから、50%でも8000人というような人流にはならないだろう。

 

また羽生選手の出演が決まったので、チケットの争奪戦は凄いことになるだろうが、ここでもまた日本人選手だけで行われるアイスショー、実力のある若手スケーターたちにとっては、舞台度胸をつけるためにもアイスショーの出演はためになるのに違いない。 

 

そして私たちは彼らの努力の成果を見せてもらえる。

 

オリンピックの記事を書くと、「野球だってサッカーだってやってるじゃないか、あれはいいのか」というコメントが付くことがあるが、日本国内で日本人だけによって行うイベントと、海外から9万人も人が押しかけてたった3日の検疫で野放し状態になるイベントではまったく条件が違う。 

 

もしそれが同じというなら、なぜ世界中の国で渡航を禁止したり、2週間の検疫期間を設けたりしているのだろうか。 国をまたいで人が移動することが、ウイルスを運び込むことになるからに他ならないだろう。 選手団だって関係者だってメディアだって、ワクチンを強制することはできないんだから、ウイルスの持ち込みの可能性は高いのである。(もっとも今海外渡航ではワクチン接種を義務付ける国が多くなっているが、どうせオリンピックは「特例」にするだろう)

 

国内の試合だって、欧州ではまだ禁止しているところもあれば、無観客で行うところもある。イギリスはテストイベントを何度も行い、いま検証しているところだ。 全員検査で陰性反応だった客だけを入れて、6万人の客からイベント直後に15人の陽性がでたそうだ。 全員陰性の9万人なら20人という計算になる。

 

が、イギリスでは7割がすでにワクチン接種済み、そして検査は全国民が無料で受けている。その違いは大きい。日本では現在ワクチン接種は国民の4%のみ。そして検査は濃厚接触者でなければ行われていないので、感染のコントロールは無理だろう。

 

 

しかし、いつまでもイベントを全て禁止していれば、文化的な産業が死滅してしまう。

 

劇場も、映画館も、しかりである。

 

観客数をコントロールし、感染対策をしっかりとって少しずつオープンしていくしかないだろうし、ここでのゲームチェンジャーはやはりワクチンのロールアウトだと言えよう。

 

この7月にオリンピックを行い、海外から人を9万人以上も入れて東京の公園でパブリック・ビューなどは無理な話だと思う。 それを「安心安全」なイベントと呼ぶのは、科学的根拠のないばくちのようなもんで、終わった後で感染者が増えて死ぬ人がでても、今の政府や組織委員会では誰も責任をとらないだろう。

 

それよりも、ワクチンを早くロールアウトし、感染対策を徹底させながら、国内の産業を少しでも元に戻す努力をしていくことが大切なのではないだろうか。

 

スケートで言えば、高橋大輔さんのLUXEも好評だったようである。 

 

こういうショーが増えて引退後のスケーターたちのチャンスが広がることは良いことだし、ファンも楽しみが増えるだろう。 ただし、興行主は座席の密を避けるなど、責任を持って感染対策をするべきだ。

 

 

DoIでは観客席の密も予防して行う様だから、少しは安心なのである。

 

選手たちも試合数が少ない中、アイスショーで演技をすることは大切だろうし、またアイスショーで少しは収入を得ないと、お金のかかるフィギュアスケートを続けていくことも大変だろう。ロシアと違って日本では練習場所もコーチも全て家族の負担なのである。

 

私たちファンも感染対策をしっかり行い、会場周りで集まっての飲食を控えて、マスクをかけて静かにみせてもらえばいいのである。 文化的なイベントを何年も我慢することは精神衛生上も悪い。 せめて国内の公演やイベントを、観客数を減らして行うしかないだろう。

 

 

そして海外在住のファンとしては、ぜひライブストリームか後日のテレビ放映を期待している。(海外からも購入できるシステムにしてほしい。)

 

 

DoIでは、来シーズンのプログラムのお披露目もあるかもしれない。 それもファンとしては楽しみである。

 

 

羽生選手がまたリーダーシップをとって素晴らしいチームワークのDoIが開かれることを祈っている。