ワクチン戦争 | ロンドンつれづれ

ロンドンつれづれ

気が向いた時に、面白いことがあったらつづっていく、なまけものブログです。
イギリス、スケートに興味のある方、お立ち寄りください。(記事中の写真の無断転載はご遠慮ください)

 

始まった。

 

ワクチンをめぐる各国の攻防が。

 

 

まずは、EUが、生産が遅れており、契約書に載せた通りの時期に約束の量のワクチンが届かないのは「契約違反!だから、英国で作っているワクチンもちゃんと時期までにEUに差し出さなくてはならない!」とアストラゼネカ社を批判。

 

これに対して、アストラは「ワクチン製造の遅れは、ベルギーとオランダにある生産拠点で問題が発生していること、そしてEUのバッチテストに時間がかかることも理由の一つ。 それにイギリスはEUよりも3か月も前に契約書とリサーチ費用を出している。 英国内生産分に関しては英国との契約を守るつもりだ」と反論。

 

するとEUがこんどは「だったら、EUを拠点にして作っているワクチンは、すべて今後輸出を規制する。 EUの許可なく圏外に出すことはまかりならん!(つまりブレグジットをした英国も圏外)」ということになった。

 

と思ったら、昨日になってドイツが「英国産のアストラゼネカは、65歳以上には効き目があるかどうかわからない。 治験での65歳以上のボランティアの数が少なすぎる」と報道。

 

そして今朝になったら、フランスのマクロン首相が「アストラゼネカのワクチンは60歳以上には効果がない!」と言ったとか。

 

やれやれ。

 

そこで、今日のニュースでは英国のボリス・ジョンソン首相がインタビューに答えていた。

 

曰く、「我々はアストラゼネカのワクチンに十分な信頼を持っている。 ドイツの言う、65歳以下にだけ薦めるべきというのは正しくない。どの年齢層に対しても、効果があるというエビデンスがある」とした。

 

PHE(Public Health England)のマリー・ラムゼイ博士は、「確かに治験の第3段階では65歳以上のボランティアの数が少なかったけれど、それ以外のデータを見る限りでは効果に不安は持っていない」とした。

 

インタビューではジョンソン首相は「英国のMHRA(医薬品規制庁)がその効果を認めたアストラゼネカのワクチンは、1回打っただけでも70%の効果があると聞いている。2回打てば、さらにその効果は高まる。ドイツの言うことはまったく気にしていない。」としている。

 

 

Boris Johnson backs AstraZeneca vaccine after Germany says it shouldn't be given to over-65s (telegraph.co.uk)

 

英国のメディアでは、「EUがアストラゼネカのワクチンの承認をしたというのに、なぜマクロンはあんなことを言ったんだろう、そして高齢者に効果がないというなら、なぜEUはアストラゼネカのワクチンが遅れていることに対し、あれほど腹を立てているんだろう?」と書いている。

 

また、ガーディアン紙では専門家に質問して以下の記事を書いている。

 

 

‐なぜドイツはオックスフォード・アストラゼネカのワクチンを65歳以下に使うことを勧めたのか?

 

答え:ドイツのロバート・コッホ研究所は、「このワクチンが65歳以上にどれほどの効果があるか判断するにはデータの数が足りない」と述べたのです。昨年のランセット誌に載せた研究の中で、この疫病から守るワクチンの効果があるかどうかを検証するに足るだけの高齢のコロナ患者が少ない、としました。

ランセット誌には、以下のように書かれています。


“Vaccine efficacy in older age groups could not be assessed but will be determined, if sufficient data is available, in a future analysis after more cases have accrued,” (このワクチンの高齢者グループに対する効果は今は評価できないが、より多くの事例が発生し十分なデータが手に入るようになれば将来的な分析を通してわかるだろう。)

 

オックスフォード大学のポラード博士はデータが足りないことは理解しているとし、「治験では高齢者は遅いステージで参加したため症例ケースが少なく、また高齢者は用心深いのでコロナに罹る率は低い」と述べました。 アストラゼネカではワクチンの安全性が確かめられてから高齢者を治験に参加させたとしています。


‐つまり、ワクチンは高齢者には効き目がないということ?

