【作品#0721】私は貝になりたい(2008) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

私は貝になりたい(2008)

【概要】

2008年の日本映画
上映時間は139分

【あらすじ】

1944年の高知県で理髪店を営んでいた清水豊松は赤紙が届いたことにより戦地に駆り出されることになる。戦地では墜落したB-29の搭乗員を処刑するように上官から命令された豊松は搭乗員をひと思いに銃剣で刺すのだが…。

【スタッフ】

監督は福澤克雄
脚本は橋本忍
音楽は久石譲
撮影は松島孝助

【キャスト】

中居正広(清水豊松)
仲間由紀恵(清水房江)
石坂浩二(矢野)
上川隆也(小宮)
笑福亭鶴瓶(西沢)
草彅剛(大西)

【感想】

加藤哲太郎の手記をもとに橋本忍が脚本を書いたTBSドラマ(1話)「私は貝になりたい(1958)」は大きな反響を呼び、その橋本忍が初監督を努めた「私は貝になりたい(1959)」として映画化された。そして、約半世紀を経た2008年に橋本忍がリライトをして、テレビドラマの演出で実績を重ねてきた福澤克雄の初監督作として本リメイクが製作された。11億円の製作費に対して24億円のヒットを記録した。

まず、ファーストカットあたりから感じる偽物感。これは「ALWAYS 三丁目の夕日(2005)」でも感じたのと同じものだ。VFXを手掛けた会社が同じなのか、当時のVFXがこの程度のものだったのかは分かりかねるが、少なくとも戦前の日本のリアルを感じることはない。VFXを使って再現した「当時っぽい」日本のとある場所でしかない。映画の入り口として非常に重要な場面だが、この程度のクオリティになってしまうなら、いっそのことVFXに頼らずに演出すべきだったと思う。

そして、やはり主役にSMAPの中居くんを起用したことが大きな失敗だろう。特に序盤の家族と一緒にいる場面などに代表されるリラックスしたような場面はただのSMAPの中居くんでしかない。この明るいキャラクターが受ける仕打ちを考えると序盤の場面がSMAPの中居くんに見えても別に良いとは思う。ただ、後の主人公が受ける仕打ちの場面でも廃人のように抜け殻になるわけでもなく、中居くんが頑張って演技しているようにしか見えないのだ。

その点において、オリジナルのフランキー堺もTV版の所ジョージもそのギャップを狙ったという意味では共通しているし、意図したキャスティングであることは間違いない。ただ、中居くんにはこの落差を表現する力量がなかったと言える。これなら共演していた草彅くんの方がよっぽどいい演技を期待できたんじゃないかと思う。

また、この主人公にある程度焦点を絞った物語にしては、当時同じSMAPのメンバーだった草彅くんや「仰天ニュース」で共演していた笑福亭鶴瓶が本作に出演しているのは雑音でしかない。戦場に行ってから、そして巣鴨プリズンに行ってからというのは自分の見知らぬ他人との時間になるわけだから、テレビに多数出演する中居くんとはかけ離れた、普段共演することのない存在で固めるべきだったように思う。行く先々で「この人、○○で共演してる」と思われたら意味がない。このキャスティングも大失敗と言えるだろう。

そして、本作の本題とも言える、一般市民が戦争に駆り出され、上官の命令により捕虜を殺した(実際には殺してはいないのだが)冤罪の部分も非常に弱い。そもそも豊松は捕虜を銃剣で刺し殺すように命令されたのに、豊松の銃剣は捕虜の右腕をかすめる程度だった。後に裁判の場面で豊松は「上官からの命令を聞かなかったら銃殺ですよ」と証言している。ところが、戦場の場面で豊松は捕虜を殺せなかったのに大した処分も受けていない。この矛盾を突かれたらどう証言していたのだろうか。冤罪の部分よりもこの矛盾に対する苦悩を掘り下げたほうが面白かったようにさえ思える。

結局、豊松は捕虜を殺していないのに殺したとして無実の罪を背負うことになる。離れ離れになった家族や獄中の仲間から希望をもらったのに最終的には絞首刑になってしまう。確かにこの上ない不運なんだが、タイトルにある「私は貝になりたい」と思うほどであるかと言われるとそうは思わない。豊松の受けた精神的ダメージは計り知れないものがあるのは確かだが、理不尽というより不運という言葉が適当に思えてしまう。これならいっそのこと豊松は上官の命令により捕虜を殺してしまったという物語のほうが説得力は増したんじゃないだろうか。

家族や獄中の仲間からの希望があるからこそその落差でどん底にまで落ちるという意味合いなのは理解できるが、これほど家族や獄中の仲間が自分のために動いてくれたとなれば、最後の最後に「貝になりたい」ではなく、自分のために尽くしてくれた家族や獄中の仲間に感謝の言葉を述べたっておかしくない。こうなるくらいなら、家族はいない、もしくは家族から見捨てられる、または獄中も孤独で自分の主張を周りが信じてくれないなどしてくれた方がよっぽどラストに説得力がある。要するに、主人公がそこまで追いつめられているように思えないところが本作の最大の弱点であると感じる。

また、妻の房江が豊松のために署名集めに奔走する様子も描かれる。この様子はどう見ても橋本忍が脚本を書いた「砂の器(1974)」を思い出すに決まっている。やはり家族が頑張る様子を描けば描くほど豊松は恵まれていると感じてしまう。女性キャラクターを入れなきゃいけないなんてことはない。これなら房江は豊松を捨てて別に家族を作っているくらいのほうがオチに納得感が出たと思う。周囲の人間が頑張れば頑張るほど、親切であればあるほど、主人公が貝になるところから遠ざかっていく。

たとえ、名脚本家の橋本忍がリライトしたとしても、そもそもの物語の時点で主人公は「貝になりたい」ほど追いつめられていない。まだ、オリジナルの方がモノクロという映像的なインパクトもあってより陰な物語に仕上がっていたように思う。リメイクは映像にしても、キャスティングにしても、物語にしても良かったとは到底言い難い。

【関連作品】

「私は貝になりたい(1959)」…同年TVシリーズの劇場版
「私は貝になりたい(2008)」…リメイク



取り上げた作品の一覧はこちら



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├オリジナル(日本語/英語)

 

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<DVD(スタンダード・エディション)>

 

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├「JNN全28局キャンペーン・ダイジェスト」
├予告編集

 

<DVD(3枚組/スペシャル・コレクターズ・エディション)>

 

言語

├オリジナル(日本語/英語)

映像特典(Disc1)

├「JNN全28局キャンペーン・ダイジェスト」
├予告編集

映像特典(Disc2)

├ドキュメント『私は貝になりたい』
├キャスト&スタッフ・インタビュー(中居正広、仲間由紀恵、石坂浩二、笑福亭鶴瓶、上川隆也、橋本忍)
├舞台挨拶(製作発表、完成披露、公開初日、大ヒット御礼)

映像特典(Disc3)

├「中居正広JNN全28局キャンペーン~本当に全部周るの貝!?~」

封入特典

├ブックレット
├ポストカード