【作品#0728】カジュアリティーズ(1989) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

カジュアリティーズ(原題:Casualties of War)

【Podcast】

Podcastでは、作品の概要、感想などについて話しています。

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【概要】

1989年のアメリカ映画
上映時間は113分

【あらすじ】

ベトナム戦争時の1966年。ミザーブ軍曹率いる小隊は途中でとある村を訪れ、二人の女性を慰安用にと誘拐してレイプする。レイプするように強要されたエリクソンはそれを頑なに断るが…。

【スタッフ】

監督はブライアン・デ・パルマ
音楽はエンニオ・モリコーネ
撮影はスティーヴン・H・ブラム

【キャスト】

マイケル・J・フォックス(エリクソン)
ショーン・ペン(ミザーブ)
ドン・ハーヴェイ(クラーク)
ジョン・C・ライリー(ハッチャー)
ジョン・レグイザモ(ディアス)

【感想】

ベトナム戦争でアメリカ軍兵士がベトナム人女性を強姦していたなんて当時から言われていた話であり、本作も1966年に発生した192高地虐殺事件を1969年にダニエル・ラングが新聞に寄稿したことで知られたものである。さらには、その翌年には西ドイツで映画化までされている。ブライアン・デ・パルマは記事を読んでから映画化を望んでいたそうだが、ベトナム戦争中に映画化することは困難であり、1980年代に入って「プラトーン(1986)」や「フルメタル・ジャケット(1987)」が成功し、さらに自身の「アンタッチャブル(1987)」の成功を受けてようやく本作の製作にこぎつけたようだ。

ベトナム戦争での悲惨な行為や残虐な行為については上述のように当時から知られており、さらには1970年代以降、ベトナム戦争映画は数多く作られてきた。ベトナム戦争ものという枠で見れば本作は割りとおとなしめであり、これほど残虐な事件であってもやや印象は薄い(たとえブライアン・デ・パルマお得意のスローモーションが銃殺シーンで使われていたとしても)。作られた事自体に意義はもちろんあるが、やはりベトナム戦争禍に作られていたらとは思う。

また、本作が成功とは言い難い要因の一つはキャスティングであろう。コメディ映画を主戦場にしていたマイケル・J・フォックスが本作のようなシリアスな作品で主演している。彼の演じた主人公は、目の前でベトナム人女性が誘拐されてレイプされる様子を目撃し、更には上官からレイプを強要されるも倫理観から断り、彼らと戦い続けている。彼の演技は決して悪くはなく、コメディ演技ばかりを見ていた観客には新鮮に映ったことだろう。

ただ、ベトナム人女性を誘拐しレイプする上官を演じたショーン・ペンやドン・ハーヴェイは言っちゃ悪いが、「そんなことしそう」な雰囲気を持ったイメージ通りのキャスティングである。戦場で悪そうな奴が悪いことをしている。すでにベトナム戦争での悪事を知られているのなら、悪そうなイメージの全くないマイケル・J・フォックスこそがショーン・ペンやドン・ハーヴェイの演じたレイプをして下士官にレイプを強要する狂った上官を演じたほうがよっぽどインパクトもあったと思う(当時のマイケル・J・フォックスのブランドイメージからすると難しいことではあったと思うが)。

マイケル・J・フォックスこそ今までに出演してこなかったタイプの映画に出演したのだからギャップはあるのだが、とはいえ映画全体を見ればかなり無難なキャスティングに見えてしまうため、ここにこそ冒険があるとよりインパクトのある作品になったように思う。

映像とテーマの関連で考えると非常に理にかなっている。主人公のエリクソンはトンネル班に配属されており、ベトコンが掘ったトンネルを発見しそれを潰すことが目的の班であることは推測することができる。そんな本作の冒頭は映画的な現代であり、映画終盤まではベトナム戦争時代を回想する形となっている。さらに、映画の冒頭でエリクソンは地下鉄に乗っており、文字通りトンネルの中にいるのだ。それから、ベトナム戦争時代の回想シーンになるとエリクソンはベトコンの作ったトンネルに落ちそうになるのだ。そんなエリクソンを助けてくれるのが上官であり後に対立することになるミザーブ軍曹である。同胞を助けたからこそ同胞にチクられることになる。

