【作品#0599】アルゴ(2012) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

 

アルゴ(原題:Argo)


【Podcast】

Podcastでは、作品の概要、感想などについて話しています。


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【概要】

2012年のアメリカ/イギリス合作映画
上映時間は120分
※エクステンデッド版は130分

【あらすじ】

1979年11月、イランのテヘランでは、イラン革命の影響でアメリカ大使館が占拠され人質が取られる事件が発生した。その選挙直前に6人のアメリカ大使館職員はカナダ大使館の公邸に匿われることになった。彼らを救出するためにCIAのトニー・メンデスは「アルゴ」という架空の映画のロケハンのスタッフに化けさせてテヘランから脱出する作戦を指揮することになる。

【スタッフ】

監督はベン・アフレック
製作はジョージ・クルーニー
音楽はアレクサンドル・デスプラ 
撮影はロドリゴ・プリエト 

【キャスト】

ベン・アフレック(トニー・メンデス)
ブライアン・クランストン(ジャック・オドネル) 
アラン・アーキン(レスター・シーゲル) 
ジョン・グッドマン(ジョン・チェンバース) 
ヴィクター・ガーバー(ケン・テイラー) 
カイル・チャンドラー(ハミルトン・ジョーダン)
フィリップ・ベイカー・ホール(スタンスフィールド・ターナー)※ノンクレジット 

【感想】

史実を元に描かれた本作は、ゴールデングローブ賞ではドラマ部門の作品賞と監督賞を、アカデミー賞では作品賞含む3部門を受賞した。ただ、アカデミー賞ではベン・アフレックが監督賞にノミネートすらされなかったことも話題になった。4.5千万ドルの予算に対し、全世界で2億3千万ドルのヒットを記録した(日本では3億円程度)。

本作は劇場公開時に一度鑑賞し、そして2023年4月にベン・アフレック監督の新作「AIR/エア(2023)」が公開されるとのことで見直してみたのだが、何とも「トップガン:マーヴェリック(2022)」のようなお話である(もちろん本作の方が先に製作されているのは重々承知だが)。主人公が不可能に近い任務に取り組み、当初はまとまらないチームも何とか動き出し、主人公の危機に対して主人公を一番敵視していた人物が救ってくれる。任務が成功に終わるとみんなで抱き合って大喜び。最後にキャストの静止画が流れるところまで同じである。さらに、下記の「エクステンデッド版」では、「劇場公開版」と主人公トニー・メンデスの登場シーンが異なる。劇場公開版では、寝ているところを電話で起こされるというものであったが、エクステンデッド版では主人公の行う人質救出チームが不要であると言われるところである。「トップガン:マーヴェリック(2022)」でも主人公の行う戦闘機の有人飛行が不要であると言われるところが序盤にあるわけだから、エクステンデッド版を鑑賞するとより上記の感想を強く抱くことになるだろう。

そんな本作だが、演出や展開は王道に王道を重ねたような作品である。だからといって退屈であるわけでは一切なく何なら一級の娯楽作になっている。序盤にイランの成立から1979年に発生し1981年に解決したイランアメリカ大使館人質事件に至るまでの流れを絵コンテ風の演出を交えて紹介している。歴史の説明は退屈になりそうだが、絵コンテ風の演出にすることで印象を和らげ、そして後に偽映画の絵コンテが登場するわけだから二重に意味のあるオープニングになっている。また、歴史的な事情を知らずに見たとしても理解できるような誰にでも理解できる作品になっている。

イラク市民がアメリカ大使館へ乗り込む寸前に、5人の職員は建物を後にするが、その際にキャシーが階段を降りる前に触れるポスターにはその当時完成して10年ほど経過していたニューヨークのワールド・トレード・センターが映っている。これはこの当時の出来事が2001年のアメリカ同時多発テロ事件へ繋がっていくという意味合いである。

CIAがカナダやハリウッドと協力し偽映画をでっち上げ、カナダ大使私邸にいる5人のアメリカ大使館職員をそのロケハンクルーに仕立て上げて連れて帰ってくるというのは、題材の勝利とも言えよう。この設定だけでも十分に興味をそそられる。3ヶ月以上もカナダ大使の私邸にこもりっきりだった5人のアメリカ人が意を決して外に出て、バレるかバレないかの演出さえ間違えなければ盛り上がるに決まっている。特に終盤のバレるかバレないかの攻防は釣瓶打ちのごとく畳み掛けていく。映画的な脚色があったとしても許容範囲内であるし、飛行機がイラン領空を出てアルコールの提供が可能になると、5人のアメリカ大使館職員は抱き合って喜び合い、トニー・メンデスは静かに少し微笑む程度であるところも良いし、そこで流れるハリウッド伝統の壮大な、でも少し謙虚な音楽も素晴らしい。

アラン・アーキン演じるプロデューサーは、ジョン・ウェインが亡くなって半年が経過したことを嘆いている。本作のトニー・メンデスのような人物はまさにアメリカ人好みの人物と言えよう。たとえ上司の命令を無視したとしても正義のために戦うヒーローである。これぞアメリカ人好みのキャラクターであり、近年ではあまり描かれなくなってきたキャラクターである。

