オンライン・ブリイング | ロンドンつれづれ

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ブリイングという言葉をきいたことがおありだろうか。


Bully(ブリイ) とは、英語で「いじめっこ」のことである。


Bullying とは、人にいばったり、人をいじめたりすることである。


今日、イギリス人の男の子と話していて、話題がインターネット、サイバースペースなどの話になった。


というのも、つい最近私の職場のイベントに、日本人のある著名な歌手がお客様として訪れたからである。彼女は日本人なら知らない人はいないぐらいのミリオンセラーであるが、このところ活動していない。


彼女はイベントに来る時に「自分が誰だか知られたくないし、特別扱いして欲しくない。」と心配したという。 私は、「大丈夫ですよ。ここに来る人は英国人がほとんどだし、日本人にしても何十年も英国に住んでいる人がほとんどだから、日本で有名な人を知りませんから。」


そういうと、彼女は安心してやってきた。お恥ずかしい話だが、私も最近の若い歌手の人の顔は、あまり良く分からない。なので、ご本人が見えた時も「この人かなあ」と思いつつも、まったく普通の話題を話していた。ご本人も名乗らなかったからなおさらである。


あとで彼女をつれてきた友人から聞くと、日本ではどこを歩いても彼女を知らない人がおらず、陰で、あるいは面と向って傷つけるようなことを言われることが耐えられないので日本にいたくなくなったとのことであった。ネットでのバッシングなども、かなりつらかったようだという。


情けないことだ、と思った。人はどうして他人を傷つけるようなことを故意にするのであろうか。それで自分の得になるのならともかく、そうでないことの方が多いのに。人を貶めるようなことを言っていれば自分の価値が落ち、吐いた汚い言葉は、まわりまわって自分に返ってくるものだ。


相手が有名人や政治家であれば、どんな暴言をはいても良いというわけでもあるまい。匿名をいいことに、インターネット上の無責任な誹謗中傷は目を覆うばかりだという。愚かしくも幼稚なことである。


私は自分の匿名を保ったまま人を貶めるようなことを言う人を信じない。また、そういう言葉の応酬を許しているようなサイトは、汚臭を放つ汚水の流れる、ドブと同じようなものだと思っている。わざわざフタを開けて、悪臭をかぐ必要もないのだ。


しかし彼女のような人気商売をしていれば、おそらく他人の評価も気になるだろうし、人は聞きもしないのに余計なことを耳に入れてくるものだ。強い心を持ち自分に確固たる自信があれば、そういうものを無視することもできるだろう。しかし、人間はそれほど強くはない。


インターネット上の誹謗中傷は、個人を相手にとどまらない。今サイバー・セキュリティや、国際関係のセミナーをすると、その筋の学者や専門家が心配していることの一つに、若者のネット上のやり取りを上げる。「ネチズン」(net + citizen)という言葉でも表されるが、ネット上の激しい意見の応酬、これが看過できない状況だそうだ。


例えば、国家間で小競り合いが起きると、さっそくにそれについてのスレッドがネット上に立ち、それぞれの国の人々が、相手の国の非難をする。政府の対応の非難をしているうちはいいが、それがあっというまに、それぞれの民族を誹謗中傷する幼稚なののしりあいに発展する。


こうして、ヘイト (hate, 憎しみ)の空気が醸成されてゆき、外交上の政策決定にまで影響をあたえるというのだ。情けないことではないか・・・。自分の身元を明かして、公衆の中で発言する時には決して口にしないようなことが、相手に対する配慮も良識も感じられない汚い言葉で吐き散らされる。


匿名という隠れみのを着て急に勢いづいた弱虫がネット上で調子に乗って言いたい放題である。そんな輩の言うことに踊らされて民意が醸成されていくとすれば、民衆とは愚かなものであるといわざるを得ない。怖いのは、そういう場ですらも誰かに意図的に煽動されているのかもしれないことだ。


実は、匿名と言うのは本当ではない。面倒くさいから警察はいちいち調べないが、ネット上で誰が何をしているのか、実はトラックダウンしてちゃんと把握できるのだ。


イギリスでは、どの家のどのパソコンから、ピドファイル(児童ポルノなどの愛好家)が、禁止されているウェブサイトにつないでいるのか警察はちゃんと知っていて、ある日突然戸口に現れて逮捕される。


日本でもドブのようなサイトでいろんな人があらゆる対象に対して悪口雑言を吐き散らし、誹謗中傷の事例にことかかないと聞くが、人権侵害や名誉毀損は立派な民法、刑法違反であることを忘れないほうが良い。調子に乗っていると、ある日突然訴追されて、裁判所に呼び出されるかもしれない。


先ほどの英国人の青年は「ツイッターやネット掲示板に書き込まれてる90%は、ネガティブなコメントでしょう。まともに取らないほうがいいと思ってます。あいつらは、オンライン・ブリイだからね・・・」と言っていた。そうだ、オンライン上のいじめっ子。自分の顔をかくしている分、教室のいじめっ子よりももっと卑怯だ。


良識ある人たちは、そういうサイトで応酬される言葉にいたずらに振り回されないようにしたほうが良い。ふたを開けてみれば、同じ人が大勢の人のふりをして何度も書き込んでいたり、12,3歳の子供が大人のふりをして面白半分にかきまわしていることもあると聞く。


そんなサイトをわざわざ覗いて下らないやり取りを読むだけでも、時間とエネルギーの浪費である。文句があるなら面と向って言いに来い、それができない奴らのいうことなんか、聞く耳は持たないという態度でいれば良い。もっとも、そもそも面と向って言う勇気なんかないやつらである。


陰で言われる悪口など、聞こえてこなければ無かったも同然だ。およそ正当な評価というよりは、嫉妬などで言われる根拠の無いことが多い。面と向って言われた批評にだけ反応すればよい。それが不当だと思えばしっかりと反論すれば良い話しだ。


私も仕事上、不特定多数の人から批評をされたり批判を受けることもある。自分のしていることに自信があるならそれをしっかり説明し、justify(正当化)すればよい。もっとも、どう説明しても、文句を言う人は、必ずいるものだ。


私の元上司は女性だったが、女性の管理職だというだけで不当に批判されることもあったようだ。悩む私に彼女はかつてこう言った。


"Listen, smile, and ignore. You can never make everybody happy. Be confident."


「理不尽な文句を言ってくる人がいたら、話を聞いて、にっこりして、そして無視しなさい。万人に喜んでもらえることなんて、ありえないんだから。自分のしていることに、自信をもちなさい。」


ある日本人の女性で、大臣にまでなった人と話した時に、私はこういった。「汚いものをわざわざ探して歩かないようにしています。陰で言われる悪口は無かったと同じ。面と向って言ってくる勇気のある人の言葉だけが、聞く価値がある。」


彼女は、「それ、私と同じよ。私もそう思って今までやってきました。お互い、がんばりましょう」 と言ってくれた。


どれほど立派な仕事をしても、どれだけ人のために尽くしたと思っても、世間がすべて自分の味方になってくれることなんてありえない。敵は必ずいるものだ。


少しでも目立つ仕事をしている人は叩かれやすいし、才能のある人は、嫉妬からいわれの無い中傷を受けやすい。残念ながら、人は他人の成功をねたむ様にできているらしい。


先ほど登場した女性の歌手も大変に才能のある人だ。若くて才能のある人たちが、下らないことでつらい思いをすることなくのびのびと才能を開花させるよう、大人は自分が口から出す言葉に責任を持って、良識ある行動をとることを肝に銘じたほうが良い。