上官のミザーブ軍曹は街に出て女を買えないことに腹を立て勝手に立ち寄った村でベトナム人女性を誘拐しレイプすることになる。エリクソンはその女性をレイプするように強要されるが頑なに断り、ミザーブ軍曹やクラーク伍長から目の敵にされてしまう。そして、戦闘状態になると邪魔になったとしてその女性をミザーブ軍曹らが殺してしまう。誘拐、強姦、殺人である。こんな状況に怒ったエリクソンがアメリカ陸軍のキャンプに戻って上官に訴えるもなかなか聞き入れてもらえない。そしてついにクラーク伍長から口封じのために殺されかけてしまう。

その後、酒場で従軍牧師に事情を話したところ、調査が開始されて軍法会議が開かれ、事件に関与した4人の男らはあっさりと懲役刑を言い渡されることになる。エリクソンは世界秩序を守るためにベトナムにやってきたと本気で考えており、そんな中で誘拐、強姦、殺人が目の前で発生したことに憤慨しており、エリクソンがたとえ陸軍内で訴えたとしても周囲に聞き入れてもらえない状況こそ、トンネルの中にいるような状況だと思う。

ところが、本作はエリクソンが従軍牧師に事情を話してからが驚くほどにあっさりしている。しかも、キャンプに戻ってから上官らに訴える場面でも自分の主張が通らないことに対するむず痒さはあまりない。確かにライリーにしてもヒルにしてもエリクソンには配置換えを提案し、国が動けば国際問題に発展しかねないとして動いてくれることはない。確かにどうしようもないのだが、絶望的とまで追いつめられた感はない。ただ、従軍牧師に話してからの展開を考えると、陸軍内でエリクソンの主張が認められない展開はどう見てもあっさりしすぎている(どこか事務的に描いたようにすら思える)。

このあっさり具合とその後に悪夢から目覚めたように冒頭の電車の中の場面に戻るところを見ると、まるで彼らが捕まってからの展開は夢なんじゃないかと思えてくる。ただ、彼らが裁判にかけられて有罪となり、さらにはその後に減刑されて短い刑期で出所したことも事実である。

本作ではエリクソンが二度も「ルター派だ」と言っており、終盤に彼に話しかける牧師は「メソジスト」だと言っている。両者ともプロテスタントの一派である。ざっくりとした違いは「ルター派」は信仰に重きを置き、「メソジスト」は信仰と善行に重きを置いている点だ。ちなみに、ブライアン・デ・パルマ監督はカトリックである。

そして、映画の冒頭と終盤の現代の場面でも主人公は一人である。どこへ向かっている最中なのかは分からないが、地下のトンネルの中を走っていた電車がいつの間にか地上に出てきて、さらにはエリクソンはアジア人学生(レイプされた女性を演じたのと同じ女優が演じている)の忘れ物を渡すために電車を降りている。忘れ物を渡すために電車を降りている。これは信仰というより善行である。

エリクソンは妻子持ちであるが、妻と子供が映画内に写真も含めて一切登場しない。この手の映画なら、レイプされた女性を自分の妻や娘に重ね合わせたって不思議ではない。むしろそういった感情が主人公を突き動かしてもおかしくない。戦争に参加した者は、たとえ妻子がいたとしても孤独に感じてしまうほどの経験、トラウマになってしまった。

ベトコンと戦っていたエリクソンも、途中からベトコンと戦う場面は出てこず、同じアメリカ人と敵対している。戦争とレイプは切っても切れない関係にあり、ブライアン・デ・パルマ監督は後に「リダクテッド 真実の価値(2007)」でもイラク戦争中の少女レイプ事件を取り上げている。

作品の出来不出来が激しいブライアン・デ・パルマ監督作品の中では無難な一本。キャスティングに冒険心があれば同年代のベトナム戦争映画の中で際立つことができたのではないかと思う。




取り上げた作品の一覧はこちら



【配信関連】

 

<Amazon Prime Video>

 

言語

├オリジナル(英語/ベトナム語)

 

【ソフト関連】
 

<BD>

 

言語

├オリジナル(英語/ベトナム語)

映像特典

├エリクソンの戦争:マイケル・J・フォックスが語る
├メイキング・ドキュメンタリー
├未公開シーン