また、トニー・メンデスは妻と10歳になる息子がいるが、別居中であり、遠く離れた場所にいる。アメリカから遠く離れたイランでの人名救出任務を担う主人公が、最後に会いたかった息子のもとに向かう姿とも重なり、偽映画「アルゴ」の脚本に重なるところもベタだが、アメリカ映画らしくて良い。ただ、妻と不仲というわけではなく、取り返すというよりかは和解するところに着地しているところも心地よい。

そして、何かになりすますことも各所との協力を仰ぐところも映画製作と重なってくる。トニー・メンデスもアメリカ大使館職員も偽映画のロケハンクルーとして身分を偽り、各人が与えられた設定を頭に入れ、それになりきるわけだからこれが演じるという映画以外のなにものであろうか。また、CIAに所属するトニー・メンデスがCIA内だけでなく、国務省、ハリウッドのメイクアップアーティストやプロデューサーなど各所と連携して作戦遂行に向けて進んでいくところも、映画が多くの関係者と連携を取って作り上げていくところとも重なる。

それから、その偽映画のロケハンクルーとして空港まで辿り着いた彼らが、疑いをかけられてから絵コンテでもって映画の内容を説明していくところや、その様子に同じアメリカ人だけでなくイラン人までもが見入ってしまうところに映画という万国で楽しまれる娯楽であるというところを強く感じる。

何とかアメリカ大使館職員を救出したトニー・メンデスは帰国して上司から「大統領に表彰されるぞ」と言われるが、秘密作戦だったために表彰自体も秘密裏に行われることになる。彼は自分が表彰される姿を息子に見せたかったがそれは叶わない。スーパーヒーローがたとえ人の命を救っても自らの素性を明らかにできないところとも重なる。それでも最後は別居中の妻と息子がいる家に会いに行き、父親としての姿を取り戻すことに成功する。まだ幼い息子からすれば父親が表彰されることの価値なんて分からないだろう。そんなことより一緒に居てくれることの方が大切だ。もちろん彼の仕事を考えると息子が一緒に居てほしいタイミングで居てくれるとは限らないが。

ベン・アフレック監督の確かな演出、音楽や編集などの要素も相まって、一級の娯楽作品に仕上がっている。かつての強いアメリカを取り戻そうとするかの如く、作品からは力強さも感じられるし、関係した各人へのリスペクトも感じる。本作が好きならベン・アフレックの後の監督作「AIR/エア(2023)」も好きになるだろう。

【エクステンデッド版】

劇場公開版よりも10分長いバージョンで、市販のBDで視聴することができる。会話を1ターン増やしただけの箇所もあれば、1シークエンス丸ごと追加されている箇所もある。

劇場公開版ではラストに初めて登場するトニー・メンデスの妻がエクステンデッド版では序盤から何度も登場することになり、下記の音声解説でもトニー・メンデスの妻を演じたテイラー・シリングの演技が素晴らしく、映画のテンポを落とさないために彼女の場面を止む無くカットした話もしている。ラストで彼らが抱き合うシーンは劇場公開版とエクステンデッド版では印象が大きく異なることになっている。

また、トニー・メンデスの初登場の場面が別に用意されていたり、息子との電話の場面が劇場公開版と違っていたりする。本作が好きなら実際に見て違いを確認しても良いと思う。

【音声解説】

参加者

├ベン・アフレック(監督/製作/トニー・メンデス役)

├クリス・テリオ(脚本)


上記2名による対話形式の音声解説だが、8割がたベン・アフレックが話している。演出の意図、CIAでの撮影、実写とCGの組み合わせ、即興演技、実際に撮影したがカットした場面の話、表向きに知られている事実と実際、「大統領の陰謀(1976)」へのオマージュなど分かりやすく語ってくれる。

【関連作品】


「最後の猿の惑星(1973)」…トニーが作戦を思いつく契機となる作品で、彼と息子がテレビで本作を見る場面がある。



取り上げた作品の一覧はこちら

 

 

 

【予告編】

 

 

【配信関連】

 

<Amazon Prime Video>

 

言語

├オリジナル(英語/ペルシャ語/ドイツ語/アラビア語)

 

<Amazon Prime Video>

 

言語

├日本語吹き替え

 
 
 

 

【ソフト関連】

<BD>

 

言語

├オリジナル(英語/ペルシャ語/ドイツ語/アラビア語)

├日本語吹き替え

 ※日本語吹き替えは劇場公開版にのみ収録

本編

├劇場公開版

├エクステンデッド版
音声特典

├ベン・アフレック(監督/製作/トニー・メンデス役)による音声解説

 ※劇場公開版にのみ収録
映像特典

├人質救出作戦の舞台裏

├ピクチャー・イン・ピクチャー

├監督:ベン・アフレック

├アルゴ:CIAとハリウッドの共同作戦

├イランからの脱出:関係者が語る真実

 

<4K ULTRA HD+BD>
 

収録内容

├上記BDと同様