答え:「違います。 今はドイツの当局を満足させるだけのエビデンスが揃っていないということであって、ワクチンの効果がないというエビデンスがあることとは違います」とレディング大学の細胞微生物学のサイモン・クラーク教授は言います。 

ポラード博士は、「我々は2度目の接種の後の中高年の成人について、コロナのスパイクタンパク質に対し100%の抗体の発現を見ています」としており、MHRAも65歳以上の人に対しての効果に何の疑問も持っていないとしています。

ロンドン大学インペリアルカレッジのダニー・アルトマン教授は「ドイツのスタンスに困惑している。AZの第三段階のデータをみても70歳以上のグループで他の年齢層と同じように良い反応がでている」と話しています。

- これは他のワクチンをめぐる争いと、どう連動している?

 

答え:月曜日には、ドイツの新聞が、「ある匿名のソースがこのワクチンは高齢者には8%しか効果がないと言っている」と書きましたが、アストラゼネカからまったくのデマだとして否定され、専門家から広く批判され、ドイツの保健省からも反証されました。

 

ともあれ、ファイザーのワクチンは高齢者も若い人も効果が同じというデータがあるというのであれば、それを高齢者に接種して、アストラゼネカの方を若い人に使うというやりかたも可能ではないか、とロンドン大学の別の教授は話しているとか。

以下略しますが、EUとアストラゼネカ社の攻防が、こういった報道やマクロン氏の発言につながったのではないか、という憶測も書かれています。

 

Why has Germany advised against Oxford/AstraZeneca jab for over-65s? | Coronavirus | The Guardian

 

2-8度で保管できるため、移送や取り扱いが格段に楽、またコストも1回分400円程度と、ファイザーやモデルナに比べてうんと低いアストラゼネカ社のワクチンは、途上国への配布も決まっており、日本国内でも製造が始まるとのこと。 EUがワクチンの輸出規制をするというなら、日本にはファイザーもモデルナもなかなか入ってこなくなるかも。 

 

今のところ分かっていることは、「65歳以上の人口に効果があるというエビデンスの数がまだ足りない」とドイツの当局が言っているということだけ。 言い換えれば「65歳以上の人口に効果がないというエビデンスもない」ということだ。 そこを間違わないようにしたい。

 

治験での65歳以上のボランティアの数が少なかったというのであれば、これまでにイギリスで実施してきた80歳以上の高齢者へのアストラゼネカのワクチンの例がこれから大いに役に立つのではないかな。オックスフォード大学では、しっかりと後追い調査をしているはずだし。

 

ハイリスクの人口である65歳以上の効果ができるだけ早く証明されることを願っている。


ともあれ、アストラゼネカのエビデンスは数日内にEMA( (European Medicines Agency) で発表されるようなので、それを待ってまた記事にします。

 

以下、BBCで報道した現在承認された、またじきに承認されるワクチンについて。

 

Novavaxのワクチンは従来のタイプのタンパク質ベースなので、mRNAが遺伝子云々でコワイという人は、これを待てばよいのではないだろうか。

 

またJanssenは、オックスフォード・アストラゼネカのワクチンと同じアデノウイルス・ベクターだが、1回の接種で69%の効果をもたらすとしており、これが広まればコロナ制御の大きな力になると見られている。こちらは、ジョンソン&ジョンソンが製造するらしい。

 

効果については各社のテストの仕方やデータを集めた時期が異なるため一概に比べることはできないが、どれもコロナの症状、重症化を抑え死亡率を下げるという点で大きな効果があるとされている。ワクチンが他者に感染させる能力を抑える効果があるかどうかについては、まだ続けてデータ収集、分析が必要ということだ。

 

またNovavax とJanssenのワクチンは南アフリカ変異株についての効果が落ちたという報告があるそうだ。 先行のワクチンはどれもUKバリアントについては従来株と同じ効果があるとしているが、同時に新たな変異株に対応できるワクチン製造の体制を整えているということだ。

 

 

Covid vaccines: Those that work - and the others to come - BBC News

 

 

アレルギーなど、ワクチンについての詳細や注意事項はNHKのニュース記事で。

 

【記者解説】コロナワクチン 接種進む米国・英国の状況は? | 新型コロナウイルス | NHKニュース