タイトル
明日の記憶
概要
2006年の日本映画
上映時間は122分
あらすじ
49歳の広告会社営業マンの佐伯雅行は、仕事では大きな契約が決まる頃であり、プライベートでは娘が結婚し、孫の誕生を控えるなど順風満帆な生活を送っているかに見えた。ところが、次第に頭痛や物忘れが酷くなり、妻の枝実子に促されて受診した病院でアルツハイマー病であると言い渡される。
スタッフ
監督は堤幸彦
音楽は大島ミチル
撮影は唐沢悟
キャスト
渡辺謙(佐伯雅行)
樋口可南子(佐伯枝実子)
吹石一恵(佐伯梨恵)
坂口憲二(伊東直也)
田辺誠一(園田)
袴田吉彦(安藤)
水川あさみ(生野)
香川照之(河村)
及川光博(吉田)
木梨憲武(木崎)
渡辺えり子(浜野)
大滝秀治(菅原)
感想
荻原浩が2004年に発表した同名小説の映画化。かつて白血病で闘病生活を送った経験のある渡辺謙が原作者に手紙を送って映画化した作品で、渡辺謙は主演とエグゼクティブプロデューサーを兼任している。映画は大きな評価を得て、22億円のヒットを記録した。
日本の映画やドラマでは「病気もの」よく言えば「医療もの」のジャンルがよく製作される。病に侵される主人公を演じるのは女性側が圧倒的に多いのだが、本作は男性側である。
物語の展開も撮り方も非常にオーソドックスであり、特段意外性もないのだが、手堅く取られた一本であると感じる。基本的にコメディ映画をよく撮っている堤幸彦を渡辺謙が指名したわけだが、こんな映画も撮れるんだなと感じた。それから大きな評価を得たように渡辺謙と樋口可南子の演技に大きく支えられた一本であろう。
アルツハイマー病、正式にはアルツハイマー型認知症。認知症にはいくつかの種類があり、その中でも最も多いのがこのアルツハイマー型認知症。さらに主人公が罹患するのは若年性アルツハイマー型認知症。アルツハイマー型認知症の患者数が約79万人で、若年性~が3.57万人である(2020年現在)。本作製作時から16年も経過してからのデータなのでおそらく当時よりも患者数は増えているだろう。本作製作時から20年近く経過しようとしているがいまだに根本的な治療薬や治療方法は確立されておらず、日本は高齢者の人口がいまだに増え続けているので、認知症に罹患する患者数も増えていくことだろう。
罹患してしまったらどうしようもない病気なんて世の中には山ほどあるが、アルツハイマー型認知症は中でも患者数が多く、体が元気であればあらゆる意味で危険である。本作の主人公には妻がいるのだが、治療にお金もかかるし、夫が仕事を辞めた以上、妻が働かなければならず、一日中付き添っているわけにもいかない。渡辺えり子演じる浜野から施設を紹介されるが、当然施設だってタダではない。むしろ家にいるよりお金がかかるだろう。
病気になればどんどん孤独になっていく。広告会社の営業マンをしているころは、社内に同僚や部下がいて、得意先に懇意にしている人がいて、一緒にキャバクラへ行くなど、仕事人間として社内外問わず多くの人間と接していた。アルツハイマー型認知症と診断されてからも仕事を続けていた佐伯だったが、得意先に迷惑をかけることが続いてしまい、ついには上司に病気のことを知られてしまう。最終的には退職することになり、みんなから見送られて会社を後にすると、以降の場面に会社の面々も得意先の課長も登場することはない。また、娘一家が孫を連れて訪れる場面こそあるが、彼らでさえも画面内に再び登場することはない。家族を顧みなかった男が娘から仕返しされているかのようだ。
さらに、手先の運動が良いとされていることから通い始めた陶芸教室では払ったはずの先月の料金を請求されたことでついには通えなくなってしまう。自分の病気を利用されて金を多めに取られそうになったのだ。ただ、そのこと自体も忘れて再び通い出すなんて意地悪な展開は待っていない(あっても良かったとは思うが)。
そんな感じで一度離れた人が再び画面内に戻って来ることはない。悲しいかな、病気なんてそんなものだろう。家族でもない限り、病気になった人間に積極的に寄り添える人間なんて限られている。それは多くの人が感じているように現実だろう。まさに妻の枝実子が結婚していない浜野に対していってしまう「あなたには分からない」がその明確な回答だろう。浜野は友達の枝実子が苦労するところを見たくないから、苦労して逆に枝実子が倒れてしまっては大変だろうから、そういった意味で施設を紹介したのだろう。医者や家族、友人などがこの夫婦に対して様々な考えや意見を持っており、それを言うこともあれば言わないこともあるだろう。何が正解かは分からない。この浜野もこの場面を最後に画面内に再登場することはない。
また、枝実子が持って帰って来たパンフレットを見て佐伯は妻には告げずに施設を見学に訪れる。そこではただぼーっとしている人もいればレクレーションを楽しんでいる人もいる。ただ、案内している職員以外の誰もが佐伯の存在を認識することはない。
そんな本作で唯一再登場するキャラクターが大滝秀治演じる菅原である。佐伯は妻にプロポーズした思い出の場所である廃窯(はいよう)を訪れる。回想シーンで登場した菅原が再び登場するのだ。そこでは菅原から人生のあれこれについて話をしてもらい、外で夜を明かすことになる。目が覚めるとそこには佐伯しかおらず、菅原なんていなかったことが分かる。何といっても大滝秀治演じる菅原の見た目がおそらく30年くらい前の回想シーンと同じなんだから。観客を騙すトリックとしては王道だがきれいにはまっている。
ラストは廃窯を後にする佐伯と、そこへやって来た妻の枝実子の場面。佐伯はついに枝実子を認識できなくなり、彼女相手に敬語で話してしまう。観客としては佐伯がいつ妻の枝実子を認識できなくなるだろうかと思っていただろうからラストでこうなるのは想定内。ただ、やはり悲しい。泣いてしまった枝実子だが、すぐに涙を拭い、佐伯に対して自分が枝実子であると告げてまたゼロから関係を構築していこうとする。二人はあの思い出のつり橋を渡る。危険な橋を渡るわけだからここには枝実子の決意が見て取れる。大事な時に寄り添ってくれなかった仕事人間の夫。それでも添い遂げることを決意する妻。これも一つの愛の形なのだろう。
やはり渡辺謙と樋口可南子という素晴らしい俳優二人によって作品の力はより増したように思う。この映画を見たからと言ってアルツハイマー型認知症を予防することも何もできないんだが、何かを忘れてしまわぬように、仮に忘れてもいいように、今生きるこの瞬間を大切にせねばと思えるだろう。また、映画でアルツハイマー型認知症を疑似体験できたら、今後もし誰かの身に同じことが起こっても冷静に判断できるかもしれない(そうはいかないのが人間の感情だが)。
ちなみに、序盤で「タイタニック(1997)」のレオナルド・ディカプリオの名前が出てこない場面があるが、後に渡辺謙は「インセプション(2010)」でレオナルド・ディカプリオと共演している。
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