【作品#0803】ネクスト・ゴール・ウィンズ(2023) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

ネクスト・ゴール・ウィンズ(原題:Next Goal Wins)

【概要】

2023年のイギリス/アメリカ合作映画
上映時間は104分

【あらすじ】

2001年のFIFAの公式戦でオーストラリアに31-0という歴代最多得点差で惨敗したアメリカ領サモアはその後も公式戦での勝利を掴めずにいた。そして、4週間後の2014年ブラジルワールドカップ予選に向けてアメリカ人のトーマス・ロンゲンが監督に就任する。

【スタッフ】

監督/製作/脚本はタイカ・ワイティティ
音楽はマイケル・ジアッキーノ
撮影はラクラン・ミルン

【キャスト】

マイケル・ファスベンダー(トーマス・ロンゲン)
エリザベス・モス(ゲイル)

【感想】

2019年11月に撮影が開始されたが、出演したアーミー・ハマーの性犯罪に関する裁判が行われることになりウィル・アーネットが代役を務めて再撮影となり、2023年の公開になった。

過去の映画についての言及が何箇所かある。新たに赴任したトーマス・ロンゲン監督を救世主だとして「マトリックス(1999)」のネオに例えたり、未熟な教え子に対する師匠として「ベスト・キッド(1984)」のミヤギの名前が出てきたり(Tシャツも出てくる)、トーマス・ロンゲン監督が部屋で見ている映画が「エニイ・ギブン・サンデー(1999)」で、アル・パチーノ演じる主人公が試合前に選手たちを鼓舞するシーンを本作の主人公が参考にしたり(選手にパクったのを見破られてしまう)している。

本作は決して実話通りではない。もちろん実話をもとにした映画が100%実話通りではないのは周知の事実である。ただ、特に本作の元ネタとなったドキュメンタリー映画「ネクスト・ゴール! 世界最弱のサッカー代表チーム0対31からの挑戦(2014)」を見た人ならその違いに首をかしげることになると思う。

まず、本作におけるトーマス・ロンゲン監督は、指揮していたチームをクビになり失業するかアメリカ領サモアの代表監督に就任するかの二択で後者を仕方なく選んだという描写になっている。そして、事ある度に「俺は辞める」といってこの仕事を投げ出そうとする。ところが実際は彼が望んで就任したようだ。こんな改変は必要か。

さらに、妻のゲイルとは別居中で同じサッカー協会の男とできており、トーマス・ロンゲン監督は単身アメリカ領サモアへやって来るというように本作で描かれている。ところがこれも違う。ドキュメンタリー映画では帯同した妻の様子も描かれている。

少なくともドキュメンタリー映画を観るに、トーマス・ロンゲン監督は確固たる信念をもって生きており、サッカーも指導している。ところが、映画では仕方なくアメリカ領サモアの代表監督に就任し、何度も仕事を投げ出そうとし、妻は他の男とできているという設定にさせられている。まるで製作者側がトーマス・ロンゲン監督に恨みでもあるのかという設定である。

アメリカ領サモア代表チームは今までに試合で1得点もしたことのない設定だが、ドキュメンタリー映画では2得点しているという話が出てくるのでこれは完全に嘘である。2得点したことがあるという事実を観客が知ってしまったとしても問題ないように思う。特にドキュメンタリー映画での描かれ方を見ると、「点を取りたい」というより「勝ちたい」という気持ちを強く感じた。

本作で唯一描かれる試合のシーンも流れが全く異なる。本作では先制された後に追いついて、そして逆転し、終了間際に与えたPKをキーパーのニッキー・サラプが防いで試合終了という流れである。実際はアメリカ領サモアが先制した後に追加点を奪い、サモアに追撃の1点を奪われるも守りきって勝利という流れである。これもドキュメンタリー映画を見て事実を知ると醒めてしまうものだ。やはりサッカー映画はスタローンが主演した「勝利への脱出(1980)」と同じくPKストップで終わらなければならないのだろうか。

にしてもここまで事実を脚色してまで本作を製作しなければならなかったのだろうか。どの改変箇所も映画を面白くする要素に繋がっていないように思う。落ちぶれた主人公と勝利を知らない未熟な選手たちが共に立ち上がる映画にしたとしてもうまく機能しているとは言い難い。

映画の冒頭と最後にタイカ・ワイティティ監督が案内人として登場する。胡散臭い恰好をしたその姿で本作の世界へ導く語りと、ちょっとしたオチを提供してくれるが、監督自ら案内人として映画に出演しなければならなかったとは思えない。ドキュメンタリー映画を基にしているが、「あくまでタイカ・ワイティティ監督の作品ですよ」と主張したかったかのようだ。そうでもしないとバランスを取れなかったのだろうか。

モデルになったトーマス・ロンゲンは、アメリカ領サモアの代表監督になりたくなかったが仕方なく就任したという設定にされ、妻とは別居中で同じサッカー協会の男とできている設定にされ、代表監督になって何度も辞めると言う男にされている。これは本人の名誉とプライドを傷つける改変になっていないか。もし、妻と別居中であるという男が選択の余地がないまま来たこともない遠方にやってきて、奇跡を起こすという話を作りたいのなら事実を改変するのではなく、そういう物語を創作すれば良い。元ネタとなったドキュメンタリー映画を見ればより一層そう思う。

全くダメな映画とは思わないが、元ネタになったドキュメンタリー映画を何一つ超えられていない。元ネタとなったドキュメンタリー映画をもし未鑑賞なら鑑賞することをお勧めしたい。

【関連作品】


「ネクスト・ゴール! 世界最弱のサッカー代表チーム0対31からの挑戦(2014)」…ドキュメンタリー映画
「ネクスト・ゴール・ウィンズ(2023)」…上記ドキュメンタリー映画の劇映画化



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【予告編】